第18話「紡いだ氷/これで決まりだ」
※ ※ ※
【SIDE : ゲート】
〈22時14分 ナイトメア邸 1階 庭園にて――〉
「……え?」
庭園を歩いていた俺の頬を、崩れる音のした方から冷たい何かが掠めた。
そしてそれは俺の後ろの岩に突き刺さる。
「攻撃、じゃないな……」
俺はすぐさま振り向く。
ミハイルとツバサさんもこっちに来た。
そこに刺さっていたのは、手紙が閉じ込められた氷の塊だった。よく見ると、凍りついた血が付着している。
「この氷、アイからか……!?」
だが血の付着具合が穏やかじゃない。満身創痍でこれを放った、そんな付き方だった。
顔がみるみる青ざめていく感じがした。
「マズい!今すぐ助けに行かなきゃ――」
俺は何かが起きたであろう居間に向かおうとする。
「……あっ!待ってください、ゲートさん!」
しかし、手紙を見たミハイルがそれを止めた。
「この文字……ルシファー姉様のものです!」
その顔は確信に満ちていた。
(ということは、これはルシファーが与えたヒントで、それを俺に伝えるために……!?)
俺はが手紙を読み上げる。琥珀みたいになってるせいで、読みづらかったが。
「……"この私、ルシファー・レイス・ナイトメアは、この屋敷にはいません"……何だと!?」
そんなもん、探しようが……!
「……なあツバサさん、これってまさか」
俺の指差した一文字に、恐らくアイの血でマークされたような跡があった。
『…この私、ルシファー・レイス・ナイトメア” は ”、この屋敷にはいません』
" は "のところだけ、手紙に直接血が付着していた。
「ええ、確かにそう見えますね……」
ツバサさんが答える。
ヒント……名前……言葉遊び……血のマーカー……
俺の脳が、アイの伝えたかったことを導き出した!
「ルシファーの目的からして、そもそも俺に見つけてもらわなきゃ話にならない。だからアイツはこの屋敷に潜んでいる!そして、この血に染まった” は ”の指す意味って言うのは――!」
俺の言葉に、ミハイルはハッとする!
「兄様、まさか……!?」
「ああ。奴はルシファーとしてではなく、別の何かに変身して紛れ込んでいる……。そして、その姿は絶対に見つけられるもの……!」
そして、両腕を広げてこう締める。
「それは……この屋敷にいる人間だ!」
アイが命を賭けてこれを伝えてくれたんだ……無駄にはしない!
「ですが、その肝心の誰なのかが分からないと……」ミハイルが難しい顔をする。
「それを今から解き明かすんだよ」
俺はブザーを鳴らす。
(残る謎は……
①何故子供部屋でミハイルだけ殺害されなかったのか
②誰なのか
③俺とルシファーの約束)
俺の鼓動が、加速する―!
「待ってろルシファー、ここからがハイライトだ!」
※ ※ ※
〈22時56分 ナイトメア邸 1階 庭園にて――〉
俺は残っている他のチームを呼び寄せ、これまでの経緯を話した。
「アイさん達を助ける人員の確保、そしてルシファーが誰のフリをしているかを突き止めたい……そういう事だね、相棒?」
流石メビウス、話が早くて助かる。
「ソ、ソウジ君……まさか、私達を疑っているわけじゃないだろうね!?」
ジェームズさんは混乱状態だ。実の娘に末っ子と妻(正確には生死不明)を殺られたことによる精神的ダメージは、限界に近づいていた。
「アイお姉ちゃん……!もう、嫌だよ……!!」
ソニアも憔悴してしまっている。
「だからこそだ。今、皆に確かめたいことがいくつかある!この悪夢を終わらせる、確認事項だ」
俺は頭を下げる。
「俺とルシファーの揉め事に巻きこんで、本当にごめん!俺のせいで、関係ない皆が苦しむ姿を見たくない……!」
誰も音を立てない。その苦痛の中、俺は言葉を続けた。
「……でも一人じゃ解決できない。情けないのは承知の上だ、頼む!力を貸してください……!!」
恐ろしいほどの静寂の後、穏やかな声が俺の耳に届いた。
「顔を上げなさい、ソウジ君」
顔を上げた先にいたのは、涙をジェームズさんだった。
「私も皆も、誰も君を責めたりなんかしないさ。むしろ、君を希望だと思っているんだよ」
その言葉に、他の皆が頷く。
「ルーシーを止められるのは、君しかいない。彼女の”騎士”なら、当然の事だ」
「騎士……?」
そんなワードが出てくるとは思わなかったので、俺は一瞬訝しげな顔をした。
「私達は君に協力するよ、ソウジ君。だから頼む、ルーシーを……家族を愛する優しい娘を取り戻してくれ!!」
「私からも頼みます!メイドとしてではなく、ツバサとして!」
ツバサさんがジェームズさんの想いを繋ぐ。
「ルナが憧れた姉様を……お願いします!」
「アイさん達のことは」
「私達に任せて!」
そしてミハイル、メビウス、ソニアと繋がる。
俺は熱いものが込み上がっていく感覚を噛み締めながら、皆の目を見て想いのバトンを受け取った。
「任せてくれ……!」
※ ※ ※
〈23時38分 ナイトメア邸 2階 子供部屋にて――〉
冷たくなった2つの遺体しかない血塗れの部屋に、黒薔薇の剣を持った俺が足を踏み入れた。
「よぉ、待たせたな」
俺は遺体に剣を向ける。
「密室で複数の銃撃……儀式の開始直後からの死亡……。全く、お陰で気づくのが遅れた」
俺は続ける。
「犯人は2人。それも片方は人間じゃない……」
「何よりルナ……お前は3年前、既に死んでいる!」
俺はルナの遺体を睨みつける。
「お待たせ……」
「”ルナ”――いや、”ルシファー”!!」
すると――
「ソウジ……どうして分かったのかしらぁ……?」
死んだ筈のルナの口角が、大きく上がった。
ルナの姿をした身体が浮き上がり、みるみる大きくなっていく。
数秒後、ルシファーと共に純白の天使の様な物体が出現する!
そして物体の翼から2つの何かが分離し、ビームを放った!
「やっぱり、オールレンジ攻撃だったわけか……!」
俺は急所をギリギリで躱す。
2本のビームは、子供部屋の壁を突き破って親指サイズの穴を空けた。
その様子を見ながら、ルシファーは恍惚の表情を浮かべながら語りかける。
「さあ、ソウジ。命懸けのお話をしましょ……♡」




