第21話「ルシファー」
〈帝暦2030年 7月7日 2時00分 ナイトメア邸 2階 子供部屋にて――〉
……俺は肝心なところを聞き逃してしまった。
教会で……何だってんだ。
(教会――6年前――ルシファーと――)
――ダメだ、思い出せない……!
死を覚悟して、俺はルシファーに聞き返した。
「ごめん……。もう一度頼む、教会でお前と何をするのか!」
ルシファーは沈黙の後、攻撃の手を止めた。そして愛憎と共に……その約束を今一度、俺にぶつけた。
「教会で一番偉い人になったら、私とずっと一緒にいようって……約束したのよっ、バカ!!」
彼女の目は憎しみと、過去の記憶で揺らいでいた。
『あなたがどれだけ罪深いか、教えてあげる――っ!』
彼女がそう言うと、突然俺の頭に何かが入ってくる――!
「これは、ルシファーの記憶……!?」
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〈帝暦2024年 3月25日 ソウジ(ゲート)がアイに出会う約2年前――〉
「ごめんねソウジ……。暫くあなたと遊べなくなっちゃうわ」
私はあのとき、彼に別れを告げに行った。
私の一族であるナイトメア家は、秀でた存在を特に輩出したことのない、下級貴族だった。しかし、私という特異点が生まれたことによって、運命は大きく動き出した。
私は幼いながらも、近所に住むソウジという少年に恋焦がれていた……。
「どんな人が好きなの?」
と聞くと、決まって
「すごい人!」
と、私の目を真っ直ぐ見て答える。
私はそんな彼の理想になりたいと常々考えていた。
そして今まさに、カテナ教会の大司教へと進む片道切符を手に入れ、故郷を離れて王都に向かう途中にソウジの家に寄った。
「そっか〜〜、残念!でも、やっと目標が叶ったんだなルシファー!おめでとう!」
彼は少し寂しそうな顔をしつつも私の門出を祝福してくれた。
「ありがとう……ッ、行ってきます!」
私はお礼をいって去ろうとした……
その時だった。
「ルシファー!!」
先程別れを告げた筈のソウジが呼び止めた。
これ以上は蛇足じゃないかしら……?
しかし、彼の口から出た言葉は、蛇足なんてものじゃなかった――。
「――教会で一番偉い人になったら、俺がずっと傍で支えるよ!約束だ!!」
――なんて罪な人。その言葉が私を変えてしまったの。
この言葉が、私の希望であり、呪いとなった。
大司教となった人間は、人としての身体に別れを告げ……皇帝陛下の計画の実験体として、改造される――
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〈2時01分 ナイトメア邸 2階 子供部屋にて――〉
ルシファーの記憶を見た俺は、言葉の責任の重さと罪悪感に囚われた。
「そんな……ッ、俺は……何やってんだ……ッ!」
力が抜け、俺は膝から崩れ落ちる。
「無責任な人間でごめん……ルシファー」
それを見たルシファーは、静かに声を荒げる。
「もっと早く言ってほしかったわ……その言葉……っ!」
「私が正式に大司教となって実家に帰ったら、あなたは捨てられて……そのまま行方不明って」
彼女の瞳から、赤い涙が流れる。
「でも最近……王都に現れた反逆者があなただって知った時は、嬉しくて嬉しくて……!」
彼女はそのまま、恍惚とした表情で血涙で赤く染まった瞳を、俺を食い入るように近づけた……。
「あの女は何……っ!?」
次の瞬間、待機していたシュバリエッタがオールレンジ攻撃を仕掛けてきた……!
「ぐああッッ!!」
(アイの……ことか!)
両膝を貫かれ、その場に崩れ落ちる。しかし、すぐさまルシファーが俺の首を掴み、無理やり引き起こした。
「あなたがあの女と行動を共にしているのを見てたのよ……っ!ショッピングモールのときから、ずっと!!」
ルシファーが俺の首をより強く締め上げる……!
「あ”……がぁ……ッ!!」
ルシファーの辛さが……痛い程わかる……!
「どうして約束を守ってくれなかったの……!?」
そしてルシファーの愛憎が、臨界点に達する――。
「どうしてっ!!」
「私を迎えに来てくれなかったのよっ!!?」
意識が朦朧とする中…罪悪感と自己嫌悪に飲まれながらも、
俺は贖罪と悪夢を終わらせるため、ルシファーの手を掴む。
「ル……ジ……ファ”ァ”……ッ!聞いで……ぐれ……ェ……!」
俺は血を吐きながらハッキリと答えた。
「ゴフッ…!俺の…贖罪を”…!」
……ルシファー、そして皆。
この屋敷の悪夢も、ルシファーを苦しませた無責任な悪意も――俺が、この手で断ち切るから――。




