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第23話「デイブレイク」



――ああ、やっと断ち切ることができたんだ……。


(でもあれ……?視界が……白く……?)


ルシファーの笑顔を見て緊張の糸が切れてしまったのか、俺は彼女にもたれかかるように倒れた――。



   ※       ※       ※



 「……何処だ、ここ……は?」


海……?俺、沈んでるのか……暗い海の底に……。

海底から伸びるどす黒い腕が、俺をさらに沈めようと掴みかかる――。


これが、”死”ってやつなのか……?

 


(ああ……これは、罰なのか……?いやダメだ、約束……また破っちまう……ッ!!またルシファーの顔を、曇らせちまう……ッ!!)


俺は腕に引きずり込まれながら、必死に抵抗する。

「は…なせ……!このッ――」


だが……力が抜けていく――。

(抗わない……と……。また……みんなに……あ……わ――)

血を失った身体が、冷たくなっていく――。


「チキ……ショウ……ッ」


悪態をついた――その時だ。


『――ソウジ!』

海面から声が届く。

優しい声。

『ゲート……!』

『ゲート君!』『お兄ちゃん!』

『兄様!』『ソウジ君!』


色んな声……ああ!


「皆……!」

俺は振り絞るように右手を上に掲げる。

それに呼応するかのように、赤黒い茨が右手に巻き付いた。

茨は黒い腕をはじき飛ばしながら、俺をそのまま引き上げる。


海面に顔を出すと10,11人?くらいの人影が立っていた。

「なっ……!?」

俺は思わず驚愕する。人影達の手には、俺の持っている黒薔薇の剣が握られていた。


「抗え少年……俺達は見ているからな――」



  ※        ※       ※



〈帝暦2030年 7月7日 6時30分 ナイトメア邸 庭園にて――〉


 「――ジ、ソウジ!」


「ハッ!!」


目が覚めると、俺はルシファーの顔を見上げていた。

「よかったぁ……!また約束を破るんじゃないかって心配したんだから……っ!」

ルシファーは大きな溜息をついた。

腰を上げると、庭園にはソニア、ミハイル、ツバサさん、ジェームズさん、メビウス……レイス夫人。


そして――


「バカっ!!」


冷たくて温かいビンタをかますアイの姿。


その顔は……怒っているようで、泣いていた。

「ゲート……!」

アイが震えるように声を出す。

その声は怒りだけではなく、心配も籠もっていた。

彼女が飛びかかった……!


「ちょっ、待って――!」

思わず目を瞑って身構える。


だが、それは失礼だとすぐ理解した。


感じたのは痛みではなく……温もりだった。


「アンタはまだ……死んじゃダメよ……っ!」


――アイの抱擁が、俺の緊張を溶かした。


本当、最後まで皆に迷惑かけちまったな……。


「皆、ごめんな」

俺は皆に謝る。

すると、ルシファーが立ち上がった。

「……皆様、この度は誠に申し訳ございませんでした」


「愛に執着した醜さ。もはや、ナイトメア家の門を跨ぐことすら許されないでしょう」

ルシファーは、深々と謝罪する。


「いや、それは俺のせい――」

俺の言葉を、ジェームズさんが遮る。


「顔を上げなさい、ルーシー」


ジェームズさんの声は穏やかだ。


「ルーシー……」

レイス夫人がルシファーの手を取る。

「確かに、あなたのやった事は重いけれども。それでも、あなたは私達の愛する娘よ」


ルシファーから涙が流れる……。


「お父様……お母様……私……っ!」

俺は自分を捨てた両親の事を考えながら、そんな親子の絆を眺めていた。


「……これが、家族愛ってやつかな」

メビウスは隣に来る。

……愛。ちょっとだけ背中がこそばゆくなる感覚がしたぜ。

「彼女の罪、君も背負うだろ?もう恋慕が暴走することもないはずだ。ちゃんとしなよ、相棒?」


昇り始めた太陽が、悪夢からの解放を祝福しているようだった…。


  ※        ※        ※


 その後――


俺とルシファーが主体となって、ナイトメア邸の再建、執事オズマの葬儀などを行った。

この出来事は”ホーリーナイトメア”として、世間に公表される……筈だった。


「……やっぱり、この世界は歪んでいるわね」

アイが呆れる。


「一族の過ちってことで明るみには出ない……か。まあ身内で起こった出来事、犠牲者一人……何より首謀者がカテナ教会の大司教……帝国にとっては、公表したらやぶ蛇なのかもな」


 俺達はこの悪夢を経て、新たなステージに進み始めた。


〈2日後―― 7月9日 9時16分 ナイトメア邸 正門にて――〉


「お元気で!」

俺達は別れの挨拶をする。


「また、会えるといいわね」

見送りに来てくれたのは、レイス夫人だけだった。


まあ……他の皆は、事件の後始末などで色々と忙しそうだったからな。


「私もあなた達に協力します」


俺達が屋敷を去り、歩いている最中、ルシファーが口を開く。


「私とソウジが最後まで傍にいると約束した以上、私の罪を償うためにも……!」


彼女はそう言って皆を見つめる。

「ルシファー……」

そこへ、アイが口を挟む。

「でも、あなたって大司教でしょ?反逆に加担するつもり?」


確かに……裏切り行為に等しいもんな。

「どうなんだ、ルシファー?」

俺の問いに、彼女は眉一つ動かさず答える。

「私にとって、ソウジとの約束は何よりも最優先。だから、あなた達が知りたいことも、包み隠さず教えるわ」


「成程……大司教が仲間になれば、僕たちの反逆は大きく進むね」

メビウスが同意する。


「……そうね」

アイも渋々頷いた。

そして、ルシファーの手を取り微笑む。

「よろしくね、ルシファーちゃん!」


ん〜?目が笑ってないぞ〜?


「……言っとくけど、ゲートの相棒はこの私だから」

アイが俺の首を締め上げながら挑発する。


「ぐ………ッ!!ストップ!ストップ!」


……おいおい、早々喧嘩とか止めてくれよ!?


「相棒は僕だけど?」


「メビウスーーッ!口を挟むな〜〜!!」


そんな何処か間の抜けた雰囲気の中、ソニアはたった一人険しい顔をしていた……。

「あの……ルナちゃんのこと、誰も触れていませんでしたが、本物のルナちゃんは……?」

その問いに、ルシファーの表情が強張る。

「……ソウジ。あなたの推理に

2つ、だけ付け加えておきましょう」


「……何だよ?」


「まず一つ、私は改造の恩恵でテレパシー能力、任意で身体機能を止める能力を得たの。私が変身したのは生命の大司教の発明品のお陰。2つ目は……」


彼女は静かに笑みを浮かべ、2本めの指を立てた。


「ルナ・レイス・ナイトメアは、死んでなどいない」


その言葉は、あらたな悪夢の始まりを意味していた――。


   ※      ※       ※


〈アルトリア帝国時間 10時27分 中華公国 王宮にて―― 〉

「また資源を輸出しろだと……!?アルトリアめ、我ら中華公国を更に弱体化させるつもりか……!」

議長らしき男が苛立ちを隠せずテーブルに当たる。


「我が君主は幼い故、我らが対処しなければなりません……。それにしても、脅し程度で我々がアルトリア帝国の傀儡になると、本気で考えているのでしょうか……?」

部下と思われる女性がたしなめつつ、心情を吐露する。


「あの皇帝レク――」

男がそう言いかけた時。

『その名を口にしたな、愚か者め』

男の冷たい声が何処からともなく響き渡った。

『貴様らは計画の密を啜るに値しない。ゆえに人形と成り果てよ――!』

「な、何だ……!?何処にいる……つ!!」

「これは……テレパシー……!?」



2人が慌てふためいていると、女の声が加わる。

まるで全てを支配してしまうような、圧倒的な美声――。

「う……あ……」


『ドミネート』

女の声がそう唱えると、中華公国の2人はその場に崩れ落ちた。


『これで、中華公国は完全に我らの傀儡と成り果てましたね……陛下』

冷たい青年の声が淡々とこだます。

それと同時に、倒れていた2人がゆっくりと起き上がり、敬礼を始めたのだ。

「アルトリア帝国に捧げよーっ!」

「我らは皇帝陛下の忠実なる下僕!」


「「ロングライブ・アルトリア!!」」


アルトリア帝国の皇帝が世界を支配しているというのは、嘘ではなかったのだ。


 俺達の知らないところで、支配の根は着実に広がっていた――。



  ※        ※        ※




〈同時刻 王都ワルキュリー 会議室にて―〉


まるで学校の校長室のような落ち着いた雰囲気の部屋に、片眼鏡を掛けた中年の男が手紙を見て笑う。掴みどころのないその姿は、渋いイケオジとも、胡散臭い男のようにも見える。


「承知した。恋慕の大司教殿……犬4匹と共に、あなたの入学を許可しよう」


 次回より、青春という名の地獄が、幕を開ける――!




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