八話 逃げる魔王級。
我ながらやり過ぎである。森がだいぶ割けてキノコが砕けて散っている。ゴブリンの集落辺りまで流されてそう。
いやガチチートだろ。分け身がチートで収納がチートで掛け算したら超チート。分体をアホみたいに増やすことで戦術が増えるならもっと増やそう。へへへ。
「ボク怒ってんですけどぉ〜」
アンリがキレてる。キレてる? なんか可愛いな。まあアンリは飲まれても死なんだろ、たぶん。
「それでもあれはヤバいよ。災害だよ。街が流されるよ」
「だよなあ。普通に集団戦じゃ使えない技だなあ」
土石流パンチはひとりで暴れるなら有りよりの有りだけど被害が出すぎるからダンジョンとかでは使い難いよなあ。別の技も考えておくべきか。まあフライハイト相手なら使えそうだけど。
「とりあえずゴブリンキングの様子見ておく?」
「そうだな。逃げてるかもしれんけど」
普通の動物たちなら逃げる。実際にほとんど周りに動物たちの気配がない。リス吉たちがいるくらいだな。リス吉は拗ねてアンリの腕に捕まってるよ。悪かったってば。
いくら鬼畜のオレでもさすがに仲間をいたぶる趣味はないよ? プロレスはするけど。リス虐したら動物愛護団体がうるさそうだし。オレはクマは殺して鍋にする派閥だぞ。リス吉でチタタプしたらたくさん食べれそう。食べないよ?
リス吉に思念を読まれてめちゃにらまれた。やらないって! そもそもなにも食わないし! ベジタリアンもびっくりだぜ! 野菜にも命が宿ってるからなにひとつ食わないオレは聖者だな! あがめよー。
まあアホなことを考えてないでゴブリンの集落を探す。今の技が使えるならエンペラーがいても戦えるかもしれん。
探してるとアンリが先に気づいた。
「大きい魔力だね。これは当たりだねえ」
やっぱりエンペラーってことか。ほんとフラグってろくな仕事しないよな。
草葉の陰ならぬ茂みの陰からエンペラーさんをのぞくとなんか大声で指示出ししてる。言語理解があるからゴブリン語もわかるなあ。
『この災害は魔物によるものだ! さっさと逃げるぞ!!』
おおっと、エンペラーさん逃げるんですか?!
ゴブリンエンペラーかキングかはわからんな、と思ったが鑑定したらエンペラーと出た。見た目はジェネラルをさらに二十センチ縦横に広げたようなガタイ。
総合格闘家と力士と王様を足してなんにも割らない感じ。きらびらやかなネックレスや王冠もつけてるんだけどどこからゲットしたんだそれ。
アンリによるとゴブリンは器用なので一部の特別に賢いシャーマンとかが装飾品を作ったりするらしい。人間に近いんだな。宇宙にゴブリンの惑星があって宇宙進出してても不思議じゃないな。
とりあえずどうしよう。撤退する予定ではあったが向こうがビビって逃げようとしてるんだよなあ。
……ふむ。
ちょっといま気づいたんだが、ダンジョン作るならゴブリン住まわせるのは有りよりの有りじゃね? 交渉してみるか?
『弱ってる者から運べ、戦士も今は武器より作業だ!』
結構理性的でビビるな。ゴブリンってこんなに知性あるのか? このゴブリンは知性が高いからこの強さになったのかもしれんが。
シャーマンとかメイジはいるわけだからまるごと馬鹿ということはないのかもしれん。そもそも教育体系がなきゃ人間もほぼゴブリンだしな。
食いたい時に食って人の物も平気で奪う。そういう手合は日本ではほとんどいなくなったが世界では普通にいるだろう。まあそれはいいや。
こういうとこだろうな、女神様がごちゃごちゃ考えるなって言ったの。
『へい、そこのイカしたゴブリン兄さん!』
『何者だ?! うおっ、なんだこの魔力!?』
気づいてなかったんかい。オレは魔力を隠すとか細かいことはまだできないぞ。表面を普通の水でおおったらいいのか? あとでやってみよ。
『お前さんさあ、住処欲しくね? ダンジョンって言うんだけどさあ』
『まて、普通に話を始めるな! なぜゴブリン語がわかる!』
『スーパーエリートだからさ!』
自分でエリートって言うやつがエリートだった試しはないとか言ったらいかん! オレは例外だぁ!
『……なるほど?』
納得するんかい! やっぱりゴブリンはゴブリンか!
『つまりお前の庇護に入れと?』
あ、理解してた。やっぱり賢いな。
『まあ嫌なら別にいいが、そうだな、この魔力水を飲むといい』
オレは自分の体の一部を丸めてゴブリンが一口で飲めるくらいのサイズにした。魔力で表面を固めてるとモチみたいな感触になる。
『魔力水? 人間が持ってるやつだな。たまに魔力水の泉もある』
オレの他にも魔力水の水たまりはあるのか。まあ意識があるとは限らないが。オレも意識のない分体は作れるしな。
ゴブリンエンペラーはモチ魔力水をつまむと匂いを嗅いだり日にかざしてのぞき込んだりしていたが澄んでいるから安全と判断したかぺろりと飲み込んだ。
たぶんだがあの量なら毒でも平気なんだろう。エンペラーの魔力は隠してるからわかりづらいが今のオレのこのボディより多そうだ。ただオレの場合分け身や分体を全部かき集めたら数十倍にはなるんだけど。
ちなみに分け身は意識まで分けたもので分体は機能だけ分けたものとなんとなくだが分類することにした。
意識を残すかどうかって大きいからな。意識を残さなかったらダメージ床スライムとか待機させたりできるわけで。意識があると動いちゃうし不満が溜まったりする。
意識の量は調整してるのでオレの分身とも言えるような分け身から普通に自分の意志でさまようスライムまでいろいろいる。
いまエンペラーが飲んだのはかなり濃い部分だがエンペラーの魔力がそもそも高いので洗脳したりは無理だ。おそらく魔力水として補給だけできているはずだ。
『おお、これは! 素晴らしい! 魔力が満ちるぞおおおおっ!!』
『気に入ったか? ダンジョンなら魔力水の泉くらいなら用意できるし狩りとかしたいなら外に出してやれるし外から魔物を入れてもいいな』
ゴブリンエンペラーは少し顎に手を当て考えているが上を向いたり下を向いたりひとしきりうなったあと、こちらをギョロリとにらむ。
お前顔こええな!
『乗った!』
『おお、そうか、決断早いな。ただダンジョンには他の生き物もガンガン入れるからな。縄張り争いとかになってもどちらかに介入したりしないからな?』
『ゴブリンをなめるなよ! 争いは俺たちの日常だ!』
さすが小鬼と呼ばれるだけあるな。発想が修羅。
あっと大事なことを忘れてた。
『それで、そのダンジョンはどこにある!?』
『まだできてない』
言ったらずしゃあ、っとコケるゴブリンエンペラー。お前さん古典的だなあ。ハハハ。
『ハハハじゃないが?! せっかく乗り気だというのに!』
『まあ雨風しのげて魔力水も得られるからな』
これからダンジョンを掘り、固めていくとして、完成したらワープ泉を設置するということで意識のある分け身を置いていくことにする。
ちなみにストレージ持ちの分け身に手を出したら岩を吐き出しまくるのでゴブリンくらいでは倒せないだろうな。エンペラーなら倒せるかもしれんけどコイツはそういう分別のないタイプではなさそう。一匹倒されたとこで一部だし。
そこでエンペラーがアンリに気づいたがアンリのバカ魔力が見えるらしく怯んでた。勇者伊達じゃないな。オレと敵対していないってことで警戒解いたけど。ゴブリンエンペラー、オレより賢くない?
思いもよらぬ収穫があったが、これはいよいよダンジョン製作を本格化していかなければならないな! オレの底意地の悪さを全面に発揮した鬼畜ダンジョン、作っていくか!
最初はチュートリアルにするけどな。ネコカフェも作りたいし!




