10、消された歴史②
おはようございます、こんにちは、こんばんは!
よろしくお願いいたします。
若葉はおそるおそる手を上げた。
「あのー少しいいですか。よく考えたらそれだと、アランさんが魔王だという証拠にはならないと思うんです。ラズマンさんと全然似てないですし……魔王の子孫だって言った方が納得できると言いますか」
ようやくこの時代に魔物たちの言葉が分かる子孫が誕生したと考える方が自然。
そうすれば何の憂いもなく今まで通りに過ごせるのだ。
どちらかが命を落とすことなど考えたくない。しかし若葉の願いは砕かれた。
「――ているのだよ」
「えっ?」
「似ているのだよ。若葉さんと亡くなった王女の顔が……。コルドは魔王の魂を一部ではあるが持っていると言ったことは覚えているかな」
「はっはい」
「そのコルドが選んだ相手だ! 何らかの影響が出ると考えるのが道理だ。それにアランは元々黒髪で生まれたと聞いたのだ」
若葉が選ばれた理由はあながち間違いではないだろう。意味合いは異なるかもしれないがこんな話を聞いたことがある。臓器提供では元の持ち主の影響で、受けた側の性格や好みが変わるということを。それに人を好きになるとき、似たような外見の人を選びがちなのだ。
「それは確かですか兄上!」
コルドは黙っていられなかった。若葉を選んだのはコルドの意思ではないと言われたも同然だったから。
「あぁ亡くなった王女の肖像画が一枚だけ残っていてな。確かめたから間違いない。そして裏には文字が書いてあった。所々かすれていたのだが、魔法で復元したら「何も持たない普通の人間として生まれたかった」と書かれていたんだよ。それにコルドも元の髪色は、青みがかった金色をしていたと父上に聞いたんだ」
コルドの表情はさらに曇る。まるで黒いオーラにでも包まれているようにどんよりとした空気が流れる。
その反面若葉は心配そうに見つめながらも、心のどこかでコルドが生まれたときの髪色を見てみたいという思いがよぎった。さすがにこの場では口が裂けても言えないが。
「まさか!?」
意気消沈しているはずのコルドが勢いよく立ち上がる。ラズマン犬以外の三人が顔を見合わせる。若葉はわけが分からず三人の顔を順番に見回す。何度も繰り返しながら。
コルドとミレーナの顔が見るからに青白い。目も丸くなり固まっている。するとライルが同感だと言いたげにゆっくりと頷く。
コルドは深いため息をつき脱力すると再び座り直す。
「若葉は知らないと思うが、この国の人間は何人たりとも魔力を宿していている。それは貴族だとか平民であるとかは関係ないんだ。魔力量の差はあれど必ずなんだよ。たった一人を除いてな」
「えっそれって……」
若葉は思い返していた。アランの行動を。
「そうだよ。アラン団長はこの国で唯一魔力を宿していない」
ライルがコルドに続く。その表情は固い。
「コルドの闇魔法が発現し髪色が変化したのと同じ頃、カーライト公爵家から密書が届いたんだ。そこには「アランの魔力が失われ髪色が変化した」と書かれてあったのだ。当時は呪いにでもかかったのだと秘密裏に処理されるはずだった。コルドが魔物の言葉が分かると知るまでは……。文献を改めた父上はある考えにたどり着いた。アランが魔力を魂に封印しコルドの体に転移させたのではと」
アランが魔王であることが真実味を帯びる。
「そうだったのか……だからあのとき」
そう呟くとコルドは黙りこくってしまった。何かに悩み眉間にしわを寄せ難しい表情をしている。
珍しい表情に若葉は心配になった。
「どうかしたの?」
「あっいや……アラン団長と目が合ったとき、魔力を奪われる感覚があったんだ。実際は何事もなかったのだが、もしかしたら魔力を取り戻そうとしたのかもしれないと思ってな」
若葉の鼓動がこれでもかと鳴り響く。
(えっ……それって我の魂を返してもらうぞって展開なんじゃないの!?)
ここでずっと黙っていたラズマン犬が口を開く。
「その考えはあながち間違いではない。あの一瞬コルド様の魔力がアランど――様の魂に移り、再び戻った痕跡が見えた」
「えっ何その能力」
「ラズマン殿は魔力量が多分にある。そして察知する能力に優れているのだよ。そうなったのはコルドのおかげなのだがな」
若葉は思った。逃げようとしたときに気づかれたのはそういう理由かと。
敵に回したら恐ろしい。
「兄上――僕のおかげとはどういうことですか。ラズマンとは側近に指名したときが初対面のはずでは」
「まさか気づいていなかったとはな。俺とお前が初めて会ったとき、隣にいただろ」
「おっお前あのときの魔物なのか!?」
コルドはラズマンを見る。瞳孔がこれでもかというくらい開く。何故言わなかったと目が訴えている。
「確かに当時と容姿があまりにも違うが、今の姿に近しいものがあるだろ」
ライル陛下はラズマンをあごで指す。当のコルドは隠し事をされていてショックだったのか、気づけなかったことに腹が立つのか。少しうなだれる。
「申し訳ありませんコルド様。あなたのお側につくことで自己満足しており、特に伝える必要生を感じませんでした。決して隠しているつもりはなかったのです」
人語を話す犬。それゆえあまりにも説得力に欠ける。
(一体何の話をしているんだろう)
若葉はラズマンに対して次第に怖さを感じなくなりつつある。悪魔が怖い存在ではないと分かった以上、姿を戻してもらっても構わない。
しかしその提案はしない。可愛いさに心のよりどころを求めているから。というのもこんなとんでもない話を聞かされて心が悲鳴をあげそうなのだ。
少しでも癒しを求めたくなった結果、犬好きの若葉にとってラズマン犬は貴重な存在なのだ。聞くのにも労力がいるのだから。
「あぁすまない。王妃と若葉さんには分からない話をしてしまったな。この話はまた別の機会にでも聞いてくれ。問題はアランのことだ」
そう言うとライル陛下は四人に視線を向ける。
これ以上何の話があるのかと一斉にかたずをのむ。疲れているのかライル陛下の額には薄っすらと汗がにじんでいる。
「アランが魔力を取り戻そうとしているという見解が事実なら……。アランが目を覚ましたとき、何が起こるか分からない」
それは最も危惧すべきこと。
「えぇもしかしたら魔王の記憶がよみがえる可能性があるわ。若葉さんに接するアラン団長はどこかおかしかったもの」
「――どういうことか説明してくれ」
ミレーナはライルに促されて、アランが衝動的に若葉を抱きしめようとしていたことなど二人が強制転移してくる前のできごとを話した。
「何だと! それは本当ですか!?」
怒りを含んだその声色に、若葉は肩をすくませ目をつむる。そして両耳に手を置いて塞いだ。コルドの怒鳴り声を聞いたことがなかったから。
「コルド落ち着け。そんなに大きな声を出すな。若葉さんが怖がっているのが見えないのか」
「悪い……ついカッとなって」
コルドは嫉妬でどうにかなりそうだった。アランが若葉を保護してくれたことには感謝している。
しかし容姿が気に食わないのだ。銀髪を見た瞬間目を疑った。若葉の携帯にアランとそっくりなキャラクターを見たことがあるから。
アランのそうした行動を知ってしまった以上意識せざるおえない。
「気持ちは分からんでもないが、今後の対策を練らねばならんな」
一同頷くととりあえず今日のところはと解散した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回はついに……?
またお会いできれば嬉しいです。




