第20話「彼女との約束 / 愛憎の天使」
〈帝暦2030年 7月7日 ナイトメア邸 2階 子供部屋――〉
あまりの豹変ぶりに、俺は言葉が出ない。
「まさか、忘れたとか言わないわよね……?」
更に詰められ、思わず後ずさってしまう。
考えなければ……!全てを丸く治める為にも……!
(どうする!?忘れたとかバカ正直に答えたら全滅するに決まってる!思い出せ……せめてキーワードだけでも…!)
「黙ってないで答えて」
ルシファーが苛立ちを露わにした。
もう、時間がない……!
その時、ジェームズさんとの会話の記憶が蘇った。
(ハッ……!)
反射的に、俺は口を開く。
「お、お前の騎士になる……」
その言葉に、ルシファーは表情を緩める。
(せ、正解だった……のか!?)
俺の心臓は今も騒がしいままだ。
それに対し、ルシファーは何故か無言のまま。
「……ル、ルシファー?」
すると、ルシファーが静かに笑い始めた。
「ふふふっ……流石ね、ソウジ」
どうやら正解みたいだ。思わず緊張が解れた。
「じゃあルシファー、このまま――」
俺はルシファーの手を取ろうと腕を上げた――
その時だった。
「私のこと、全然見てない」
同時に、二本のビームが俺の左腕と脇腹を貫いた――!
「ガハッ……ァ!な、何で……!?」
間違いだったのか!?
……チキショウ!!
ルシファーは天使の様な物体と共に、宙に浮く。
「……何で思い出せないのよ」
彼女の涙が、俺の額に触れた……。
「無神経なソウジなんて……大っ嫌い!!」
そう言ったルシファーの顔は、悲痛なものだった。
(ルシファー――俺がそんな顔にさせたって言うのか……!)
『あの人を殺しなさい、”シュバリエッタ”!!』
すると、その物体ははっきりとしたシルエットに変化する。
まるで、白い天使を模した、聖騎士型のロボット……。俺と同じくらい、いやその倍のサイズ。
右手に槍を持ち、翼からは2基……どころか8基のビット兵器が飛び出した!
次の瞬間、容赦なくビームの雨が振り注いだ!
『テージウィンド……!』
俺は加速する……!
だが…先ほどのダメージの影響と、幼馴染に拒絶された動揺で、数秒遅れてしまった。
「ぐあああッッ!!」
ヤバい……!内蔵がやられた!
銃口は小さい方だが、貫通力が伊達じゃない……!
だが止まれない、止まっちゃならない!
俺は血を吐きながらビームの雨をすり抜けようとする……。
その時、急接近するシュバリエッタの姿が。
「なっ!?」
防御――!
直後、耳をつんざくような金属音が轟いた。
だが、間一髪。俺の黒薔薇の剣は、俺の心臓と奴の槍の間に割り込んだ……筈だった。
なんと奴は剣をごと、俺を吹き飛ばしたんだ!
俺の体は壁にぶつかり、そのまま隣の部屋に突き抜けていった。
「――!!」
間髪入れず、オールレンジ攻撃が牙を向く!
俺は急所を避けつつ凌いでいく……。だが、ただでさえ肺と腎臓をやられている状態に加え、出血と左腕使用不能。ダメージが、蓄積していく……。
だが……身体が鈍くなろうと、俺は思考のキレを落とさない……!
(今の俺じゃ絶対に勝てない…!助けを呼ぶか…?いやそれだけはダメだ…!これは俺とルシファー…いや俺の問題だ!)
俺がボロボロになっていく様を、上から見下ろしていたルシファーと、目が合う……。
俺の横からは、ビームの雨と共にシュバリエッタが襲いくる…。
(約束を思いだせないなら、それまで時間を稼ぐしかない!!)
俺は壊れた肺に追い打ちをかけるかのように、大声で叫ぶ。
「ルシファァァァ!!!」
シュバリエッタの槍を壊れた左腕で受け流しつつ、俺は続ける……!
「何でお前はあの時、死んだふりが出来たんだ!?」
ペンデール・ロザリオの茨を張り巡らせ、トランポリンみたく避けながら疑問をぶつける。
「……どうでもいいでしょ、そんな事」
ルシファーの表情は険しいままだ。
茨がビームで切られ、俺は体制を崩す。
「ぐお……ッ!」
時間稼ぎにもならない……か。
俺は覚悟を決める。
(恥も外聞もないが……!)
「ごめん!!!」
――俺は、戦場で土下座をした。
「俺はお前の約束を……ゴフッ……!思い出せない……!」
それを聞いたルシファーは、何処か諦めたような表情になる。
「だから!!」
「教えてくれ、お前との約束を……!!!」
思いがけない言葉に、ルシファーが驚愕する。
「教会で……私と………よ」
やがて、彼女は静かに呟いた。




