第27話「2限目 : 学園の闇――黒薔薇をよく知れ」
〈帝暦2030年 9月1日 21時20分 王都総合学園近辺 下宿先にて――〉
メビウスが連れ去られた後、俺達は彼の無事を祈り続けていた。
「やっぱこんな事、あっていいはずがねェ……!!」
俺は思わず大声を上げた。それだけやるせなかったんだと思う。
「そうよね。あんなの、存在を否定されるようなものだもん……!」
アイの顔は曇りきっていた。その顔にはメビウスが気の毒という事だけではなく、あの学園に対する疑念が大いに籠もっていた。
「たった今、学園からメッセージが届いたわ。メビウスは無事で、もうすぐ帰ってくるそうよ」
スマホの画面を見せながら、ルシファーがいいニュースを伝えてくれた。
「ホント、頼りになるぜ」
俺は彼女に笑いかけた。持つべきものは心強い味方だな。
「とにかく、今は情報が足りない。入学初日から厄介なヤツが3人も出てきたんだ、これまで以上にうまく立ち回らねェと……!」
他の3人が頷いたと同時に、インターホンが鳴り響いた。
恐らく……というか確実にメビウスだ!
「私が出ます!」
そう言ってソニアが扉を開けた途端、大きな身体が玄関に崩れ落ちた。
「メ、メビウス!どうしたのよ、そのケガ……!?」
アイがすぐ駆け寄ってアイシングする。それを見た俺とルシファーが急いで救急セットを取りに行った。
メビウスの身体はまるで拷問を受けたかのように、青痣・切傷だらけだった……。
「回復系マギアを使うって程じゃないけど、酷いわね……」
「メビウスさん、まさかあのサングラスの人たちに……!?」
ソニアの怒気が揺れる。
「もしそうだとしたらPTA案件だぞ、コレ」
彼の姉がこんなことを命じたということ……やはりあの学園は相当黒い――!
手当をしてもらっている間、メビウスは自らに起こったことを話してくれた。
「僕はあの後、奴らに生徒指導室へと連れて行かれ、尋問を受けた。生徒会長――姉様に無礼を働いたのは何故かとね……」
メビウスは帝国の第3皇子。当然、その姉のエルシア会長も皇族というわけだ。
メビウスは拳を握りしめながら続ける。
「身分が割れているのに、敢えてそんな事を聞くのかと怒りを思えながらも、正直に答えたよ。そしたら――」
彼が包帯で巻かれた右手を擦る。
「奴ら、ナイフで右手を刺したんだ……!”嘘つき、これくらい当然だ”って……剣を抜くか迷ったけど、流石に君たちにこれ以上負担をかけさせたくなくて……。その後1時間ほど、殴られ蹴られを繰り返して、学園から弾き出されたよ」
その内容に、俺達は腸が煮えくり返るような怒りを覚えた。
「ふざけんなッ……!!」
よくもまあ、教育機関を名乗れたもんだ……!反吐が出る……!
「ひどいですよ……!実の弟に、そんな仕打ちを命じるなんて!」
ソニアの家族愛は本物だ。それだけに、彼女からこんな言葉が出て来るのは辛い。
「……彼らを血祭りにあげましょうか?」
「ルシファー、私もそう思っていたところよ……」
アイとルシファーも憤慨していた。
「まあ待ってくれ。初日から退学にはならなかったし、僕も大人しく拷問を受けていたわけじゃないさ」
ここからが本題と言うかの如く、メビウスが不敵に笑った。
「いくつか分かったことがある。まず、あのサングラス達は教員じゃなくて、外部の人間だ。姉様が先生方ではなく、皆さんって言ってたからね」
なるほど……。
「つまり、奴らはエルシアのSPといったところかしらね……」
ルシファーが考察する。小さな気づきで見えてくるものがあるのだから、侮れない。
メビウスは笑みを浮かべたまま、話を続ける。
「そして、恐らくだけど………校長は敵ではないよ」
衝撃の一言。
「なん、だと……!?」
ソニアの疑念、黒薔薇の剣からの警告――全部無意味だっていうのか……!?
「まあ聞いてくれ。姉様が式場を去っていく時、校長が僕の方を心配そうに見ていたんだ。他が侮蔑や恐怖に満ちた目で見る中、一人だけね。もちろん、まだ断定はできないけど」
ほんと、メビウスの洞察力に感心する。お陰で校長をマークするウエイトを減らせるかもしれない。
なら、これからすべきことは――!
「……よしッ!!」
俺は声を上げる。
「学園生活の傍ら、情報収集と戦闘訓練……!楽しくなってきたぜ」
「うん!姉様を取り戻して――」
メビウスが口を開く。
「ルナを迎えに行き――」
続いてルシファー。
「優等生になって皇帝に接触……!」
アイとソニアが同時に俺の方を向く。
俺は皆を見て締めの一言を叫ぶ!
「さあ、反逆開始と行こうか!!」
こうして、俺達は改めて行動を開始するのだった。
〈23時頃――〉
「アイ、聞きたいことがある」
俺は下宿先のベランダにアイを呼び出した。
「黒薔薇の剣のこと、もっと詳しく教えてくれ」
そう言って、黒薔薇の剣の鞘に手を置く。
アイは今更かと言わんばかりの呆れ顔を見せた。
そりゃそうだ。今までほとんど肉体強化しかせず、この剣に特殊能力があるなんて思ってもいなかったのだから。
だが、そんな脳筋プレーの段階はもう過ぎた。
「頼む……!」
俺は頭を下げた。
「オッケー★」
一瞬、沈黙――ではなく、すぐに答えが返ってきた。アイがノリノリでウィンクする。
いつもだけど………返事が軽すぎる!
――だが、この時
アイには見えていたのだろうか?
俺の背後に、多くの人影が立っていたのを――。




