すたんど・ばい
セサミシード総督府総督執務室。アイリスは設計やCAD検討などのデスクトップで出来ることはなるべくここで行うようにしていた。何の事は無い、ただ単にセサミシード内の他の場所に比べて断然楽なのだ。多機能デスクは使用に慣れると名前の通り多機能で、セサミシードのメインフレームにアクセスできるので処理も軽くて早い。更にクオを側に就けておけば雑用から一部の自動設計の並行処理、セサミシード運用上の報告までサポートしてくれる。また、居場所をある程度固定しておくことでセサミオープナーメンバーやセサミシードで勤務するNPC職員らがアイリスを見つけやすい、というメリットもあり、ギルメンからの評判もいい。
「つまり、蜘蛛のフレームに目途がついたから間に合うかどうか微妙だけど揚陸艇を用意したい、と?」
訪れているのは多脚戦車のフレーム設計を携えたメイフェアだ。
「はい。バックヤードから取り出しだとかなり容積を圧迫しますし、プリンセスメイフェアが接岸できる設備が現地にない可能性も大きいでしょう?艦から直接降下する方法もありますが、蜘蛛は空間機動の考慮をあまりしていませんから、それもリスキーかな、と」
「今からで間に合うとは思えないけど?」
「β中に設計だけ進めていたプランを手直しします。1時間もあれば製作を始められますよ?ドックは空いていますから。資材は使いますけど、ゲーム内時間で明日には初号機ができあがります」
メイフェアが用意した設計データのファイルは多脚戦車フレームのそれと、揚陸艇の母体になる輸送機の設計案。アイリスは両方を読み込むようにクオに指示を出し、輸送機の諸元をディスプレイに呼び出した。
「60mは大きくない?プリンセスメイフェアの艦載スペースに収まるの?」
「基本レイアウトを踏襲して規模は縮小します。それと機関も変更ですが、これに関してはサイズと推力が見合う既存の物を流用ですから問題ないでしょう。主翼もいりませんね。武装用のパイロンバルジくらいは残しますか。それでも大きめですが、どうせ現状艦載機も艦載艇もありませんからどうにかなるでしょう。」
「あてはある、か。うん、じゃあ進めて。あと蜘蛛優先だから何か蜘蛛の設計変更が必要なら揚陸艇は中断するかも知れないからね」
「はい、それは当然でしょうね」
メイフェアにとってもこの件は思い付きのついで仕事に近かったようだ。
「最前部に半球ドーム型のターレットを置いて、そこに主武装と乗員の視界確保のカメラを置くんだな?」
「装甲が3次曲面で作れないようなら考え直すがどうじゃ?ムラよ」
「単純な半球にいくつか穴が開いているくらいなら問題ない。一応表面硬化処理を施した無重力高圧鋳造スチールで50㎜、発泡スチール合金で20㎜、バイオセラミックで10㎜の合計80㎜の装甲を予定だが容積は足りてるかな?」
「案外薄いの。もう少し厚くしても良いぞ?遠隔操作で砲塔内には人は入らぬ予定じゃし」
「これでミサイルや無反動砲、レーザーにはかなり耐えられると踏んでる。それに軽いほうが砲塔の追従性は上がるだろう?」
「まあ、発泡合金を挟むなら中空装甲に近い効果があるかの?バイオセラミックも耐熱に優れておるようじゃし」
「中空装甲ってなんですか?」
村田とムラのやり取りにドーユーが質問を挟んだ。
「ミサイルや無反動砲は成形炸薬弾を使うのが普通なんだがね、ドーユー君。詳しい理屈は省くけど、2枚の装甲の間に隙間がある構造にすると成形炸薬弾の効果を弱める働きをするんだ。あと、徹甲弾だと密度の変化で効果が減衰するからそれを狙ってもいる。レーザーにはバイオセラミックの耐熱性に期待、だな」
「後は内側にスパイダーシルクでライナーを張って内部剥離対策を取ったほうがいいかの?」
「ああ、それは良いな。もらうよ、村田さん。」
耐衝撃にはそれほど強くないセラミック系素材が着弾の衝撃波で剥離して飛散しないように装甲内壁にネットを張るのだ、というムラの解説にドーユーは色々と工夫があるものなのだな、と感心していた。まあ、完全に理解していたわけではないが。
「戦車らしいとは思うけど、月面で3色迷彩って意味があるのか?姉貴」
「…だよねぇ」
完成予想3Dモデルにカラーリングのテクスチャーを張り付けて検討するのは比較的暇な飛鳥、大地、バズー、バダーの4人だ。製品のカラーリングは製造ラインに指定しておけば結構凝ったものでも自動で彩色できる。また、取得した装備機材の彩色もメニューで変更でき、桃次郎さんの一番星やムツキさんのゼカマシもオーナーが図案テクスチャーをいじりまわして製作したカラーリングだという。
「まあ、らしくてかっこいいものを選ぶ、というのも一つの方向性だが」
バダーが「光と影」パターンから「2010年代NATO」パターンに張り替えながら唸る。
「なあ、兄貴。別に戦車のパターンにこだわらなくてもいいんじゃないか?」
それを見ながらバズーが感想を漏らす。
「そうだな…こうだと?」
次にバダーが貼り付けたのは制空ロービジパターンだ。
「どうせ空気はないんですし、いっそ上は白、下は黒では?」
それをベースに飛鳥が色を置き換える。
「うん、月面機らしくはなったかな?」
「後は個体ごとに多少違う所を作って差別化するか」
「そうだな、オプション装備での仕様違いも用意するそうだし」
大地、バズー、バダーもその配色で納得のようだった。
「あれ?姉貴どうしたの?」
一人飛鳥がメニューの何かをいじる動作を続けているのに大地が気付いた。
「うん、パーソナルマークとか着けたらどうかと思ってさ」
「ふぅん?」




