第5話「慟哭と反逆 : 前編―救えるのは一人だけ―」
数分前――
「ゲート2、人に寄生した”悪意”は……宿主の体内に根を張って、生命力を奪いながら支配してるの」
アイは息を切らした俺に、奴らの解析結果を伝えた。
「ゼェ……ゼェ、やっぱッ……そうか!!」
ここまでは想定済み。
「……あのね、ゲート。ソニアの侵食は内臓まで達してる。でも助かる見込みはあるわ。後遺症が残るか否かは、あなた次第だけど」
「……ああ、ホラ吹きにはならねぇよ。」
生半可な覚悟でできるかよ、そんなこと……!
アイの顔が、急に曇り出す…。
「ただ、ヨハンは……」
そしてアイが口にした衝撃の事実に、俺は絶句する。
「ヨハンに張られた悪意の根は……脳まで侵食してしまってるの。だから……今動いてるヨハンは、悪意に侵された死体なの……!」
は……?それって――
「……できても、一人だけってことか……?」
アイは噛み締めるように、ゆっくりと頷く。
「…、そうか」
ちくしょう……、ミッションは失敗だ……!
だが、それでもだ。
「……それでも、抗い続けるのが反逆者だろ?一人は助かる、それだけで十分だ!」
ヨハン……お前の力、貸してもらうぞ……!
※ ※ ※
―現在
「さあ――ここからが俺のハイライトだ。」
飛び出した俺は、勢いを殺しながらひらけた場所に着地する。脇腹と脛が軋む音がしたが、問題ない。
俺は剣先を正面に向け、まだ活きている左目で目標を見据える。狙う先は……ソニアの心臓だ。
次の刹那――
俺は一直線に飛び出したッ!!
無論、悍ましい触手が襲いかかる。
無数の攻撃が、俺の身体を削っていく……。
だがな……!
「これでいい、このまま突っっ切るッ!!」
そして、剣先が彼女の胸のすぐ傍まで迫ったとき、
胸から突如5本目の触手が飛び出す!
「……!!」
無ずすべもなく、俺は脳天を貫かれた――
と、誰もが思った。
「甘いなああッ!!」
俺の雄叫びと同時に、額から氷が砕け落ちた。
そして、アイのサムズアップ。
そう、俺は予めアイに急所を守る氷の防具を着けてもらっていた。(便宜上ではあるが)悪意の具現化……
悪辣なことをすると読んだ……
「読みに勝った……!」
その勢いのまま、俺は黒薔薇の剣をソニアの心臓に突き刺す!
「さあ、フィナーレだ……!」
俺は目をカッと見開く!
『ペンデール・ロザリオ!!』
マギア発動と同時に、剣から放たれた無数の赤黒い茨が、ヨハンの肉体と、2人に寄生した悪意に突き刺さる!次の刹那、奴らから生気が抜けていく!
ソニアについた悪意は、奪われる生命力を補おうと、根を張ったソニアから根こそぎ吸い取ろうとする――
しかし……
ソニアの身体はむしろ、突き立てた剣先を中心にその血の気を取り戻してゆき、悪意の根は枯れていく……!
「お前らの負けだ。」
俺は奴らに向かって吐き捨てる。
「この剣の貪欲さは異常だ……。寄生虫ごときの吸収なんて、あくびが出るほどにな!」
一瞬、ヨハンの方を見る。
もう脳を侵され、抜け殻同然のはず……
しかし、なぜか彼の表情は穏やかだった。
それを見届けた俺は、剣に力を込める――!
「ヨハン……!ソニアは大丈夫だ、眠れ……」
そして…ありったけを込めるかのように俺は悪意にこう叫ぶ…!
「お前ら…ソニアの明日になれええええええッッ!!」
言い終えると同時に、悪意どもは言葉にならない断末魔をあげ、黒い霧となって消滅した――。
――1時間ほど経っただろうか。
「――んっ……、あれ……お姉、ちゃん……?」
ソニアは目を覚ました。
……アイの膝の上で。
「……えっとぉ、これはいったい……?」
彼女は飛び起きて辺りを見回す。倒壊寸前のホテル、自身の破れたワンピース、そして――
穏やかな顔で息絶えた、父親の姿……。
「いって……しまったのですね……」
彼女は静かに口を開いた。まるで、こうなることを知っていたかのように……。
そして彼女は歩き出した。
そして、俺の腰にしがみつき――静かに涙を流した。
俺はガラス細工に触れるかのように、彼女の頭をそっと撫で続けた。アイも駆け寄り、そっと抱きしめる――。
幼い少女の静かな慟哭が、日が昇るまで響き続けた……。
――朝。日の光が壊れた天井に差し込んできた頃に、ソニアはようやく落ち着いてきた。
彼女の目は、涙で赤く染まっていた。
……俺はそんな彼女に対し、聞くのをためらってしまいそうだったが……アイの顔を見て、決心する。
「ソニア……」
俺は一呼吸置いて、口を開く。
「あの化け物と君たち親子のこと、話してくれないかな……?」




