第21話「ルシファー」
〈午前2時00分 ナイトメア邸2階 子供部屋にて―〉
……俺は肝心なところを聞き逃してしまった。
教会で…何だってんだ…?!
(教会…6年前…ルシファーと…)
―ダメだ、思い出せない…!
死を覚悟して、俺はルシファーに聞き返した。
「ごめん…。もう一度頼む、教会でお前と何をするのかを!」
ルシファーは暫しの沈黙の後、攻撃の手を止めた。そして愛憎と共に、その約束を今一度俺にぶつけた。
「教会で一番偉い人になったら…私とずっと一緒にいようって…約束したのよ、バカ!!」
彼女の目は…憎しみと過去の記憶で揺らいでいた…。
『あなたがどれだけ罪深いか、教えてあげる…!』
彼女がそう言うと、突然俺の頭に何かが入ってくる―!
「これは…ルシファーの記憶…?!」
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〈帝暦2024年 3月 ソウジがアイに出会う約2年前―〉
「ごめんねソウジ…。暫くあなたと遊べなくなっちゃうわ…。」
私はあのとき、彼に別れを告げに行った。
私の一族―ナイトメア家は、秀でた存在を特に輩出したことのない、下級貴族だった。しかし、私という特異点が生まれたことによって、運命は大きく動き出した。
私は幼いながらも、近所に住むソウジという少年に恋焦がれていた…。
「どんな人が好きなの?」と聞くと、決まって
「すごい人!」と、私の目を真っ直ぐ見て答えるのだ。
私はそんな彼の理想になりたいと常々考えていた。
そして今まさに、カテナ教会の大司教へと進む片道切符を手に入れ、故郷を離れて王都に向かう途中にソウジの家に寄ったのだ。
「そうなのか〜、残念…。でもやっと目標が叶ったんだな、ルシファー。おめでとう!」
彼は少し寂しそうな顔をしつつも私の門出を祝福してくれた。
「ありがとう…行ってきます。」
私はお礼をいって去ろうとした…
その時だった。
「ルシファー!!」
先程別れを告げた筈のソウジが呼び止めた。
これ以上は蛇足じゃないかしら…?
しかし、彼の口から出た言葉は、蛇足なんてものじゃなかった―。
「―教会で一番偉い人になったら、俺がずっと傍で支えるよ!約束だ!!」
――それが私を変えてしまった。
なんて罪な人…!
この言葉が、私の希望であり、呪いとなった。
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〈午前2時01分 ナイトメア邸2階 子供部屋にて―〉
ルシファーの記憶に、俺は言葉の責任の重さ…そして罪悪感に囚われた。
「そんなっ……俺は……なんてことを…!」
力が抜け、俺は膝から崩れ落ちる。
「無責任な人間でごめん…ルシファー…。」
それを見たルシファーは、静かに声を荒げる。
「もっと早く言ってほしかったわ…その言葉を…!」
「私が正式に大司教となって実家に帰ったら、あなたは行方不明。私の心を滾らせた…!」
彼女の瞳から、赤い涙が流れる。
「そして最近…王都に現れた反逆者があなただって知った時は嬉しくて嬉しくて…!」
「でもあの女は何…?」
血涙で赤く染まった瞳が、俺を食い入るように見る。
次の瞬間、待機していたシュバリエッタがオールレンジ攻撃を仕掛けてきた…!
「ぐ…あ…!」
(アイの…ことか…!)
両膝を貫かれ、その場に座り込む。しかし、すぐさまルシファーが俺の首を掴み、無理やり引き起こした。
「あなたがあの女と行動を共にしているのを見てたのよ…ショッピングモールのときからずっと…!」
ルシファーが俺の首をより強く締め上げる…!
「あ”…が…っ…!」
ルシファーの辛さが…痛えほどわかる…!
「どうして約束を守ってくれなかったの…?!」
そしてルシファーの愛憎が、臨界点に達する――。
「どうしてっ!!」
「私を迎えに来てくれなかったのよっ!!?」
意識が朦朧とする中…罪悪感と自己嫌悪に飲まれながらも、
俺は贖罪と悪夢を終わらせるため、ルシファーの手を掴む。
「ル…ジ…ブァ”ー…!聞いで…ぐ…れ…!」
俺は血を吐きながらハッキリと答える…。
「ゴフッ…!俺の…贖罪を”…!」
ルシファー…そして皆。
この屋敷の悪夢も――ルシファーを苦しませた無責任な悪意も――
俺が、この手で断ち切るッ!!




