今、闘う時が来た
突き込み、薙ぎ、振り下ろし、打ち上げる
「はっ、たっ、ふっ、はっ、やいっ、ねっ、さすっ、がっ」
手刀を、脚を、肘を、膝を
「むっ、たっ、当たら、ないな、ホントに、生産職か?」
逸らし、払い、流し、躱し
「よっ、捕まえた」
にこり
「うぉっ?」
アイリスはとらえたバダーの右腕をひしぎ、スタンディングの脇固めに入る。
「ちっ、まだ!」
バダーは前方宙返りで拘束をのがれようとする。
「おっと」
しかし、回転に入ったところで体重をかけられ、背中から落下、右腕を極めたままのアイリスはそのまま腕を組みかえてチキンウイングフェイスロックに移行する。
「あだだ、割れるもげる割れるもげる」
たしたしとタップするバダー。
「ふう、さすがにスピードあるからバダーさんたちは手ごわいや」
「いやいや、その俺たちに連勝だからねアイリスさん」
先立って高速ジャーマンスープレックスで沈んだバズーが半ばあきれ顔で感想をこぼした。
トレーニングルーム。それは、ギルドホームの機能を調べているうちに見つけた機能の一つだった。ここでは色々な戦闘訓練ができ、デスペナルティーがつかない対人戦闘もその一つだ。対戦フィールドも道場のような空間から森林、草原、砂漠、果ては水中や宇宙まで様々にシミュレートできる。この機能を見つけたバズーが試してみたがったので、総督府の適当に広い部屋を選んでトレーニングルームに設定、道場フィールドで痛覚最大での対戦を行ってみたところだ。因みに少し離れたところではメイフェアが薙刀を振り回している。
「アイリスさんどうなってんだろうねあれ」
「あー、あいつ目はいいんですよ。昔から」
「ですよねー。リアルじゃ身体スペックが目に追い付いてない感じ?リアルの競技レベルじゃあれだけど、温泉ピンポンだと無敵みたいな」
ドーユーの疑問にミケと飛鳥が反応した。
「目がよければできるってもんじゃないと思うが」
「あいつのとこ男兄弟だから、チャンネル争いとかになると大体負けて格闘技番組とかよく見せられたそうです。今にして思えばいわゆる見取り稽古になってたんでしょうね。で、VR初期もお兄さんたちに誘われて対戦格闘ばっかりだった時期があるらしくて」
「そうそう、先輩時々VRの方が思うように体が動くって言ってました」
「多分、あいつの中じゃもう運動神経がVRに最適化されてるんでしょうね。それで日常生活に不都合がないから当人は全く気になってないようですけど」
「まあ、多分それに加えてステータスや格闘スキルも効いておるんじゃろうな」
アイリスが今度は相手を大地に変えて対戦を始めたのをにこにこと眺めながら村田も分析に加わった。
「うわぁ、大地君大丈夫か?てか、何か戦闘スキル取ってる?飛鳥ちゃん」
「あっはっは、ドローン突っ切る間に射撃スキルは発現したって言ってましたけど」
つまり、格闘関連は特にスキルはなく、種族的にもエルフィンは格闘戦向きではないわけで
「自殺行為だな。いや、彼の業界ではご褒美なのかな?」
冷静にムラが評したころには十字固めの餌食になっていた。
「ムラ様は姫様に挑戦なさらないのですか?」
「やめてくれ、俺は接近戦をするタイプじゃないよ」
クオの質問に苦笑しながら答えるムラだった。そんな一団の下にとぼとぼと戻ってきたのは大地だ。
「ひ、ひどいめにあった」
「いや大地、感心したよ。バダーさんやバズーさんと闘う先輩を見てなお挑む勇気はお姉ちゃんにはないね」
「なんかバズーさんにとっ捕まったと思ったら、アイリスさんの前に放り込まれてた。あ、あれ?」
「どした?先輩の太ももの感触でも反芻してんの?」
「な、なわけないだろ!!でも…」
「でも?」
「なんか格闘スキル発現した…」




