第5話「慟哭と反逆:前編―救えるのは一人だけ―」
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数分前―
「ゲート…。2人に寄生した”悪意”は、宿主の体内に根を張って、生命力を奪いながら支配してるの。」
やっぱりそうか…。
アイは続ける。
「…あのね、ゲート。ソニアの侵食は、内臓まで達してる…。でも助かる見込みはあるわ。後遺症が残るか否かは、あなた次第だけど。」
「…ああ、ホラ吹きにはならねぇよ。」
生半可な覚悟でできるかよ…!
そう思った矢先…
アイの顔が、急に曇り出す…。
「ただ、ヨハンは…」
そしてアイが口にした衝撃の事実に、俺は絶句する。
「ヨハンに張られた悪意の根は…の、脳まで侵食してるのよ。だから…今動いてるヨハンは、あの悪意に侵された抜け殻なの…。」
は…?何つった今…?!
それって―
「…できても、一人だけなんだな。」
アイはゆっくりと頷く…。
ミッションはもう失敗だ…。
いや、それでも…
「やらない後悔よりも…やって後悔、だろ?…できることがある。それだけで十分だ…!」
ヨハン…お前の力、貸してもらうぞ…!
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―現在
「さあ――ここからが俺のハイライトだ。」
飛び出した俺は、勢いを殺しながらひらけた場所に着地する。脇腹と脛が軋む音がしたが、問題ない。
俺は剣先を正面に向け、まだ活きている左目で目標を見据える。狙う先は…ソニアの心臓だ。
次の刹那―
俺は一直線に飛び出したッ!!
無論、悍ましい触手が襲いかかる。
無数の攻撃が、俺の身体を削っていく…。
だがな…!
「これでいい、このまま突っっ切るッ!!」
そして、剣先が彼女の胸のすぐ傍まで迫ったとき…
胸から5本目の触手が俺の脳天を貫いた―はずだった。
「甘ぇんだよぉ!!」
俺の雄叫びと同時に、額から氷が砕け落ちた。
そして、アイのサムズアップ。
そう…
「想定済みだ!」
その勢いのまま、俺は黒薔薇の剣をソニアの心臓に突き刺すっ!
「さあ、フィナーレだ…!」
俺は目をカッと見開く!
『ペンデール・ロザリオ!!』
マギア発動と同時に、剣から放たれた無数の赤黒い茨が、ヨハンの肉体と、2人に寄生した悪意に突き刺さる!次の刹那、奴らから生気が抜けていく!
ソニアについた悪意は、奪われる生命力を補おうと、根を張ったソニアから根こそぎ吸い取ろうとする―
しかし…
ソニアの身体はむしろ、突き立てた剣先を中心に彩りを取り戻してゆき、悪意の方は色褪せていく一方だ…!
「お前らの負けだ。」
俺は奴らに向かって吐き捨てる。
「この剣の貪欲さは異常だ…。寄生体如きの吸収なんぞ、あくびが出るほどにな!」
一瞬、ヨハンの方を見る。
もう脳を侵され、抜け殻同然のはず…
しかし、なぜか彼の表情は穏やかだった…。
それを見届けた俺は、剣に力を込める―!
「ヨハン…ソニアは大丈夫だ、眠れ…。」
そして…ありったけを込めるかのように俺は悪意にこう叫ぶ…!
「お前ら…ソニアの明日になれええええええッッ!!」
言い終えると同時に、悪意共は言葉にならない断末魔をあげ、黒い霧となって消滅した―。
―1時間ほど経っただろうか…
「―んっ…、あれ…お姉…ちゃん…?」
ソニアは目を覚ました…アイの膝の上で。
「…えっとぉ…これはいったい…。」
彼女は飛び起きて辺りを見回す。倒壊寸前のホテル、自身の破れたワンピース、そして―
穏やかな顔で息絶えた、父親の姿…。
「いって…しまったのですね…。」
彼女は静かに口を開いた。まるで、こうなることを知っていたかのように…。
そして彼女は歩き出した。
そして、俺の腰にしがみつき―
―静かに涙を流した。
俺はガラス細工に触れるかのように、彼女の頭をそっと撫で続けた。アイも駆け寄り、そっと抱きしめる―。
幼い少女の静かな慟哭が、日が昇るまで響き続けた…。
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―朝。日の光が壊れた天井に差し込んできた頃に、ソニアはようやく落ち着いてきた。
彼女の目は、涙で赤く染まっていた。
…俺はそんな彼女に対し、聞くのをためらってしまいそうだったが…アイの顔を見て、決心する。
「ソニア…。」
俺は一呼吸置いて、口を開く。
「あの化け物と君たち親子のこと、話してくれないかな…?」




