4、一難去ってまた一難①
こんにちは、こんばんは、おはようございます!
今回のお話は主人公がピンチに陥ります。①、②と続きます。
よろしくお願いいたします。
しばらくするとまた扉をコンコンッと、たたく音がする。
これではゆっくりと考えごとをする余裕もない。
「えっ? もう戻って来たわけじゃないよね」
警戒心から緊張感が走る。
「ごめんください」
しかし先ほどの声とは違うことに気がつく。肩をなでおろすと、そっと扉を開けた。
「はい」
自ら発する男の声に慣れずいちいち肩が揺れる。
「あぁ人がいて良かった。俺達は旅のものなんだが森で迷っちまって、少し休ませてもらえないですかねぇ」
ガタイのいい男が三人。
若葉は迷う。困っているとはいえ勝手に中へ通すのはどうなのかと。ここはアランの家なのだから。
けれど、断りづらい状況だ。見るからに疲れたような顔をしている。そんな人を放っておくような人間にはできていないのである。
考えること数秒。
「まぁ少しでしたらどうぞ」
「すいませんねぇ。助かります」
するとその中の一人がズカズカと入り込みドカリと椅子に座る。
予想外の行動だった。
「えっ? 何ですかいきなり」
他の二人は何故か周りを見渡していた。
直感が働く。良くないことが起きると。
「なぁ兄ちゃん。あんたここに一人で暮らしてるのか」
「いえ。僕は留守を預かっているだけなので、ここには住んでないです」
「ふーん。じゃあここに住んでるやつはどこにいるんだ」
探るような目つきにゴクリとツバを飲み込む。
ここにいない人を気にするのは何かしら裏があると決まっている。
ラズマンと同じことを聞かれたせいか、反射的にこの三人組も若葉を探す仲間のように見えた。
違う点をあげるとすれば、瞳の色。彼らは悪魔の象徴である赤い色の瞳を持っていない。
お互いに協力関係を築けるのかは不明であるが、万が一が起こらないとは限らない。
人間と悪魔との関係性が分からず、疑心暗鬼になった。
「用事があって今はいないです」
すると旅人のリーダーと思われる男は、にやりと悪い笑みをこぼした。
「そうかそうか。なぁ兄ちゃん知ってるか。魔獣の瞳ってのはいい値で売れるんだぜ。俺らは魔獣討伐で生計を立ててたんだよ」
旅人の態度が急変する。しかしこの国へ来たばかりの若葉には、目の前の男が何を言いたいのか理解できない。
「だがこの国の王弟がよ。魔物の声が聞こえるって言うんで、魔獣討伐は禁止になったんだ――」
(魔獣討伐ってまるでゲームでいうところの素材集めみたいじゃない。それに魔物の声って何!?)
突然、男の演説が始まった。
話はこうだ。男の弟が騎士を目指し、最終試験をクリア。にもかかわらずアランが採用しなかったことに怒っているのだ。
(もう何なのよ。ただでさえ色々なことが起こって疲れてるのに)
そもそもこういう案件は、お互いの言い分を聞かないことには始まらない。おそらくそれなりの理由があってのこと。
少なからずアランはそんな非情な人間とは思えない。若葉は何の話を聞かされているのか。これだけは分かる。全く関係のない話だと。
「そんなの知らないよ」
「あぁん!? 何だと!」
(えっうそ……声出てた!?)
慌てて口元を抑えるも無意味だった。ガコンと思いっきりテーブルを蹴り、その拍子で上に乗っている物が落ち……ない。
「うわっ」という声とともに、男が椅子もろとも後ろに倒れる。物凄く大きな音がした。
「ちっクソ! なんだこのテーブルは、床に固定してやがるのか」
呆気にとられていると、後ろの方からプッとかクククッと笑いをこらえる声がする。
返す言葉もなく、押し黙っていた若葉に災難が降りかかった。
「笑うとはいい度胸してるじゃねえか」
素早い動きで若葉に近寄ると胸ぐらをつかまれた。身動きが取れず直立不動になる。
「うっ……ぼっ僕は笑ってません!!!」
必死に否定するも、目が血走っている目の前の男は聞く耳を持たない。いよいよ息苦しくなってきた。すると後ろの男がこらえきれずに、肩を震わせ笑い出した。
「ああん!? 笑ったのはお前らか!!」
急に手を離され尻もちをつく。
「キャッ……ゴホッゴホッハァハァ」
素の反応をしてしまい慌てて口元を押さえる。荒い呼吸を繰り返しながら涙目で男の方に視線を向ける。幸い気づかれていないようだ。命拾いしたものの、脱力感が半端ない。
「あっ兄貴。クッ今はこんなことしてる場合じゃないっすよ。いつヤツが戻ってくるか分からねぇっすから」
「それもそうだな。お前ら後で覚えとけよ。ところでよぉ兄ちゃんは留守を任せてもらえるくらい、騎士団長と仲がいいようだな。お前がいなくなったら、騎士団長様はどんな顔するかねぇ」
命拾いは思い違いだった。男は再びにやりと悪い笑みを浮べる。瞬時に腕と手首を縛り上げられてしまう。
「なっ何する……。何するんだ!」
あまりの力強さになすすべもない。非力な若葉には男相手にかなうはずがないのだ。
「お前には人質になってもらう」
「僕を人質にしたって意味ないと思うよ。騎士団長とは今日会ったばかりだし。知り合って間もない人間を人質にしたって痛くもかゆくもないよ」
「はっどうだか。まぁこの際どうでもいい。人質を取ることに意味があるからな。騎士団長は国民を守る責務があるだろ」
「なっ!?」
理不尽すぎると思っていたところ、別の男が突然声を張り上げた。
「兄貴! こいつ高そうな指輪してますぜ」
目ざとく見つけられ隠す暇もない。女だと知られたら困る。
「ダメ!」
抵抗するのも無駄だった。男の一人が若葉から指輪を奪い盗る。
見うるみううちに姿が変わる。
「うわーお。こいつ女だぜ」
「どうします兄貴! よく見たら見慣れない服装してるし、他国の女か?」
下っ端であろう二人はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている。
「ははっこれは傑作だ。お前が女だったとはな! もしかしてお忍びで来たお貴族様か? 可愛い顔してるじゃねぇか」
目の前の男は若葉のあごをクイッと持ち上げる。見下ろしながらジロジロとなめ回すように見た。
若葉は思う。こんなよく分からない男どもに何かされるくらいなら、いっそ死んだほうがマシだと。
そこにコンコンと扉を叩く音が聞こえた。
不意に静寂が訪れる。
(どうしよう……助けてって叫ぶべきかな。でも悪魔が戻ってきたのかもしれない)
「おや? おかしいですね」
若葉には聞き覚えのある声だった。
これではどちらに転んでも最悪な未来しか浮かばない。けれど得体の知れない悪魔よりも人間の人質になっている方がまだましだと思えてくる。
恐怖心で顔色が青くなる一方だが生きる望みはあるのだ。
再び扉を叩く音がする。
「ラズマンです。家主の方はお戻りか」
思った通りの人物だった。そこでふと、すきを見て逃げられないだろうかと考える。やはり生贄にされたくないし男どもに捕まったままなのも嫌なのだ。
「うん? ラズマンと言えば、カマー領の国軍隊長だったよな」
(たっ隊長!? あの悪魔隊長なの!? そんなの逃げられる気がしないよ。でも絶対どこかにすきができるはずなのよ)
「あっ兄貴ぃ。カマー領じゃないですって。マカーレ国っすよ。大魔王コルド様の側近も務めてますぜ」
「そうだったか。おい女! どういうことだ」
腕を組み、偉そうな態度を取る目の前の男が叫ぶ。どうにかして逃げる方法はないかと考えている若葉には、話を聞いている余裕などない。しかし不穏な言葉を拾う。聞き慣れた名前だからだろうか。コルドが大魔王とはどういうことなのか。
関係がありそうなことにだけ無駄に聴力がよくなるのは考えものだ。
「兄貴ぃ聞いても無駄っすよ。なんかブツブツ言いながら怯えてるみたいなんで。それよりここは家主のふりした方が良くないっすか」
「あぁそうだな。おい女! 少し大人しくしてろよ」
色々と思案するが結局のところ八方ふさがりであることに変わりはない。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回も会えたら嬉しいです。




