11、覚醒
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
よろしくお願いいたします。
数日後、応接室で再び五人が集まることになった。
「アランはいまだに目を覚さない。副団長には護衛の意味もかねて、現状をあらかた説明してある。何か動きがあれば知らせが来ることになっている」
ライルが話し始めたときだった。外が急に騒がしくなる。
「えっ何?」
一斉に扉の方へ視線を向ける。万が一に備えてゆっくりと立ち上がる。
「おや? この気配は――アラン様がこちらに向かって来ているようですね」
「ラズマンよ、それは本当か」
「えぇ本当です」
コルドとライルがうなずき合い、前に出る。信頼関係が築けているからこそ何も言わずとも自然に動けるのだ。
後ろには若葉とミレーナが身を寄せた。ラズマンは何故か若葉のそばに寄り添った。
念のため二人は腰にぶら下がる剣に手を伸ばす。
そして勢いよく扉が開いた。目の前に現れたのはラズマンの宣言どおりアランだった。衣服が着崩れているのを見る限り、起き抜けに飛び出してきたのだろう。
見張りとして立っていた護衛は床に倒れている。幸い気絶しているだけのようで、血を見なくて済んだことに若葉は安堵する。
「若葉さんお迎えにあがりました」
「へっ?」
色々な意味で目を覚まし若葉を探しに来たのだ。
突然声をかけられ素っ頓狂な声が出る。目を細め優しく微笑みかけられても戸惑いしかない。
「まっ待てアラン。一体どうしたのだ。若葉さんは、まがりなりにもコルドの花嫁となる人だろう」
少し気を緩めながらライルが前へ出る。
「それの何が問題なのでしょうか。コルド様は私の魂を半分お持ちなのですよ? そのかたが選んだお相手ですから当然私の番ということになりましょう」
「何を言っている。番以前に若葉さんは一人しか存在しないのだぞ」
「えぇそうですね。確かにライル陛下の言うとおりです。ですが思い出したのですよ。私は運悪く、またしても悪魔として生まれてしまったことを。本当に絶望しましたよ。あぁまた人間に悪意を向けられる悪魔になってしまったのかと。しかしそこに薄れゆく魂を見つけたのです」
「それが僕だったわけか」
コルドは苦々しく呟く。それと同時にいらぬ負担を強いられた過去を思い出しす。
統治命令で向かった領地は、魔物たちが不平不満を漏らすカオスと化した場所。そのうえ両親とはまともに会うことができなかった。
そんな中でもライルがたまに様子を見に来てくれたことが救いだったことを。
「えぇだから私は決意しました。感情と記憶を封印し移してしまえばいいのだと。普通の人間になるためにはこの魔力は不要ですからね」
「なんてことなの……」
ミレーナはアランが暴君に見えて頭を抱えた。今にも気をやりそうなほどに顔が青白い。
いくら王女を失ったからと言って、コルドの境遇を思えば許せないのだ。
「ですが事情が変わりました。私が魔王であるならば全て返してもらえば何も問題はないのではないかと」
「ねぇちょっと待って! どうしてアランさんが魔王自身だって知っているの」
ずっと眠っていたアランがその事実を知るわけがない。魔王と呼ばれるのは、あくまで悪魔として自害した後だと聞いた。
「あぁそのことですか。コルド様と目が合ったときに記憶の回路がつながったのですよ。ですからコルド様と私は異体同心とでも言いましょうか。子がいたことは嬉しい誤算でしたが」
「異体同心って要するに心は一つと言うことよね!?」
若葉は不安のあまり顔が青白くなる。一瞬よぎった展開が現実になるのだと。
「えぇそうですよ。コルド様は私であり、私がコルド様でもあるのです」
「アランよ何を言っている! お前とコルドは別人格であろう」
アランはライルの問いかけに聞く耳を持たない。
「私はコルド様に魂の一部を移しました。これは紛れもない事実なのです。人格が違ったとしても私の片割れなのですよ。ゆえに若葉さんは私の番でもあるのです。そしてこの私と一緒に暮らした方が幸せになれると思うのですよ」
「えっ?」
若葉はアランの言いたいことが分からない。
「お分かりになりませんか? 若葉さんは私の顔がお好きでしょう。私とそっくりな容姿の方が携帯の待ち受けになっていらっしゃるので。まぁ携帯電話という言葉は初めて聞きましたが、世の中便利なものがあるものですね」
若葉は目を見開く。理解した途端信号機のように顔色がコロコロ変わる。
隠していたわけではないが、推しがいることを誰にも話していないのだ。
恨みがましくコルドを見る。
知られてしまった。勝手に見られた。そんな思いを込めて。
「違うんだ! たまたま視界に入っただけなんだ。故意に見ていない。信じてくれ!」
弁明する声がやけに大きく響く。
意図せずお互いの秘密をバラされ、気まづくてしかたない。
若葉は首を横に大きく振る。今はそんなことを考えている暇はない。
「確かにアランさんの言うことは否定できません。だからと言ってそれとこれとは別なんです。一緒にいたいと思うのはコルドです。あたしはアランさんとは一緒になりません」
昨日今日出会ったばかりのよく知らない人間に心を動かされるようにはできていない。
コルドとはまがりなりにも愛を育んだ関係なのだ。少なくとも若葉はそう思っている。それに世の中顔が全てではない。
少し不安そうに眉間にしわを寄せ、こちらを見ていたコルドは嬉しさを隠そうとするあまりより険しい顔になった。
「そうですか――でしたら、しかたありませんね。コルド様の魂を奪うまでです。そして私が成り代わって愛してあげましょう」
アランは腰にぶら下がっている剣を抜く。それを合図にライルが動く。おそらく足止め程度にしかならない。ライルが弱いわけではない。むしろ魔術、剣術ともに長けている。
それ以上にアランの剣技が凄まじいのだ。魔法が効かない以上誰にも止められない。金属がぶつかり合う音が響く中、若葉は小さく縮こまり耳をふさいだ。
「アラン落ち着け! 落ち着くんだっ。魂を奪ったところでお前はコルドにはなれないだろ」
「そんなことはございませんよ。すでに意識を共有しているのです。これは一つになる兆しが見えている証なのですよ」
「何をバカなっ――くっコルド! ここは一旦若葉さんを連れて逃げてくれ。俺はもうもたん」
何度も攻防を続けているせいか、徐々に体力が奪われてゆく。するとアランは不敵な笑みを浮かべる。
「そんなことできませんよ。だってアラン陛下はコルド様を孤独な離宮から連れ出してくれた恩人ですから。そうですねぇ――兄上? 僕は本当に嬉しかったんだよ。領地で辛いとき会いに来てくれたことが。父上と母上は一度も会いに来てくれなかったのに――」
「何だと!?」
ライルには思い当たる節があった。
父は政務で忙しく母はコルドから目を背けていたことを知っている。
その事実をアランが知るわけがない。
「まぁそれ以前に逃げるだなんて格好悪いことをしませんよ」
「そんなことはいいから早くっにげっ」
「あぁとても素晴らしい兄弟愛ですね。羨ましいです。ですがもうここまでです。お世話になった陛下には手荒な真似はしたくなかったのですが……仕方ありませんね」
アランはそう告げると一瞬動揺し力を弱めたライルのすきを突く。
剣を蹴り上あげ己の持っている剣の柄を首元に打ちつけ床に気絶させた。
目にもとまらぬ早業だった。
「ぐっ――」
コルドの目の前には涼しい顔をしたアランが立ちふさがる。剣を持ち身構える。勝てる気がしないが戦うしかない。
コルドは模擬戦でアランに勝てたことが一度もない。ライルとの勝敗は五分五分と言ったところ。
ライルが負けたのだ。コルドは覚悟を決める。
ラズマンは犬の姿のまま動く気配がない。まるでどちらが勝っても魔王が存在していれば構わないという態度。
「僕は絶対に負けませんよ。アラン団長に若葉は渡しません。僕が若葉を幸せにするんです! 僕が見つけた愛しい番なんですから」
「ははっお忘れですか? 私はコルド様と意識を共有しているのですよ。ですからこの戦いは私が勝つようにできているのです。諦めて死んでください」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら対峙する。しかしコルドもただでは殺られない。意識を共有しているのであれば、その回路を遮断するまでだ。
「ご指摘ありがとうございます。これであなたと対等に戦えるはずです」
「あぁ少し喋りすぎましたね。でもかえってよかったです。あなたの思考が分かる状態で勝っても嬉しくありませんから」
闘いは激しさを増す。金属がぶつかり合う音が響く中、若葉はただただ祈ることしかできない。
危害を加えられないと分かっていても怖い。ミレーナと手を握り合いながら勝負を見守る。
アランは予想以上に強かった。さすがは騎士団長の任を担うほどのことはある。
漫画やアニメの世界なら「わたしのために争わないで」などとヒロインが二人を止めに入るシーンが登場しそうだ。しかしここは現実なのだ。
もうダメかもしれない。そんな不安が無尽蔵に降りかかった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回お会いできれば嬉しいです。




