13、融合②
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
よろしくお願いいたします。
頬に熱が帯びてゆく。
二次元が実体化したようなものだから仕方がない反応だ。
触れられるのかは試していないがどういう原理なのか分からない。
コルドにとっては面白くないことこのうえない。
「やっぱりあいつの方がいいのか」
「ちっ違う。確かに顔はカッコいいけど敬語キャラじゃないし」
コルドは勝ち誇ったようにほくそ笑む。しかしアランの方が一枚上手だった。またしてもアランがしたり顔で姿を見せる。
主導権を握っているのはアランのようだ。
「若葉さん。あなたの望みとあらば、口調を改めることができるんだ。もし辛くなったらいつでも名前を呼んでくれ。すぐに駆けつける。コルド様に聞かれたくない内容なら、会話を遮断することもできるからな。実をいうとコルド様が持つ魔力はおおかた私のものなんだよ。それゆえ操るのはたやすい。だから安心してくれ。これからしばらく眠りにつく。しばしの別れになるが再会できる日を楽しみにしている」
アランは近くにより耳元でささやくと霧のように消えた。
「それは反則だよ……」
顔を手で覆いながらつぶやいた。
「はぁ……途中で意識を遮断しやがった。って耳まで赤くして何を言われたんだ!!」
会話を聞かれてはいなかった。アランが言っていたことは本当なんだと悟る。元魔王ゆえの特権なのだろう。ここで本当のことは口がさけても言えない。
「いやぁ何でもないよ! あっそうだ。しばらく眠りにつくって言ってた。どういう原理なんだろう?」
当たり障りのないことでごまかす。バレることはないだろう。
「そうか。おそらく、魂が一つになった影響が出ているんだと思う。それと若葉に謝らなければならないことがある」
急に改まった口調になるので何ごとかと身構える。
ベッドのうえではあるが正座をしたい気分だ。
「なっ何」
「事実上アラン団長を吸収したことになる。その影響で僕は――魔王になったようだ」
「えっ」
コルドが魔王になる可能性はあったのだ。アランが事実上消滅したのだから。元々は魂を二分していた弊害だろう。
「僕も正直戸惑っている。でも確かなんだ。今まで感じたことのない力を感じる」
にわかには信じられないが、若葉の知るコルドは嘘をつかない。
アランは魂を奪って成り代わると言っていた。
言葉には信憑性がある。
「体は何ともないの?」
「あぁ少し頭痛はするが、不思議なくらい正常だ。それでなんだが……魔王の記憶がな、頭の中に全て流れ込んできたんだ。今もこの瞬間も、少しずつ僕の過去として馴染みつつある。そういう意味でも若葉――やはり君をどうしても離してやれない。魔王の魂がな、王女様と幸せになりたかったと悲痛な叫び声をあげている。どうやら魔王の感情に引っ張られているみたいだ。だから僕は若葉の思う普通の人間とは違うのかもしれない。でも愛しい気持ちは変わらない。何も不自由することのない生活も約束する。本当は今すぐにでもこの腕に閉じ込めたい。でも若葉が悪魔を怖がっているのはわかってる。今はまだ結婚してくれとは言えない。だからせめて僕と――僕ともう一度友達から始めてくれませんか」
「――ちょっと待って! 分かったから。あんまりいっぺんに言わないで」
懸命に話すその姿に誠実さが伝わってくる。そこまで言われて無下にするほど冷たい人間ではない。
「悪かった。どうしても若葉を目の前にすると気持ちが高ぶってしまうみたいだね。これが魂を吸収した弊害なのかもしれないな」
「わーとっとりあえずお友達からね!」
照れもせず恥ずかしいセリフを吐くコルド相手に、若葉は勝てる気がしない。
明らかにホッとした表情を見せるコルドが少しいじらしくも感じる。
コルドが片膝を地面につく。突然のできごとに何が始まるのかと顔がこわばる。
「僕の名は来栖コルド。いや――本当の名はコルド・クルーシー。あなたのお名前をお聞かせ願えますか」
「えっそこから!?」
「もちろんだ」
大真面目に言うものだから気が抜けた。そこでピンとくる。出会いからやり直したいのだと。
「あたしは近衛若葉です」
「若葉さん。よろしければお礼も兼ねて、今度お食事にでも行きませんか。色々ご迷惑もかけたようですし」
(本当に律儀で真面目な人)
これは初めて食事に誘われたときの懐かしい言葉。
「どうしたらいいのか分からない」と言いながらも確かなことがある。
誤解やすれ違いが生じていただけで、好きな気持ちは変わっていない。
「はい! 喜んで」
「この先僕にどんな変化が起こるのか分からない。それでもどうかこれからの僕を見てくれたら嬉しい」
魂が一つになることによって様々な不都合が生まれるかもしれない。
そもそも二重人格と言っている時点で、すでに変化が始まっている気がする。
「うんそうだね。そうする」
微笑みを浮かべながら若葉は二重人格の利点に気づいてしまった。二人は意識を共有している。アランは意識の遮断ができると言っていた。
つまりサプライズができる。プレゼントを贈りたいときに欲しいものなどを本人に知られずに聞き出せば、悩むことなく喜ばせることができるのだ。
便利な道具扱いにするつもりはないが、このことはコルドには秘密にしておく。
どこかのタイミングでいずれ知られる日が来るのだとしても。
「ではまた後で来る」
コルドが部屋を出ていき一人になって考える。今更ながらこの世界でやっていけるのかと。アニメの世界でしか見たことのない魔法や魔物が登場するのだ。それでもこちらに来た以上順応していくしか方法がない。
元いた場所へ帰してはくれないだろうから。
散々うなっているところに、どこからか電話の着信音が鳴り響く。音源を探すと普段利用しているカバンからだった。持ってきた覚えはない。
不思議に思いながら取り出すと表示されていた名前に驚いた。
「えっお母さん? もしもし」
「あら若葉? つながってよかったわ。お母さん本当に驚いたんだからね。急に、結婚して彼の故郷へ行くと言うんだから。しかも海外でしょ」
(異世界って海外だったんだぁ……いやいやまさかねぇ)
変な思考がよぎるも話についていけない。ここに来たのは不本意だったし、そんなことを母に言った覚えがないから。そこでコルドの言葉を思い出す。一人残って何をしていたのかおおかた予想がついた。
アランの存在がこの世から消されたように、記憶の書き換えを行ったのだ。
「あーちょっと色々手違いがあって、まだ結婚するか分からないんだ。彼の故郷にいるにはいるんだけど……」
「あらそうなの。でも彼、コルドさんと言ったかしら。とても誠実そうな方よね。絶対に逃してはダメよ」
それからは色々小言を言われ続けたけれど、適当に受け流した。実家へ帰るたびに結婚しないのかと散々文句を言われていたせいか、あしらうスキルは上達したなと思う。
母はコルドと実際に会ったのだろうか。その辺りのことを今度コルドに聞いてみようと思った。
電話を切ったあと画面に映る壁紙を見た。見慣れた顔がそこにはある。
「本当に似ている。これって一度で二度美味しいってことかなぁ」
若葉はとんでもないことを呟く。会いたいと思えば三次元で会える推しの彼。
すでに思考回路がおかしくなっているのかもしれない。
少しニヤついていたところであることに気づく。
「えっ……どうして圏外なの!? 今電話鳴ったよね」
深いため息をつく。考えるだけ無駄だと。やれやれと首を横にふる。若葉はもう半分あきらめることにした。
この際、魔法の世界を堪能してやろうと思うのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回お会いできれば嬉しいです。




