麻酔銃だ!ネット砲だ!
大地は、途方にくれていた。
フロンティア産の食材とそれに合う調理法開発のためにセサミシードから離れ活動する大地に餞別を用意しよう、という話が始まりだった。大地自身は基本調味料をセットで調達できたので、それで十分だと固辞したのだが、アイリスらは、それはほぼ独力でスタンリー・キューブリック~セサミシード間を渡った熱意に対する報酬で別枠だと譲らなかったのだ。
「一応ね、バズー機、バダー機、ミケ機と併せて大地機のザラマンダも用意できてるんだけど、あれは汎作業用と戦闘用で大地君の目的にフィットしてるかといわれると微妙だと思うんだ。それにザラマンダはセサミオープナーの標準装備だし」
工業区画の解放は、全員でとりかかった結果昨日一日で完了しており、ザラマンダは資材さえあれば量産可能な体制ができている。そうなってしまえば生産ラインに製作指示を出すだけなので特に労力もない。まあ、未だ計画中段階の港湾警備隊と居住区警備隊用の各20機ができあがってしまっているのは最小生産ロットのせいでご愛嬌だろう。
「あれじゃろう?狩猟や採集も頻繁に行う想定じゃろう?獲物の生きのよさを確保するためにも、生け捕りにできる装備が必要じゃあるまいかと思うんじゃ」
「具体的には?村田さん」
「麻酔銃はテーザーを使ってもらうとして、ネットグレネードとかどうじゃ?」
「しかし、村田さん、いくらザラマンダでもあまり大型の装備だと取り回し不能になるぞ?それに運搬手段も考えないと、生きたままじゃバックヤードに転送できんだろうし」
村田の提案の問題点をムラが指摘する。
「大地さんのポッドをベースに大型のオプションパックとしてはどうでしょう?どの道食材探索なら地表が主な活動領域になりますし、宇宙機のポッドでは使い道がありません。それにあれを改造すれば初期装備保険が適用してもらえる可能性があります」
「ああ、そうだね、インターフェイスをザラマンダ対応にごっそり改造したポッドも保険対象になったし。その辺検証するにもいいテストベッドになるかも」
メイフェアの案にアイリスも乗り気になる。
「ネットグレネードって、要するにネット砲、てことですよね。スパイダーシルクで網を造れば丈夫で軽量な物ができると思います」
「搬送コンテナは生物を運ぶんだから冷蔵仕様がいいよな。ちょうど開拓地住宅向けにユニット冷蔵室を考えてたんだが、規模を小さくして使ってみるか?」
飛鳥とドーユーもそれぞれアイデアを出してくる。
「え?え?そんなデラックスでなくても…」
「あ、遠慮しなくても大丈夫ですよ?皆さん大地さんを末の弟みたいに思ってますから、力になれればうれしいと思っているんですよ」
どんどん話が進んでいくのに気後れする大地にプルナが微笑みかける。
「あ、大地君、ポッド改造で突っ走りかけたけど、大地君はそれでよかったかな?ポッドもやっぱり使う、て事なら別に用意するけど」
「あ、はい、確かにポッドの出番は少なくなると思いますし」
大地はアイリスの思いだしたような質問に反射的に了承の返答を返した。
「よし、じゃあ機械設計じゃあ俺たちの出番はないし、戦闘訓練に行こうか」
「そうだな。大地君は護衛なしの局面もあるだろうし、いくらかは使えるようになった方がいい」
「え?え?」
いつのまにかインセクティア兄弟に戦闘訓練を受けることになった大地は、改造計画の議場となった執務室から連れ出されていった。それは、開発者集団セサミオープナーからブレーキが取り外された瞬間だったかも、しれない。
それは、鳥脚型の二本足で佇んでいた。脚の高さは3mほど、脚のつく腰部から水平に1.5m位の胴体があり、その背中側は装甲ハッチで盛り上がっており、わずかに元の作業ポッドの面影を残す。一方腹側には胴体前後長いっぱいのコンテナになっており、これは必要に応じて着脱、あるいは換装できるようになっているようだ。脚の基部の上左側には胴体下の物よりやや小ぶりなコンテナ、右には75㎜の短砲身砲にリボルバー式の自動装填機、巻き上げウインチを組み合わせた火器がむき出しで着いている。胴体前端からはさらに1mの多重関節を持つアームが一本伸び、先端はカメラユニット、2連装の村田キ52自動銃、テーザーガン、上下に開く多目的大型マニピュレーターを備えた複合ユニットがつく。一方、腰から後ろには3mをわずかに超えるスタビライザーが水平に伸びている。もっと分かりやすく言えば、武装した2足歩行型の肉食恐竜型、と言ってしまってもいいだろう。
「左のコンテナにはIHテーブル、オーブンレンジ、給湯器がビルトインされた野戦キッチン仕様になってるんだ。展開すればどこでも調理が始められるよ。おなかのコンテナはパーテションで区切って冷凍冷蔵コンテナになってるから、確保した食材はこっちに収めるといい。座り込んでキッチンを展開すれば側面ハッチとちょうど連絡するようにレイアウトしてる。右腰のネットグレネードは6連発、最大連射速度は毎秒1発だけど、そんなに連射するようなものじゃないから十分だと思うよ」
「あの…」
「動力は内燃機関で腰部ユニットに組み込んでる。燃料タンクはスタビライザーの根元の方だ。計算ではフルタンクで平均300㎞位の行動範囲が予想される。高効率燃料は公団で購入できるよ」
「あ、あの…」
「ボディーはメイちゃんが基礎設計、フレームの素材検討と強度計算はムラさん、コンテナはドーユーさんで当然火器は村田さんの設計。私はシステムレイアウトと統合コントロールを担当したんだ。あ、ネットは飛鳥ちゃんだね」
「アイリス、さん?」
「いやいやみんなノリノリで、楽しく作らせてもらったよ。ちょっと自由すぎないかって村田さんに聞いたら自由なのは生まれつきだっていうから納得しちゃったよ」
けらけらと笑うアイリスに、大地は何をどう突っ込めばいいのかわからなくなってくる。
「それでね、名前なんだけど、協議の結果【Π・レックス】と呼称することになったからよろしくね?」
「…はい…」
大地は、途方にくれていた。




