第22話「贖罪」
〈午前2時10分 ナイトメア邸2階 子供部屋にて―〉
「俺は…さ、最後の最後まで自分で思い出すことができなかった…!」
俺は血を吐きながら本音をぶつける。
それを聞いたルシファーの手が、首をさらに強く絞める。
「これ以上私を弄ぶというの…?!」
そして俺を思い切り投げ飛ばす。
「グハッ……!ゴホッ、ゴホッ…!」
満身創痍の俺の姿は、とても美しいとは言えなかった。
正に彼女の心を弄んだ、俺の悪意の化身…とでも言うべきだろうか。
「醜い姿ね…。私が愛したソウジは…もういない。」
ルシファーは諦めたかのように、ビット兵器を飛ばす。
ビームを撃たれながら…血を流しながら…俺は理解した。
世界の悪意だけじゃない…。人は無意識の悪意を撒き散らしているのだと。
だったら尚更…俺は抗わなきゃならない…!!
「…ル…シ…ファァァァ!!」
俺はルシファーのところへ…つまりビームの雨の向こう側に、剣で払うこともなく、避ける事もせず、一歩…もう一歩と進んでいく。
焼けるような痛みで意識が保てる。
出血なんて…どうでもいい――!!
「お前は…俺が憎いよな…?」
俺はルシファーに問いかける。
彼女の瞳が、僅かに揺れる。
「憎いわよ…!それが…」
「遺言かしら!?」
彼女の叫びと共に、シュバリエッタが襲いかかる。
鋭い槍が突き刺さる…筈だった。
シュバリエッタが動きを止めた――。
俺が右腕で奴の槍を掴み、力を込めていたからだ。
やがて右腕に赤黒く、刺々しいオーラが絡みつく…。
「失せろ…!」
それと同時、奴の槍が粉々に砕けた――!
「信じられない…!あの身体で…?!」
ルシファーは驚愕する。
この力は…覚悟…?それとも火事場の馬鹿力ってやつなのか…?
「何でもいい…。」
そうだ…そんなことはどうでもいい!!
「俺は…歪んだ世界の悪意に反逆した。だが…今抗い、断ち切るべき悪意は、俺の中にあった…。」
俺はゆっくりと、しかし確実にルシファーに近づいていく…。
その姿に、ルシファーは動揺していく…。
「…何の…話をしているの…?!もう……終わりでいいでしょ…?!」
「…ゴフッ…!いいや…終わらせねェ…!」
俺は遂にルシファーの目の前に辿り着く。
そして……
「…えっ――?」
俺は…ルシファーを抱き締めた。
彼女の服が、血で汚れる。
「ソウジ…!?は、離しなさい…!!」
ルシファーは血塗れの腕を振りほどこうとする…。
しかし、何故かそれを振りほどくことができない。
「ルシファー…。」
俺は彼女の頭を、胸に抱き寄せる。
彼女は困惑する。何故急にこんなことを始めたのだろうと。
「ルシファー…。俺は4年前、世界の悪意で両親を失った…らしい。でも俺自身の悪意で……大切な人を失いたくない…!」
「おこがましいのは承知の上だ。俺のことを愛してくれた人の心を…ゴホッ…憎しみに染めてしまった。お前は約束を守ろうとしたのに…。だから憎んで当然だ…。」
「今更…嫌よ…嫌!」
そんなルシファーの言葉とは裏腹に、彼女の腕は、振りほどく素振りを見せなかった――。
俺の血が止まってゆく…。まるで、流す血が枯渇してしまったかのように…。
それでも、話すのを止めない。
「だから…殺してくれても構わない。それで憎しみが晴れるなら…。」
「ゴフッ…お前が大人になって……!家族ができて……!年を取って…息を引き取るときも…俺は隣に居続ける…!」
「お願い…ルシファー。もう一度だけ、約束を聞いてほしい…!」
そして…最後の力を振り絞り、ルシファーに伝える―。
「もし憎しみ以外の感情が残っているのなら…これからずっと…お前の傍に、いさせてください……!」
ルシファーは何も答えなかった。ただ、俺の胸に涙をこぼし続けた。
それは血のように赤くない、透き通るような涙だった。
――やがて、ルシファーが震えながら、口を開く。
「ズルいよ…。」
彼女が顔を上げた。
そしてその顔は…闇が晴れたかのように美しかった。
「もう次はないからね…?」
涙が、彼女を照らす――。
「――約束だよ…ソウジ…!!」




