2、聞こえた会話に思い当たる節
こんばんは、おはようございます、こんにちは!
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招かれたのは古民家風の一軒家。
RPGで登場するような村人が住んでいてもおかしくない外観だ。
騎士は騎士団寮に住むのがならわしであるがアランは特別に一人で暮らしている。
というのもアランは表情や感情が分かりにくい。
悪魔なみに過酷な訓練後、冷淡に見える上司と顔を突き合わせることになる団員たちへの配慮が主な理由。
「うわぁーとっ散らかってるなぁ」
ただしそれだけではない。
「面目ありません。この辺りは時々不法侵入者が潜伏することもありまして、周辺の森を常に見回りをする必要があるのです……。それ以外にもこの家には国の重要な武器も保管されています。加えて緊急招集もあるものですから」
若葉はハッとして口元を押さえる。心の声が出てしまったのだ。
「あっいやあのっ……すっすいません! 違うんです。これはその……」
否定してみたもののうまい言い訳など思いつくはずもない。
(あれ? 待って! もしかしてあたし不法侵入者だと思われてる!? これから取り調べが始まったりしないよね。どうしよう)
余計なことを口走ったあとだからか、悪い考えが頭をよぎる。
慌てふためく姿はまるで小動物のよう。
「いえ事実ですので、お気になさらないでください」
苦笑いを浮かべ頭をかいている姿を見る限り怒ってはいない。
それでも万が一を考えると疑いは止まらないのだ。
初対面の相手にとんでもなく失礼なことを言った手前、立場は弱い。
気まずさから視線を四方八方へ向ける。
「そっそうなんですか……大変そうですね」
平静を装いながら会話を続けるも脳内は最悪の想定ばかり。
「いえ、慣れてしまえば大したことではないですよ。はいどうぞ。お茶くらいしか出せませんが」
「ありがとうございます」
若葉はひきつった笑顔になりながら、アランに促されてゆっくりと椅子に腰を下ろす。
取り調べを始める様子は微塵も感じない。
物腰も柔らかく、話し出すのを待つ姿勢も高圧的ではない。
ここでようやく心の糸がほどけた。
若葉は森にいた経緯を鬼気迫る勢いで話し出す。
コルドが突然悪魔に姿を変えたことに関しては前のめりになりながら。
アランが若干引いているのも気にもとめずに。
「ひとつ質問なのですが……若葉さんにとって悪魔とは、どのような存在なのでしょうか」
よくぞ聞いてくれたと若葉は頷く。
「怖いですよ。だって目が合えば最後! その人間は魂を喰われて灰になって消えるというおとぎ話が沢山あるんです」
「おとぎ話ですか――それならばそこまで怖がる必要はないのではありませんか」
若葉は首を大きく横に振った。ブンブンと音がしそうだ。
「それだけじゃないんです。あたしの地元に伝わる話では、神隠しに合った者たちは生贄として悪魔にさらわれてるって噂があるんです。しかもその悪魔は人間に化けて、今も近くで魂を見定めてるって言われてるんです。だから噂は本当だったんだって」
「そうでしたか。しかしその話は本当なのでしょうか……私にはどうも信じられないのですよ」
「えっ……」
否定される準備などできているはずもなく、心臓がギュッとつかまれたようにしぼむ。
心の奥底では同調やなぐさめを期待していたのだ。
表情がくもり、信じてもらえないことがこんなにも悲しいことだと思い知る。
「そんな顔なさらないでください。気を悪くされたのでしたら申し訳ありません。私が思うに若葉さんの国とは悪魔の認識にずれが生じていると考えられます。と言いますのも我が国の悪魔は――」
そのとき部屋の一部が赤く点滅した。
心臓がドクリと音を立てる。嫌な予感がする。
「あぁ――どうやら緊急の事案が生じたようです。お話の途中ですみません。少しだけお待ちいただけますか」
「はっはい……」
どこでも緊急を知らせるサインは共通のようだ。
アランのこわばった表情を見ながら聞き耳を立てる。
赤い点滅は何かよくないことが起こる前触れ。恐怖心をあおる。
『こちらアランです。陛下直々にご連絡とは、一体何が起こったのでしょうか』
『悪いな。実は今日コルドが伴侶を迎える予定だったのだが不具合が生じてな。どうやらお前が住む森の近くに、迷い込んでいるらしい』
『森に……ですか』
アランは陛下の言葉を聞きながら壊れたロボットのように若葉を見た。まさかと。
『あぁ彼女はコルドの魔力をまとったブレスレットをつけていたそうだ。その魔力を頼りに配下たちが痕跡をたどって探しに行ったのだよ。しかしだ、ブレスレットだけが見つかり彼女の姿はなかったそうだ』
『それは本当ですか』
『確かにそう聞いている。場所が場所だけに何者かの手によって誘拐された可能性があるのだ。王国騎士団にも捜索の要請が来た。よって全ての騎士を王宮へ緊急招集する運びとなった。そなたも早急に王宮へ来るように。以上だ!』
『かしこまりました。すぐに向かいます』
プツリと通信が切れる。
アランが断ち切ったブレスレットはGPSと刻印の役割をしていた。
この国にはコルドより強い魔力を持つ者はいない。よって何人たりとも近づかせないという意味もあったのだ。
理由は国民全員が魔力持ちだからである。
アランには唯一魔力がなく魔力感知ができない。そのうえ魔力も効かない特異体質なのである。
アランは若葉の近くによる。
「私はすぐに王宮へ行かなければなりません。その前に確認なのですが、若葉さんのお付き合いされている方のお名前は何とおっしゃるのでしょうか」
会話は耳に届いていた。若葉は戸惑いの表情を浮かべながら答える。
「……コルドです。アランさん今の話はどういうことですか!?」
身に覚えのある内容から察するにおそらく無関係ではない。
「申し訳ありません。緊急招集がかかった以上、詳しく説明している時間はないんです。刻一刻を争う事態ですので。ただあなたを悪いようにはしないことをお約束します。念のためこちら指輪型の認識阻害魔道具です。どの指でも構いません。はめていただくと全くの別人になります。何も事情を知らないあなたをここに一人残していくわけには参りませんから。万が一人が訪ねてきたら、留守を預かっていると言っておいてください。なるべく早く戻ります」
聞くことが叶わず虚しさが押しよせる。
アランが壁に埋め込まれていた隠しボタンを押すと複雑な模様と光が現れる。
転移魔法陣が展開されたのだ。そして瞬時に王宮へと消えていった。
一人取り残された若葉は何とも言い表せない不安を感じながら渡された指輪を握りしめた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回から徐々に物語が動き始めます。
またお会いできれば嬉しいです。




