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氷結の黒薔薇―世界を塗り替えよ、氷の少女と共に―  作者: 香辛凌
第2章『王都編-オープニング-』
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第5話「慟哭と反逆:前編―救えるのは一人だけ―」


――――――――――――――――――――――――


数分前―


「ゲート…。2人に寄生した”悪意”は、宿主の体内に根を張って、生命力を奪いながら支配してるの。」


やっぱりそうか…。


アイは続ける。

「…あのね、ゲート。ソニアの侵食は、内臓まで達してる…。でも助かる見込みはあるわ。後遺症が残るか否かは、あなた次第だけど。」


「…ああ、ホラ吹きにはならねぇよ。」

生半可な覚悟でできるかよ…!

そう思った矢先…


アイの顔が、急に曇り出す…。

「ただ、ヨハンは…」


そしてアイが口にした衝撃の事実に、俺は絶句する。


「ヨハンに張られた悪意の根は…の、脳まで侵食してるのよ。だから…今動いてるヨハンは、あの悪意に侵された抜け殻なの…。」


は…?何つった今…?!

それって―


「…できても、一人だけなんだな。」

アイはゆっくりと頷く…。


ミッションはもう失敗だ…。


いや、それでも…


「やらない後悔よりも…やって後悔、だろ?…できることがある。それだけで十分だ…!」


ヨハン…お前の力、貸してもらうぞ…!


――――――――――――――――――――――――


―現在


「さあ――ここからが俺のハイライトだ。」

飛び出した俺は、勢いを殺しながらひらけた場所に着地する。脇腹と脛が軋む音がしたが、問題ない。

俺は剣先を正面に向け、まだ活きている左目で目標を見据える。狙う先は…ソニアの心臓だ。


次の刹那―

俺は一直線に飛び出したッ!!


無論、悍ましい触手が襲いかかる。

無数の攻撃が、俺の身体を削っていく…。


だがな…!


「これでいい、このまま突っっ切るッ!!」

そして、剣先が彼女の胸のすぐ傍まで迫ったとき…

胸から5本目の触手が俺の脳天を貫いた―はずだった。


「甘ぇんだよぉ!!」


俺の雄叫びと同時に、額から氷が砕け落ちた。

そして、アイのサムズアップ。


そう…


「想定済みだ!」

その勢いのまま、俺は黒薔薇の剣をソニアの心臓に突き刺すっ!

「さあ、フィナーレだ…!」

俺は目をカッと見開く!


『ペンデール・ロザリオ!!』


マギア発動と同時に、剣から放たれた無数の赤黒い茨が、ヨハンの肉体と、2人に寄生した悪意に突き刺さる!次の刹那、奴らから生気が抜けていく!

ソニアについた悪意は、奪われる生命力を補おうと、根を張ったソニアから根こそぎ吸い取ろうとする―


しかし…

ソニアの身体はむしろ、突き立てた剣先を中心に彩りを取り戻してゆき、悪意の方は色褪せていく一方だ…!


「お前らの負けだ。」

俺は奴らに向かって吐き捨てる。


「この剣の貪欲さは異常だ…。寄生体如きの吸収なんぞ、あくびが出るほどにな!」

一瞬、ヨハンの方を見る。


もう脳を侵され、抜け殻同然のはず… 


しかし、なぜか彼の表情は穏やかだった…。


それを見届けた俺は、剣に力を込める―!


「ヨハン…ソニアは大丈夫だ、眠れ…。」


そして…ありったけを込めるかのように俺は悪意にこう叫ぶ…!


「お前ら…ソニアの明日になれええええええッッ!!」


言い終えると同時に、悪意共は言葉にならない断末魔をあげ、黒い霧となって消滅した―。


―1時間ほど経っただろうか…


「―んっ…、あれ…お姉…ちゃん…?」

ソニアは目を覚ました…アイの膝の上で。

「…えっとぉ…これはいったい…。」

彼女は飛び起きて辺りを見回す。倒壊寸前のホテル、自身の破れたワンピース、そして―


穏やかな顔で息絶えた、父親の姿…。


「いって…しまったのですね…。」

彼女は静かに口を開いた。まるで、こうなることを知っていたかのように…。

そして彼女は歩き出した。

そして、俺の腰にしがみつき―


―静かに涙を流した。


俺はガラス細工に触れるかのように、彼女の頭をそっと撫で続けた。アイも駆け寄り、そっと抱きしめる―。


幼い少女の静かな慟哭が、日が昇るまで響き続けた…。



――――――――――――――――――――――――


―朝。日の光が壊れた天井に差し込んできた頃に、ソニアはようやく落ち着いてきた。


彼女の目は、涙で赤く染まっていた。


…俺はそんな彼女に対し、聞くのをためらってしまいそうだったが…アイの顔を見て、決心する。


「ソニア…。」


俺は一呼吸置いて、口を開く。

「あの化け物と君たち親子のこと、話してくれないかな…?」


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