12、融合①
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
①、②と続きます。
よろしくお願いいたします。
いよいよ限界を迎えようとしていた。
若葉は心の中で必死に叫ぶ。
(お願い! 誰か助けて)
状況からして助けてくれる人が現れるとは思っていない。おそらくアランに勝てる相手はいないのだ。けれど願わずにはいられない。
そんなときだった。若葉の身体が突如として発光し始める。
己の身に何かが起こるとは思ってもみなかったが、これは奇跡の前兆だ。
「えっ何!? 噓でしょ……」
理由までは全くもって見当もつかない。
不思議に思いながらも手の平と甲を交互に繰り返えし見る。すると頭の中に女性の声が響いた。
とてもやさし気な温かみのある声だった。
《あなたの身体をお借りすることをお許しください》
争っていた二人が動きを止める。
どことなく安心したかのように若葉は微笑む。それは誰の意思だったのか。
ここで眠るように若葉の意識が途切れた。
心と身体が誰かに乗り移られて、羽が生えたようにふわりと宙に浮く。それはまるで女神が降臨したかのように美しく輝いた。
「もう終わりにしましょう」
その声は悲しげに響いた。
「あっあなたは――」
アランはガクリと床に膝をつくと剣を手放した。
目尻からは一筋の雫がこぼれ落ちる。
誰も介入できない雰囲気に辺りは静まり返る。コルドは瞬きもせず呆然と立ち尽くす。
皆がゆくすえを見守る。
発光体と化した若葉は意図的に光の弓矢を作り出す。その矢が放たれると放物線を描き寸分の狂いもなくアランの心臓を撃ち抜いた。
「ぐっ……何故です! 何故私を……」
みなまで言う前にアランは胸をおさえ力尽き、床へ仰向けに倒れる。
発光体と化した若葉はコルドを優しく包み込んだ。
「どうか彼をよろしくね」
「まさかあなたは……あなたは王女様なのですか!?」
ほほえみと共に光が消え、若葉の身体は動かなくなった。同時にアランは砂のように姿を消し、その痕跡がコルドの中へ吸収されていった。
★★★★★★
若葉が目を覚ましたのは、一連のできごとが起こってから数日後のことだった。
その間コルドは片ときもそばを離れようとしなかった。若葉が心と身体の自由を奪われていたのだから心配するのも当然だろう。
コルドはやきもきしながら部屋の中をウロウロと動き回っていた。
「う……ん。あれ? あたし」
「若葉! 目が覚めたのか!?」
焦るようなコルドの声に状況が飲み込めない。
一体どのくらい眠っていたのだろうか。
「そういえば身体が発光して――あっねぇコルドがここにいるっていことは、アランさんはどうなったの」
「はぁ……開口一番聞くことがそれか。若葉が丸二日目を覚まさなくて僕は気が気じゃなかったというのに」
深く息を吐き、ふてくされたように答える。
「ふっ二日も!? でもアランさん、急に人が変わったように豹変するんだよ。気にしないほうがおかしいよ」
「確かにそうだな……あいつは僕の中に生きてる」
コルドは苦々しく答える。名前を呼ばないあたり相当ご立腹のようだ。
「死んじゃったってこと?」
「いや少し違うな。うーん説明が難しいな――まぁ肉体は消滅したのだが、意識は僕と共有している。なんというか二重人格に近いな」
物騒な言葉が聞こえて目が泳ぐ。常識では考えられないことが起こったのだ。
「ねぇ消滅ってどういうこと? ファンタジーじゃあるまいし何があったらそんなことになるの」
「ふぁんたじー? はよくわからないが、あぁそうか。若葉は身体を乗っ取られていたときの記憶はないんだな」
困ったように笑うコルドの口から語られた内容は信じられないものだった。
王女の魂が魔王の魂に取り憑いていたらしく、コルドを守るために若葉の身体を借りて魔王を消滅させたとのこと。
「ならあのときの声は王女様だったんだ」
「ん?」
「なんかね身体が光りだしたときに声が聞こえたんだよね。身体借りるよって」
「そうだったのか……僕もあのときは本当に驚いたよ。若葉が突然宙に浮いたかと思ったら光魔法を放つんだからな」
「噓!? ならあたし、もしかして魔法が使えるようになったりとかは……」
ピコンと頭にセンサーが反応し、上目遣いで期待の眼差しを向ける。
「――残念ながら使えない」
若葉は明らかに肩を落として暗い表情になる。そこまで落ち込むとは思っていなかったコルドは慌てながらも、ワントーン明るい声を出す。
「大丈夫。魔法が使えなくても若葉は若葉だよ。魔道具もあるし、何かあれば僕が守るから」
必死に弁明する姿に若葉は何だかおかしくなった。
「いつも冷静なコルドが焦るなんてすごく貴重だね」
コルドは若葉のおでこをコツンと弾いた。
「ったぁーぃ」
「はぁ心配したんだからな。このまま目が覚めないんじゃないかって」
「ごめんなさい」
「――いや謝るのは僕の方だな。巻き込んで悪かった。今言うべきことではないかもしれないが、これからのこと色々踏まえたうえで真剣に考えてくれないだろうか」
「うん分かった」
確かに色々なことがあった。それゆえに返事をするのがやっとだ。
「僕はどうも恋愛というものがよく分かっていないらしい。散々ミレーナ様にお説教を食らったよ。はぁとにかく若葉が目覚めたこと皆に知らせてくる」
めんどくさそうに深いため息をつくコルドが一気に老け込んだように見える。
諸々の事後処理など大変だったのだろう。疲れがにじみ出ている。
「あっねぇライル陛下は無事なの? 確かコルドのお兄さんだったよね」
国王という立場をかえりみずアランの脅威から守るため矢面にたったのだ。
本来は守られる側の人間であるにもかかわらず。アランは護衛騎士でもあったと聞いた。信頼していた相手から裏切られたようなものだ。つらい思いをしていなければいいと思う。
「無事だよ。王宮には回復魔法の使い手がいるからな。元気にしてはいる。軽い怪我で済んでいたから体は何ともない。ただ陛下のそばには常にアラン団長がいたからな、少し寂しそうに見えるときがある。心まで癒せる魔法などこの世に存在しないから当然と言えば当然だろう」
「そうなんだ……」
五人で集まる前、ミレーナ王妃にライル陛下とアランの関係を少しだけ聞いた。コルドに会えない変わりにアランを弟のようにかわいがっていたと。
少し責任を感じる。若葉がこの国へ足を踏み入れなければ、アランが消えることはなかったことに。とはいえ来たくて来たわけではないのだが。
もしかしたら出会いから全てこうなることが決まっていたのかもしれない。それこそ神の思し召しと言えるだろう。
「あぁそれからアラン団長のことだが、元から存在していなかったことになった」
「へっ!? どういうこと」
「あの場にいた四人にはしっかりと記憶に残っているのだが、それ以外の全ての人からあの人の記憶が消えたんだ」
「あれ? でもアランさんはこの国の騎士団長だったよね。なら今の団長って……」
「元々副団長が団長を務めていたことになている。順当にいったらいつかはそうなっていただろうからな」
重要な立ち位置である団長の席が、空席になっていなくてよかったと思う。
「そうなんだ……ところでさっきアランさんと意識を共有しているって言っていたけど、外に出てくることはあるの?」
先ほどから気になっていたことだ。
コルドは痛いところを突かれたような表情で言いたくなさそうにしている。
「まぁそうなるな――うっ言ってるそばからっクソッ」
目の前にアランが黒い靄とともに現れた。
「若葉さん、私に会いたくなったらいつでも呼んでください。推しと似ているという理由でもかまいませんので。うん? コルド様が怒っていらっしゃるのでそろそろ失礼します」
アランは騎士の礼をしながら黒い霧となり若葉の前から消えていった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回お会いできれば嬉しいです。




