15、ラズマンとライルに出会った日②
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
よろしくお願いいたします。
町を魔物が占拠した事件はライルにとって記憶に新しい。沢山の犠牲者が出たのだから。
コルドがこの事件を知るすべはない。離れに幽閉されている人間には無理なのだ。
ましてや子供にむごい事件のことなど聞かせるにあたいしない。
コルドは不意に兄の手を握る。
「ねぇこの子のなかまをさがしてるんだけど、知らない?」
突然頭の中に声が響いてくる。
((仲間が大勢ここに連れて行かれたことは、分かってるんだからね。早く助けたいんだ))
「噓だろ……」
ライルは地面にガクリと膝をつく。
(もう手遅れだ)
「ねぇどうしたの?」
「……すまない。魔物の血液は長年の研究の末、病に効くことが分かったんだ。捕らえられた魔物は体内の血をすべて抜かれる。おそらく処分されている可能性が高いんだ」
「そんなぁそれじゃあこの子の仲間は助からないってこと。どう伝えればいいのかわかんないよ」
コルドは戸惑いの表情を浮かべ、ライルの肩を激しく揺さぶることしかできなかった。
ライルはひらめく。コルドの力があれば、無駄に魔物との争いがなくなる。
魔物を傷つけることなく血液も手に入る。
病の人間も助けることができる。
コルドも幽閉から解放されるはずだと。
「いいかコルド。これから国王陛下である父上に会いに行こうと思う」
「ちちうえ?」
「そうだ。そこでコルドが魔物と話ができることを伝えるんだ。きっとコルドの力は国の発展のために役に立つから」
有無を言わさない気迫にコルドは圧倒されながらも、一筋の光が差したことに気づいた。
「うっうん……わかったよ」
そこからは早かった。あれよあれよと話は進む。
緊張しながらも臨んだ謁見は九歳のコルドにとっては厳しいものになった。
コルドは、国王から国の安寧のため魔物の統率者を命じられたのだ。
これは国王陛下が秘密裏にコルドの呪いについて調べていた結果によるものが大きい。
ライルは「まだ早すぎる」と反対していたが国のことを思うと逆らうことができず、泣く泣く送り出したという。
「コルド……こんなはずではなかったんだが」
「うんん大丈夫だよ。ぼくなんかがやくにたつのなら、これくらいへっちゃらだよ。だってぼくしかできないことなんでしょ?」
コルドは強かった。いや強くならざるおえなかったのだ。
誰もが納得できる政策などこの世には存在しない。
どんなにいいことを考えても、反発は必ず起こるのだから。
唯一の心のよりどころは初めに出会った魔物しかおらず、その魔物はあるときから姿が見えなくなった。
それからは誰にも弱みを見せることができずに孤独と闘いながら生き抜いたのである。
数年後新たに国ができた。コルドが魔物世界の王となることで、クルーシー王国と魔物との均等が保たれるようになったのだ。
国の名はマカーレ国と言う。
領地の名前をそのまま国の名として受けついだのだ。
ようやく安寧が訪れた。
人間と魔物にとってコルドは唯一無二の存在になったのである。
「コルド様のおかげで、この町もずいぶんと住みやすくなったな」
ある民は言う。
「そうね。魔物に怯えなくて済む生活がこんなにいいものだと思わなかったわ」
「だな。ここはマカーレ国から一番近い場所にあるから、よく魔物の群れが空を飛んでたもんな。いつ襲ってくるか気が気じゃなかったよな」
またこうも言っている。
「本当よね。あんな恐ろしい光景を二度と見なくて済むのは、コルド様のおかげね」
少しずつではあるが悪魔はクルーシー王国内で受け入れられつつあった。コルドに容姿が似ていることが一番の要因であろう。
★★★★★★
「――ずっと死んだと思っていた魔物が、人型の悪魔に成長したラズマンというわけだ。僕も正直驚いたよ。ラズマンは悪魔化の修行に行ってたと言うんだからね」
「そうだったんだ……でも再会できて良かったね」
「あぁそうだな。今考えるとラズマンは兄上との会話が聞こえていたんだろうね。それで色々思うことがあって強くなるため、急に僕の前から姿を消した。マカーレ領には似たような魔物がわんさかいて、消息を絶つ個体も少なからずいたんだ。だから気づかなかったんだよ」
話を聞き終えて思う。大変だったねと安易には言葉にできないことだと。
「そっかぁ。でも暴走する魔物がいる中でラズマンさんはよく無事だったね」
「確かによく耐えたと思うよ。まぁおかげでラズマンは悪しき感情を喰らい続けた結果、それに応じて魔力が高くなったんだよ。気配の察知能力に優れているのもそれが起因だろう。今では僕の右腕だよ。初めて会ったときは黒い毛玉の塊だったんだがな」
「へぇーそれじゃあ気づかなくても無理ないね。大きいクロスケみたいなものかな」
「クロスケ? なんだそれは」
「あーっとアニメに登場する黒い塊のことなんだけど……知らないなら気にしないで」
「そうか」
世の中不平不満を抱えている人は多い。
魔物にとって人は豊富な栄養源なのだろう。
悪しき感情を吸い取ってくれる吸引器のような物があればいいと思った。けれど喜怒哀楽があってこそ人は成長できる。
感情が無くなってしまったらもはや人形と同じ。
若葉は考えるのをやめて頭を大きく横にふる。
消された歴史があったとはいえ幽閉は虐待だと心底思う。
九歳で与えられる責務にしては荷が重すぎる。
当時のコルドが感じてきた思いなど他人には推し量れない。
若葉は思わず抱きしめる。
「生まれてきてくれたのはもちろんだけど、今まで生きててくれてありがとう」
「な……にお……」
「あっごめん忘れて!」
この言葉は誰にでも有効なわけではない。
それでもコルドの境遇を思うと言わずにはいられなかった。
人は誰しも存在意義を求めるものだから。
「いや。ありがとう」
抱きしめ返したコルドの腕は心なしか震えている。若葉は少しずつ環境を受け入れコルドを支えていきたいと思うようになった。
この先の未来を夢見ながら。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、エピローグです。
またお会いできれば嬉しいです。




