ある日の昼食
山葵を少量箸に取り、蕎麦と共にそばつゆに運ぶ。
「まあ、なんて言うか、さすがゲームだな、とは思うんだけど」
ずるずる。
「事が動き出すと早いものですね。今回一番大変だったのはドーユーさんだと思いますが」
ぞぞっ。
「メイちゃんは音出すの平気なんだ。欧米系は大体抵抗あるって聞いたけど」
ちゅるん。
「作法は所によって違うのが当たり前です。このほうがお蕎麦とおつゆの香りが立ちますし。でも、身に着くまでずいぶん練習したんですよ?」
総督府庭園にテーブルセットを出してざる蕎麦をすすりながら、一日で体裁を整えつつある村落を眼下に収め、会話は続く。
「しかしあれだ、NPCの村長さん」
「えー、シュバルツさんだっけ?ムラさん」
「そう、そんな名前だったな。彼が取りまとめてくれて助かった、て思う所だよな。これ」
「わしは蕎麦好きじゃが、さすがに一人当たり20人前以上の分量はのう」
ムラの述懐に村田も同意する。
「デスヨネー。なんか面会を求められて、要件が入植者が引っ越しそばを用意しようとしているがどうするかって、最初は何言ってんのこの人と思ったけど」
なんでも、入植者のリーダー役に就いていたシュバルツ氏が各世帯でばらばらに引っ越し蕎麦を用意しようとしていたのを察知して、いくら何でも数が多すぎると右代表で取りまとめてくれたらしい。なにしろ、港湾職員とプリンセスメイフェアの乗務員として第一次雇用が200名、すぐに工業区画が解放できたので、第二次雇用が50人、公団支部職員が20人、更に港湾警備と居住区警備に各20人、加えて家族ぐるみでの入植を希望する者、入植者向けの商店営業を申請して来る者などで、この1週間でセサミシードの人口は激増している。最初は集合住宅「テムさんのアパート」を用意したドーユーだったが、すぐにそれでは対応不能と判明し、「テムさんのアパート」は数棟が独身者向けに設置されたのみで家族持ち向けには20パターンの戸建て住宅を設計、場合によってはカスタマイズに応じたりもしたため、このところ地味にではあるが一番忙しかったのはドーユーだったはずだ。
「忙しかったが、こうして自分で設計した家で村落ができてるのを改めて見ると充実感が凄いな」
「そろそろ交番とか消防、病院も必要だよね。シュバルツさんからも要望上がってるし」
「とりあえず緊急車両の代わりになるものが早期に用意できたのは僥倖でしたね」
通りをたしたしと歩くのはΠレックスの派生機で、機銃とキッチンコンテナを取り外し動力を電動化した機体だ。パトロールレックス、略してパトレックスと名付けられた。その他、今は総督府ガレージで待機しているが、ネットグレネードを消火弾グレネードに換装したファイアレックス、火器をすべて撤去し、コンテナを医療搬送用に換装したメディックスが製作されている。
「汎用性重視でモジュール化したのが早速役だったよね。さすがメイちゃんの設計だよ」
「もうちょっと揺れるかと思ったがそんなこともなくて驚いたよ」
実は猪に不意を打たれて負傷し、搬送第一号となったバズーの感想だ。
「そこはΠレックスの時点で考慮に入っていましたから。コンテナ開けたらいつも大惨事では大地さんが可哀想でしょう?」
「まあ、違いないな」
重心をあまり上下させない走行アルゴリズムのΠレックスシリーズは一見した印象と異なりコクピットやコンテナはほとんど揺れない。ただし、機動戦闘モードでリミッターが外れた状態ではその限りでないが。
「まああの辺も一度地表に降りて本格的にテストしたいとこだよね」
「テストといえば姫様」
「なに?クオ」
「ミケ様からレポートが。機動補助ユニットはおおむね期待通りに動いているようですが、製品化前にリミッターを付けたほうがいいと」
「そうなの?」
「はい。うっかり15G旋回を30秒続けて失神したそうです」
「それは気構えが足りないんだよ。うっかりだから耐えられないんで最初からそのつもりで挑めば」
「「「「「「「「「いやいや」」」」」」」」」
結局、周囲の説得もあり最大Gを制限するリミッターが設定されたが、マニュアルで解除できる仕様が設定された。リミッターカットを残した理由を尋ねられたアイリスはこう答えたという。
「自爆覚悟の自己責任はロマンだと思うのよ」




