5、一難去ってまた一難②
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
よろしくお願いいたします。
若葉はなすすべもなく椅子へ座ることになった。指輪をはめられるとみるみるうちに男の姿になる。別人に成り代わったからだろうか、少し冷静さを取り戻す。しかし手汗はひどい。
(これまずいよね!? どうしよう。どうしよう)
今にも頭を抱えて叫びだしそうだ。そうこうしているうちに二人の男が散らばり始める。一人は部屋の左側に見えるまっすぐに伸びた通路の奥へ隠れ、一人はテーブルの下へ潜り込む。そしてリーダーであろう男がラズマンの対応にあたる。
「はいはい。今開けますよ」
「失礼! あなたはここの家主で間違いないか」
「あっあぁそうだ。うちに何か用ですか」
威圧感たっぷりで尋ねるラズマンに戸惑っている様子が伺える。
(やっぱり怖いー)
「おや? あなたが留守番を頼んでいた青年から何も聞いていないのか」
男は舌打ちをして振り返り若葉を睨みつける。全身でどういうことだと訴えかけているのが分かる。
「あぁなにぶん今しがた帰ってきたばかりなもんで、どうかなさいましたか?」
「それはすまない。実は女性を探していてな。この辺りにいるのではないかという情報が入って周辺の村や町に聞き込みをしているんだ」
女性と言ったことが気になるのか、男はチラチラと若葉を見る。
内心気が気じゃない。
(そんなにこっち見なくていいから、早く帰ってもらってよ)
「人探しですかい。まさかその女性は何かしでかしたんですかねぇ」
「それは極秘事項だ。しかしあなたは先ほどから後ろを気にしているようだが、何かあるのか」
「いえ別に何もないですから」
怪しいと直感が働いたのだろう。構わずラズマンは奥を覗き込む。すると若葉と目があった。
「なるほど。先ほどの青年がいらしたんですね。少し話があるので失礼させてもらう」
「勝手に入られては困りますよ」
(うわー気づかれちゃったじゃん。こっち来ないでよー)
男が家の侵入を拒むが無駄な抵抗だった。ラズマンは静止の声も聞かずに、音もなく若葉のもとへ近づく。
そんなとき、不意に部屋の中が強い光で埋め尽くされた。瞬時に顔をしかめる。
「なっ何!?」
口々に驚きの声を発する。光の根源を探すとその中には黒い人影のようなものが二体見える。
若葉は状況が状況なだけに、悪魔が仲間を呼んだと思った。アランが転移した際も同じように部屋が光で埋め尽くされたのだが、極限状態の今はそんなこと記憶に残っていない。
徐々に人影の姿が明らかになる。待ち焦がれていたアランだと分かった。
もう一人は女性で、結婚式のお色直しで着るようなドレスを身にまとっている。瞬間、若葉はホッと安堵の表情を浮かべる。
「アランさん……」
男の姿になっているのも忘れ、目から雫が静かにこぼれ落ちた。唯一の味方が登場したことで少し心に余裕が生まれる。
一方のアランは状況が飲み込めないでいる。若葉の他にラズマンと見知らぬ男が対峙しているのだから。
しかし若葉の涙を見た瞬間、アランの中で何かが変わり始める音がした。
「我が家で何をしているのですか!」
そのひと言で男は舌打ちをし一瞬のすきをつくと若葉の座るテーブルまで飛んだ。
ものすごい音を立てて上に乗っていた食器類が床へと転がり落ちる。
「少しでも動いてみろ! ここにいる女がどうなっても知らねえぞ」
男は剣帯から剣を抜き取ると、双方に向けながら怒鳴り散らす。それを合図にテーブルの下へ隠れていた仲間の一人が顔を出し、若葉にナイフを突きつける。若葉は恐怖のあまり声も出ない。顔が青白くなる一方だ。
「女?」
ラズマンは眉間にしわをよせ呟く。しかし追求している暇はない。
今がまずい状況であることは明らかなのだ。
アランは剣を抜こうにも動けない。
ラズマンは攻撃魔法しか使えない。相手に攻撃しようにも人質に当たる可能性を考えると何もできない。
「何をする気だ! さてはお前――家主ではないようだなっ」
「ふんっ! あぁそうだ! それがどうした。オレはなそこにいる騎士団長に用があるんだよ」
皆の動きが止まる。
「分かりました。それではあなたたちの望みは何ですか」
「望みだぁそんなの決まってるだろ! お前の騎士団長退任とオレの弟を騎士団員にしてもらうことだ」
男はツバを撒き散らしながら大声で叫ぶ。
「そうですか――ですが実力のないものに騎士団は務まりませんので、最終試験まで残れるように努力するよう弟さんへお伝えください」
ごく真っ当なことを言っているが男には逆効果だった。
「何だと!? オレの弟はな、その最終試験とやらに勝ち残ったんだ。それなのに落ちたんだよ! 不採用にしたやつが一人いるだろっ。覚えてないとは言わせねぇ」
「あぁ……もちろん覚えていますよ。彼は確かに実力はありましたからね。しかし騎士団はとても協調性を大事にするのですよ。ですが彼は猪突猛進なところがありまして、足並みがそろわないとなると様々な場面で困るのです。私たちは国民を守る義務がありますから」
ナイフを突きつけられている若葉には、ただ助かることを祈るしことしかできない。
成り行きを見守りながらも、体のいたる細胞から嫌な汗が吹き出してくるのがわかる。服が肌にまとわりつくような感覚が気持ち悪い。
一方でアランに同行した王妃ミレーナは、静かに傍観しながらある考えを思いつき様子を伺っていた。タイミングを見誤ると最悪の事態を招きかねない。慎重にならざるをえなかったが、ついに「ここはわたくしの出番ね」と言わんばかりに魔法を放った。
「マドーロネタウタ」
その魔法は意識を奪わずに相手を睡眠状態に陥らせる魔法だ。
この場にいる全員に魔法がかけられた。バタリと一斉に床へと転がる。アランには魔法が効かないのでその場に立ち尽くす。
「一度に数人にかけたことはないからあまり長く保たないと思うわ」
ミレーナの言葉にアランは若葉に近づき抱き抱える。
ラズマンにはほとんど効果がなかったようで、すぐに動き出した。
「さすがラズマンね。魔力量が多いだけあるわ」
「光栄でございます王妃様。ところでこの者たちはいかがいたしましょう」
「そうね。どこかの部屋に隔離しておいたほうがよさそうね」
するとここでアランが物騒な言葉を放つ。
「いえ若葉さんを傷つけようとした罪は重いのです。この場で殺すしかありません」
ミレーナは青年を抱えこちらに近づいてくるアランを驚いたように見る。
「もしかしてこの子がコルドの……」
「えぇそうです」
アランは若葉をソファーの上へ横たわらせると軽く微笑む。指輪を外すと元の姿に戻る。
「若葉さん。もう大丈夫ですよ。あの者たちにはしかるべき処罰を与えますので」
若葉の目尻にたまった雫を指先で拭った。
優しく声をかけ慈愛に満ちたその姿にミレーナは目を丸くする。騎士団員からは無表情で何を考えているのか分からないという声をよく聞いていた。
誰にも心を開かない。笑わない貴公子。それが騎士団長アランだ。それなのに今目の前にいるのは誰なのかと。
あまりの変わりように動揺しながらも若葉へと解除魔法を施す。
若葉の意識が徐々に目覚めていく。
「んんん……」
ゆっくりと起き上がると、目覚めの悪い寝起きの声が出た。
「若葉さん! 大丈夫ですか。どこか痛いところはありませんか」
「う……ん。大丈夫です」
アランは心底ホッとして若葉を抱きしめようとする。
「ちょっと待ちなさいアラン! 若葉さんはコルド殿下の伴侶になる子なのよ」
とっさにミレーナが声を上げる。
「えぇ分かっております。しかしどうしたわけか抱きしめたい衝動が抑えられないのです。大変失礼しました」
アランは心の変化に首をかしげる。手のひらを見つめるも自分の行動が理解できない。
とんでもない言葉を聞いた若葉の方は体中が熱くなり、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆い隠した。
(生贄にされる前に死にそうなんだけど!)
最後までお読みいただきありがとうございました!
次回ついにコルドと再会します。そして何かが起こります。
またお会いできれば嬉しいです。




