第25話「0限目 : 戦慄の入学式」
居間全域に、衝撃が走る――。
「まさか……生徒のトップが皇族とはな」
そう言って、俺はメビウスの横に腰掛ける。
伝達係の件といい、メビウスのあの取り乱し様。何となくそんな気はしてたけど……。
(生徒会長が仲間になれば、皇帝の情報が手っ取り早く掴めるか……?)
そう考えていると、ショッピングモールでのメビウスとの会話が浮かび上がってきた。
「そういえば……メビウスの姉が、皇帝に奪われたって言ってたよな?」
俺の問いに、メビウスは唇を噛み締めながら頷いた。
「アイツは……!姉様の心を弄んだ……!」
余りの気迫に、彼の身体からドス黒いものが吹き出しているようだった。
「だから僕は……何としてもあの学園に入学して、姉様を奪い返す……ッ!!」
ソニアが、ヒィッと声を上げる。
……俺はそんなメビウスの姿を、自分と重ねて見ていた――。
「お取り込み中のところ悪いけれど、話を続けさせて」
重苦しい空気を、ルシファーの声が掻き消した。
ナイスだ、ルシファー。
「重要なことを2つ述べましょう」
そう言って、彼女は右手の人差し指を突き立てた。
「1つ目。私達は原則、3チームに分かれて行動すること。
①皇帝に近づくために優等生を目指すチーム、
②生徒会長奪還チーム、そして……
③妹のルナを迎えにいくチーム」
一瞬、皆の頭が混乱する。
俺は自分の耳を疑った程だ。
「ルナが、学園にいる……?そんなこと言ってたっけ!?」
その様子に、ルシファーは面白そうにクスクス笑う。
くっ……!可愛い――いや、でもクスクス笑いは止めて頂きたい。
彼女は笑いながら話しかける。
「ふふっ、ごめんなさい。詳しく話していなかったわね」
「”ホーリーナイトメア”の時、私がルナに化けてたでしょ?実は、本物は事件の3日前に学園に預けていたの」
それを聞いたソニアはホッとしたように息をついた。
「ソニアはルナのこと、本当の妹のように可愛がっていたもんな」
多分、皆はこう思ってる。
(((ニセモノだったけどな)))
「でも、ルナちゃんをどうやって説得したの?」
アイがルシファーに質問する。何か納得出来ないような面持ちだ。
「確かに、偽ルナの性格は本物に寄せているはず。だとすると、ルシファーがする所業を聞いて成り代わりに賛同するとも思えない……。どうなんだ、ルシファー?」
俺は少し鋭い視線を、ルシファーに向けた。
「それはね……♡」
彼女はニィっと笑い、俺に近づく。
「2つ目の重要ポイントと関連しているの……♡」
つま先でステップを踏みながら、何か語り始めた。
「身分を隠すには、相応の対応が必要」
「お、おう……?」
「そして、ルナとの約束……恋バナは普遍のロマンス。その2つを満たせる答えは……♡」
……続けて発せられた内容に、俺達は呆気に取られる。
「「「「はあああああ!??」」」」
とんでもないモノを背負わされ、俺達は入学式を迎えることになる――!
※ ※ ※
〈帝暦2030年 9月1日 8時40分 王都総合学園 校門前にて――〉
晴天の青空をバックにそびえ立つ純白の外壁……見上げる程の巨大で、華やかな祝福のアーチ――
――そして周囲の視線と羞恥心。
まさか校門をくぐることが、こんなカタチになるとは……!
え、何を言っているんだって?
紺色の制服姿のルシファーを先頭に、制服を着た俺達4人がついて行く――”首輪”をして。
そういう事だ。
「この反逆者ゲート……最も恥ずべき状況に今、陥っているッ!」
なんという仕打ち……!手が首を掻きむしり始めた。
「ルシファー……もっといい方法があったでしょ!?私はごめんよ!」
鈴付きの首輪をしたアイが、顔を真っ赤にしてルシファーに噛み付く。
「反逆者であるあなた達と、”恋慕”の大司教という私の立場。そしてルナとの約束を無碍にしないという鉄則……これが最善だと判断したまでですよ、子猫さん♡」
ルシファーがニッコリとする。
……つまり。
「俺達反逆者は、大司教様の下僕としてなら怪しまれることも無く、堂々と入学ができて……」
俺は首輪を整える。
「『ゲート君を手に入れるため』という約束を果たした事を、証明するため……僕達はペットになった、ニャン」
メビウスが、表情を無くして”ニャン”と呟く……。
仮にも帝国の皇子様が、あられも無い姿になろうとは……。
冷やかし、驚き、アイやソニアを愛玩動物のように見る目……そんな視線でいっぱいの門をくぐり、式場に向かう。
一瞬、桃色の髪の女子とすれ違ったが、余裕の無い俺達は気にも止めず進んでいった。
「あの人が反逆者なんだ……意外」
全く聞こえなかったが、彼女はそう言って自分の席に戻っていった……。
「お、おめでとうございま〜す……」
言葉に困った教員達に一礼しながら、俺達は席に着く。
お互いバツが悪い顔をしてただろうと考えていた
――その時だ。
「おやおや〜?なんてしけた顔をしているんだ、忠犬殿?」
金髪のサラサラヘアーにタレ目の男が、俺を見下すように近づいてきた。
男はニヤリと顔を寄せる。その顔は、プライドと優越感で歪みきっていた――。
「負け犬反逆者、ゲェェトォォ……!クククッ……!」
――後になって思い返すと、この学園での2つの出会いが、本当の反逆の始まりだったんだ。




