3、突然の来訪者
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
今回は主人公が悪魔と対面するお話です。
よろしくお願いいたします。
アランが王宮へと姿を消してから、時間が止まったかのように若葉は立ち尽くす。ただ呆然と何の変哲もない白い壁を見つめながら。
そこは転移魔法陣が展開された場所。初めて見る光景に目を奪われたのだ。
どれくらいそうしていたのか分からない。若葉は我にかえると一度心を落ち着かせるために深呼吸。そして認識阻害の魔道具だと渡された指輪を天井にかざしてみた。
「綺麗だなぁ。まるで婚約指輪みたい」
思わずつぶやくと一瞬胸が苦しくなる。それと同時に深いため息が出た。
改めて指輪を見るが特に変わったところは見当たらない。ただやたらと豪華な造りをしている。
指のサイズは明らかに合わない。試しに右手中指にはめてみれば不思議と指に馴染んだ。
鏡に写る姿は若葉とは似ても似つかない男。どことなくアランに似た少年のような風貌をしている。あまりの変化に驚き慌てて指輪を外す。
「うわぁーすごい」
手首を返しながらつまんだ指輪をまじまじと眺める。好奇心がくすぐられ、指輪をはめたり外したりと繰り返す。ついにははめる瞬間に「へーんしん!」などと声を出す始末。しかし遊んでいる場合ではなかった。考えるべきことがあるのだ。思い返すのは先程二人が交わしていた会話。
「コルドが伴侶を迎え入れるって、あれは一体どういう意味なんだろう。やっぱり生贄のことかな」
同じ名前の他人である可能性を完全には否定できない。
悪魔が伴侶を迎え入れるとは現実ではあり得ないことだ。それでも会話の内容に思い当たる節があるのは事実。
悪魔を怖がる素振りを見せなかったアラン。言いかけた言葉。
どことなく心にざわざわと黒い霧のようなものが入り込んだような気がする。
若葉は唸っていた。するとコンコンッと、扉を叩く音が聞こえた。本当に人が訪ねてくるとは思っておらず、肩が揺れる。
慌てて右手の薬指に指輪をはめた。
「はっはい」
若葉は目を見開きながら指輪を見る。声までもが男だったから。
扉を開けると、騎士と思しき服装をした男が立っていた。目があえば瞳の色は赤く髪色も黒で数時間前に見たコルドと同じような姿だった。
(えっ……悪魔!?)
緊張のあまり手が湿り気を帯びてゆく。それでも何とか平静を装った。
「失礼! 我はコルド様の側近兼国軍隊長ラズマンだ。この辺りで女性を見なかったか」
「いえ見てないですね」
「そうか。ところでこんな辺鄙なところに何故一人で住んでいるのだ」
ラズマンは若葉を上から下まで無遠慮に見つめる。
「いえ! あっぼっ僕は留守を預かっているだけなんですよ。ここに住んでいるわけではありません」
「それは本当か。ではこちらに住んでいる者は今どちらに? その者にも話を伺いたいのだが」
保身のため本当のことを言っていいものか悩む。そして余計なことは言わないことにした。
「さっさぁ……? どこに行ったのか分かりませんね」
「行き先も告げずに出かけるとはずいぶんな奴だな。ここに住んでいる人物は一体何者なんだ」
「何者と言われましても、まさしく人であることには違いありませんが……?」
両方の手のひらを上にして首をかしげとぼけてみる。
「ふむ人か――。ではその指にはめているものは何だ! 何故正体を隠している。まさかやましいことでもあるのか? あるいはお前がここに住んでいる者ではなかろうな」
矢継ぎ早に聞かれて動揺を隠せない。魔道具が見破られるなど聞いていないのだ。これはまるで尋問のよう。
「ちっ違いますよ! 本当に留守を預かっているだけですから」
とっさに指輪を手で隠す。信じてもらう方法など持ち合わせていない。行動もそうだが何も答えないのは「怪しい者です」と自己紹介しているようなもの。しかしそんなこと考えている余裕などない。
「ますます怪しいな。では実際にこの家に主が存在するのか、確かめさせてもらう」
ラズマンが玄関先にたたずむ。本気でアランが戻るまで待つつもりなのだ。若菜は選択を間違えた。後悔してももう遅い。
本来は認識阻害の魔道具が簡単に見破られることはない。見破られることがあるとするならば、その人物は相当な魔力量を保持していることになる。
運悪くラズマンはそれに該当するのだ。
「えっ……僕嘘なんかついてないですって」
「なら構わないだろ」
「えぇー無理なんですけど」
若葉は恨みがましく指輪を見つめた。
「何か言ったか」
「いっいえ何も」
引きつった笑顔を浮かべながらあらぬことを考える。アランはこの悪魔と協力関係にあって、最初から捕まえるつもりで家へ誘い込んだのかと。
よくないことが起き、再び悪い方向へ思考が支配されていく。
でも今は「悪いようにはしない」と言ったアランの言葉を信じるほかない。
若葉は気を紛らわせるため椅子に座りながら楽しいことを考えることにした。
思い出すのはコルドのことばかりで、いかに好きだったのか分かるだけだった。
ここで何もしないのは落ち着かず、妙案として部屋の掃除を思いつく。まさか部屋の汚さに助けられる日が来るとは思わなかった。
「どこへ行く」
立ち上がった途端声をかけられた。逃げるとでも思われたのだろう。
「そっ掃除ですよ。ここに住んでる人、忙しくて色々手が回らないって言ってたんで」
「そうか」
疑い深い視線を気にしないようにしながら動く。
「さてと、どこから始めるかな。キレイになってたら驚くだろうなーなんて」
「家主ではありませんよ」とアピールをするも、相変わらず視線は若葉に突き刺さったまま動く気配がない。まるで「早く正体を明かしたほうが身のためだ」と言いたげである。
そもそも女だとバレるわけにはいかない。しかしよく考えてみるとこの悪魔どこかおかしい。
強引に指輪を奪って正体を見破ることもできる。悪魔とは危害を加えることを喜びとするという認識があるが、ラズマンは手を出す素振りを見せない。それが逆におそろしさを増す。
女の若葉にはあるはずのない何かが縮みあがりそうな気がした。
しばらくするとラズマンに呼び出しがあった。「また来ます」と言い残し帰っていった。
「おとといきやがれー!」
男の姿なのをいいことに見えなくなった相手に吐き捨てる。案外気分がいい。
気が抜けると椅子にだらんと腰を下ろす。
「アランさん。早く帰ってきてくださいよ」
もう何も起こらないように願いながら天をあおいだ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回もお会いできたら嬉しいです。




