8、コルドの過去②
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
よろしくお願いいたします。
人間はほ乳類であるが番の話となると状況が変わってくる。即番――つまりはすぐに結婚するということを受け入れられるかは別なのだ。結婚に憧れを抱く年頃ではないが、順序は大事。
「若葉さん、ごめんなさいね。コルド殿下は幼い頃、先代の国王に魔物がはびこる場所――今はマカーレ国と言われている場所なのだけれど、そこを統治するように命じられたの。マカーレ国はコルド殿下が治めている国のことね。その場所は人間にとって、とにかく危険な場所だったのよ」
「えっ酷い……」
これはれっきとした虐待にあたる。それがまかり通ってしまう異世界の常識はよく分からない。
「そうよね。わたくしも初めてこの話を聞いたとき、九歳の子供になんてことするのかしらって思ったわ。けれど助かった部分も多くあるのは事実だわ。現に多くの人が無駄に命を落とすことなく生きているの」
「きっ九歳!?」
(小学生じゃん。まだまだ大人の助けが必要な年齢だよね!?)
コルドは遠い目をしながら当時の思いを打ち明ける。
その声には寂しさがにじんでいた。
「そうだよ。僕が九歳のとき当時国王だった父上と初めて会って、国を作れと言われたんだ。でも外の世界を知りたかったし、こんな僕でも頼られることが嬉しかったんだ」
人に頼られるのは嬉しいのだ。そこに存在意義を見出すことが少なからずあるから。
驚きすぎてコルドに視線を向ける。すると目線が合った。ずっとこちらを見ていたようだ。その表情は憂いを帯びている。
心臓を鷲掴みにされたように胸がキュッとなる。けれど気まずくてすぐにそらした。
「コルド殿下はね本当に苦労したと聞いているわ。その場所は元々荒れ放題で魔の森と呼ばれていたの。そこで魔物との住み分けをすることによって、わたくしたちの安全が確保されてきたのは事実なのよ。それで特別にひとつの国として認められて魔の森の――魔物たちの王となることによって独立国ができたの。それがマカーレ国の成り立ちよ」
「……大魔王ってそういう意味だったんだ」
先ほどの悪者たちが言っていた言葉に納得がいく。
「えぇそうね。確かに一部でそう呼ぶ人もいるわ。おそらくコルド殿下が魔物の言葉を理解できるからなのよ」
「!? 何それ……チートすぎる」
悪者たちが同じことを言っていた。何かの冗談か聞き間違いだと思っていたけれど本当だったのだ。
「何かおっしゃいましたか」
「あっいえ! 魔物たちと意思疎通ができるから人間に対して無闇に攻撃しないんだなと思いまして」
「そうね。そのような理由があるからこそコルド殿下は、魔物たちと共に生活する時間の方が長かったの。わたくしたち人間より魔物たちとの方が信頼関係を築けてると思うわ。人間の親しい友人がいるかどうかも分からないのよ」
ミレーナはチラリとコルドを見る。
それに応えるようにコルドがゆっくり口を開く。
「あぁ……僕には友人と呼べる人間はいない。魔物たちが友でありまた第二の家族でもある」
「えっあっごめんなさい。あたし」
若葉は自分が口にした言葉の数々を思い返す。知らなかったとはいえ、酷いことを言ったのだ。
「いやいいんだ。謝らないでくれ。むしろ謝るのは僕の方だ。確かにこの国は悪魔が支配しているようなものだった。しかし現在は友好関係が続いている。だから若葉が悪魔を怖がるなんて想像してなかったんだよ。僕は皆に感謝されて当然だと思うようになっていた。そこにあぐらをかいていたのは僕だよ。いまだに反発する人間と魔物がいることを忘れていたんだから」
十人十色ということわざがあるように全人類が同じ考えを持つとは限らない。
痛々しく疲れた表情で告げる言葉に、コルドの悲しみが心に流れ込んでくる。
まともに顔を見ることができない。悪魔が歓迎される国が存在しているとは一ミリも思っていなかったとはいえ、一方的に拒絶したのは若葉の方だ。
「でっでも……それだとコルドは何も悪くないのに」
コルドにとっては当たり前のことで秘密にする必要性を感じなかった。それこそ誰にも言えない秘密などひとつ位はある。
理由はどうあれ傷つけたことに変わりはない。
コルドは若葉が思っている以上に愛情深い人間なのかもしれない。
傷つけられた相手を簡単に許せるほどの広い心を持つ者は多くはないと思うから。
「故郷のことを何も話さなかったのは僕だよ。責任はじゅうぶんある」
そうやって相手を責めることをしないのは「嫌われるのをおそれている」という可能性もあるのだが。
今はそんなことどうでもよくて、分かるのはただただコルドは全身全霊で若葉を愛しているということ。
一方で悪魔はともかく魔物に対する恐怖心はなかなか消えるものではない。若葉にとっては全てを受け入れるには相当時間がいるのは事実である。
「まぁまぁ、そのくらいにしておきなさい。生い立ちなんて中々人に話せることではないと思うわ。それが辛いことなら尚のことよ。わたくしもライル陛下の知らないこと沢山あると思うのよ。だからまずあなたたちは、これから沢山話し合ってみてどうすればいいか決めたらいいと思うわ」
気を使わせてしまたった。しかし諭すような言い方に姉がいたらこんな感じなのかと若葉は唐突に思った。
姉妹同士で小物や洋服の貸し借りをするという話をたまに聞く。一人っ子の若葉はうらやましく思っていた。姉という存在に憧れがあるのだ。もしコルドと結婚すれば――とは思うが、義理の家族はどうしても遠慮が生じるのは事実。結局のところ思いどおりにいかない可能性の方が高い。それが現実。
「まぁそうだな」
「うん。あたしも今どうしたいのかよく分からないから、色々と考えさせてほしい」
騙してなどいなかったと分かった以上きちんと向き合う必要がある。
「しんみりしているところ悪いが、アランのことで伝えておかねばならないことがある」
ここでライルが深刻そうな声色で割って入る。
皆が一斉に注目し耳を傾ける。
「これは王家の――それも跡継ぎとなる王にだけ伝えられてきた話なのだが……」
「まっ待ってください! あたしのような、たまたまこの国へくることになっただけの部外者が聞いていい話なのでしょうか」
とんでもなことに巻き込まれる予感がする。王家の秘密を知ってしまったら後戻りできなくなる。もちろん知りたい欲求はある。けれどここから逃げる選択肢を少しでも残しておきたいのが本音。心の平穏を守るためにも。
「部外者か……若葉さんには不本意だったかもしれない。だが王弟コルドに伴侶として連れてこられた以上、そうとは言い切れないのだよ。これはコルドにも関係があるのだからな」
どうやら退出は叶わない。皆が皆動揺を隠しきれないでいる。
一度深呼吸をする。関わるからには覚悟を決める。
「わかりました! 乗りかかった船です。最後まで聞きます」
「はははっ案外強いのだな。そうでなければ王妃は務まらんからな」
「ちょっとライル陛下、言葉が過ぎるわよ。まだ決まったことではないわ。若葉さんの気持ちも考えてさしあげてください」
事実ではある。それを今、言葉にすることではない。
現実を突きつけられたコルドは、悔いるように額へ手をやりうつむいた。
その横でラズマン犬が前足を肩にそっと置く。
はたから見れば何とも微笑ましい光景だが、現状は似て非なるもの。
若葉は居心地の悪さを感じながら似た者夫婦だなと思うのだった。
そうはならないようにと心に決めた。
「すまない――話がそれたのだが、実はなコルドとアランは魂がつながっているのだよ」
「えっ……魂がつながるなんてあり得るんですか!? やっぱりコルドは悪魔ってこと」
「いいや、本来ならあり得ない。だがつながってしまったのだよ。――アランは魔王の魂を持って生まれたのだ。そして生まれたばかりのコルドは身体が弱かった。そこに目をつけられ魂の器となったのだよ。それには王家に伝わる古い歴史を紐解かねばならない」
あながち間違いではなかった。本当にとんでもない展開になりそうだと、皆が一様にツバを飲み込む。
「はっ魔王の魂って何なんだよ」
コルドは胸を押さえ天を仰ぐ。何とも形容しがたい思いに埋め尽くされる。
自身が得体のしれないものに感じるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回はとんでもない秘密が明らかになります。
またお会いできたら嬉しいです。




