第31話「6限目 : 赤い稲妻 / 奪還作戦」
「テメェらに逃げ場なんざ、ハナからねぇんだよ」
ブリッツの声で、教室全体に緊迫感が伝播する。
「何でお前が……ここにいるんだ!?」
俺の問いに対し、ブリッツはルシファーとアイを見ながら答える。
「何でって……、決まってんだろ?」
次の瞬間、ヤツの瞳孔が異常なほど開かれた。
「昼休みにお前等の話し声が聞こえてよぉ、絶好の機会だって思ったからだぁ!」
そう言ったヤツの左腕には、今に泣きそうなルナの顔があった……。
「絶好の機会って……あなたまさか、ルナを!?」
ルシファーが固有マギア”シュバリエッタ”を出現させ、ブリッツに狙いを定める。
彼女の能面のような表情に、俺は背筋が凍る。
感情を失うくらいキレてるぞ、コレ……!
「さあ恋慕の大司教様よぉ、交渉といこうじゃねぇか」
ヤツが右手をアイの方に向ける。まるで手に取ろうとするかのような、気味の悪い動きで。
アイの顔から血の気が失せる。
イグドラのときもそうだったが、彼女はこういうのに滅法弱い。
「条件は?」
ルシファーが淀み無く答える。まるでこうなる事を予測していたかのように。
「アイを差し出せ。だったら、このガキは返してやるよ」
コイツ、やっぱ諦めてなかったんだ……!
「わ、私……!?」
アイが瞳孔が大きく揺れる。
(冗談じゃないわよ……!でもあの子が……!)
彼女はルナの泣きじゃくる姿を見て、自分と目の前の人質とで葛藤しているようだった……。
俺はブリッツを凝視する。
入学式から薄々とそんな気はしていた。だが、まさか人質をダシにするとは……!
アイは反逆チームに必須の存在。それはルシファーにも分かっている、分かってはいるが……!
俺の中から物申したい気持ちが込み上げてきたが、ケツの穴をギュッと締めて堪えた。
ハッタリじゃない、圧倒的な存在感……!!
産毛がチリチリと音を立てるかのような感覚……
ダメだ……今の俺じゃ……!
(何で……何で…!いつも二の足を踏んじまうんだ……!!?
)
勝利のビジョンも、無鉄砲さも、虚空に消え去る……。
「ブリッツくん!」
すると、マナが前に出る。
「ルシファーさんが、ううん……学校が許すわけないよ、こんなこと!」
彼女のしたことは、ただの説得。しかし、出来ることをしたんだ、多分。
「マナ……」
だが、瞬きした瞬間――彼女の身体が激しく宙に吹き飛んだ。
「――!!マナ!」
地面に激突する彼女を、紙一重で受け止める……!
「雑魚が出しゃばるのは、賢い選択じゃねえなぁ……!」
何が起こったのか理解できない程のスピード。
「速い……速すぎる……!!」
ヤツの軌跡は、赤い稲妻のように抉れていた。
「わかるよなぁ、恋慕。条件を飲むフリして攻撃……なんて無粋な真似は無意味だって」
そう言うと、今度はルナの首を締め上げた……!
「アガッ……!やっ……いやっ……!」
この男……暴力に何の躊躇もない!
「さあどうした?!早く決めねェと愛しの妹君がお人形さんになっちまうぞぉぉ!!?」
ヤツの右腕に、血管が浮かび上がる……!
「ルナ――ッ!!」
ルシファーが焦りの入り混じった叫びをあげた――
――その瞬間、俺の耳元に冷たい息が吹きかかった。
「大丈夫よ、ゲート……皆。私は大丈夫」
何かを諦めたような、それとも覚悟したような表情か……。アイが俺達の前に躍り出す。
「おい……まさかお前!?」
「分かったわ……、私をあげる。だから、その子を解放しなさい……!」
冷たい空気が、俺達の前に吹き抜けた。
「その言葉を待ってたぜ、アイィィ……!」
ブリッツは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「オラ、約束通り返してやる」
ヤツが乱暴にルナを突き飛ばす。
「キャッ――!?」
だが間一髪、ルシファーがキャッチした。
ブリッツはアイの腕を掴んで窓から轟音と共に消えていった……。だが去り際、何故かアイの目は生き生きとしていたように見えた… …。
雷雨が過ぎた後のような静けさに包まれながら、俺は拳を握りしめて、立ち尽くしていた。
(ルナの為に……皆自分の出来ることをしたのに、俺は動くことすら出来なかった……ッ!)
授業初日にして、学園での目標の一つを達成した。だが大きな空虚が、俺達の心に開いていた。




