うぇるかむばっく
50話に挿絵を追加しました。
「ええと、何なのでしょう、このカオス」
こめかみを押さえるプルナの視線の先には、アイリスのスタンディングのアキレス腱固めを受けて大開脚状態で悶絶する飛鳥、その後方にワゴンに乗せたティーセットで紅茶を準備するクオ、その傍らで砂時計を眺めるメイフェア、そして、アイリスたちの手前で顔の下半分を押さえてうずくまる大地。
「まあ、何だ。また飛鳥君の悪ふざけが過ぎたんだろうな、というのはわかる」
ムラが呆れ顔でプルナに答えた。
結局スカーフェイスの好意で一番星に便乗させてもらった大地だが、ログアウト中に友人からかかってきた電話が長引いて再ログインできた時には既にバンゲリング港に着いているどころか、【松の湯】購入分のザラマンダ及びアップデートキットの積み込み、製品版Πレックスの予約まで終わっており、桃次郎さんの監督下ザラマンダの慣熟訓練を兼ねて同行した【松の湯】ギルドメンバーがセサミシード産の食材を一番星のカーゴに積み上げ始めていた。恐縮頻りで手伝いを申し出た大地にスカーフェイスは呵々大笑し、
「なに、リアルの事情やアクシデントは仕方ないさ。それよりも青猫さんから使いを頼まれているんだろう?第二ガレージにいる、と聞いてるから行ってくるといい」
と送り出してくれた。
第二ガレージを探すのにしばらく総督府をさまよっていた大地を見つけたのはムラとプルナだった。
「おや、大地君戻っていたのかい?」
「あの、ムラさん?今日入港の桃次郎さんの一番星号で戻ってくるってお話ししていたと思いますが」
「…ああ、そういえばそんな話も…あったかな?」
プルナの突っ込みに思案顔になるムラだったが、彼が、特に素材研究に没頭している時は人の話をろくに聞いていないことがままある、と飛鳥から伝え聞いていた大地は単にああ、こんなふうか、と納得していた。
「ムラさんにもお土産はありますよ?大型草食竜の表皮です。共有バックヤードに移しておきましたから後で姉貴と見てください」
「ほう、それは興味深いな。ぜひ見させてもらおう。ところで大地君はこれから?」
「恥ずかしい話ですが、第二ガレージを探していて。第二ガレージにアイリスさんがいると聞いたのはいいんですが、肝心の第二ガレージの場所が…」
「えっと、それなら私たちも第二ガレージに行くところですから、一緒に行きましょう?大地さん」
「助かります、プルナさん」
そうして、地方での体験談や大地の不在中に始まった多脚戦車の開発などの話をしながら3人は第二ガレージに向かったのだった。
その第二ガレージでは、先に仕様が固まった多脚戦車駆動部フレームに脚部装甲を取り付け終わったところだった。
「ふう、これで一段落だね。あとは村田さんとムラさんを待って、上物のレイアウトを詰めないとね。待つ間、お茶にでもしようか、クオ?」
「かしこまりました。準備してまいります」
ワークスーツの前合わせをはだけて一息ついたアイリスがクオに指示を出した。
「ふぃー、やっと一休みです」
助手に駆り出された飛鳥が、やはりワークスーツをはだけて座り込む。
「もうこんな時間ですのね。さすがにザラマンダの調温機能があっても、3時間も動き詰めだと熱いものですね」
そういうメイフェアは一人、ワークスーツからこのところすっかり普段着にしている着物に袴といういでたちに着替えている。
「メイフェアさん、ちっとも暑そうには見えませんが」
「そんなことはありませんよ?飛鳥さん」
「いや、今度ばかりは飛鳥ちゃんに賛同するよ。メイちゃんすんごい涼しげ」
「ですよねー。…お!」
「どうしました?飛鳥さん」
「あいはぶいんすぴれーしょん」
「またろくでもないことでしょ」
「ひどいなぁ先輩。この足フレームバックにカタログ用のスクショを撮っとくのはどうかと」
「じゃあ今度は飛鳥ちゃんがモデルね」
「そうですね、前回のプロモーションでは飛鳥さんだけ不参加でしたし」
「うう、それを言われると…でも私、撮影係でしたし。それにセサミオープナー製品のカタログに青猫さんは必要だと思うんですが」
「仕方ない娘ねぇ。じゃあ、私も付き合うから飛鳥ちゃんもモデル。ギルマス命令」
「では、私がカメラマン役ですね?お二人とも、衣装はどうします?また水着ですか?」
「…この格好のままで行きましょう。こう、胸元おへその辺りまで開いて。だいじょぶ、水着平気でしたから、バストトップ見えなきゃ倫理コードには引っかかりません」
メイフェアの問いに、しばし考えて飛鳥が答えた。
「いやいや、飛鳥ちゃん。プライベートスペース以外じゃブラはくっついたままになる仕様だからバストトップは見えないからね?」
因みにマイクロビキニはブラ有りの判定だったらしい。あれでも。ともあれ、臨時の撮影会が第二ガレージで始まったのだった。
第二ガレージに大地、ムラ、プルナの3人が到着したのと3人と反対側のドアからティーセットを運んできたクオが入ってきたのはほぼ同時だった。
「やあ、お帰り大地君。地表はどうだった?」
「あ、はい。おかげさまで色々と成果はありましたよ。Πレックスのテストも途中報告の通り、順調でした」
にっこり笑ったアイリスに出迎えられた大地の顔が赤い。大きくはだけられたままの前合わせに目のやり場に困る。と、そのアイリスの後ろに悪い笑顔の飛鳥が忍び寄るのが目に入る。
「あ、アイリスさん!」
大地が警告を発しようとするのと、アイリスのワークスーツの肩に手をかけた飛鳥が勢いよく引き下ろしたのは同時だった。
数秒、時間が止まった。
脱兎のごとく逃げ出す飛鳥。
獲物を負うチーターのように躍動するアイリス。
ため息を一つついてティーセットを用意するクオに歩み寄るメイフェア。
顔からエフェクトを散らしうずくまる大地。
そして、プルナは呟くのだった。
「ええと、なんでしょう、このカオス」




