Kikkou
ぐだぐだになりかけながらも本拠をセサミシード総督府内に置くことを決め、メンバー全員で申請書の各項目が埋まっていることを確認し送付すると、数分で執務室にバレーボール大の銀色の球体が現れた。
「姫様、お手を煩わせて申し訳ありませんが、これをデスクの右に置いてください」
いつもならアイリスがやると言っても自分が動きたがるクオが言うのだから、ギルドコアの移動にはギルドマスター権限が係るのだろう。
「ん?案外重たいね。せっかく球体なんだから、転がした方が早いか」
ゴロゴロとデスクの脇までギルドコアを転がすと、デスクのモニターランプとギルドコアがちかちかと発光点滅しはじめた。アイリスがクオに視線を向けると、クオの頭に付いているメイドのヘッドドレスを模したパーツも同様にちかちかと光を放っている。
「これはあれかな、通信中です、しばらくお待ちください、的な?」
「now readingとかかの?」
「loadのほうかもしれん」
アイリス、村田、ムラの3人の感想に、どれも同じようなものではないでしょうか、とメイフェアとプルナは思ったのだが、あえてそれが口や顔に出される事は無かった。
「お待たせいたしました。姫様、皆様」
2,3分経ったところでクオが終了報告をしてきた。
「これでこのギルドコアの機能はセサミシードのメインフレームの管理下に入ったってこと?」
「いいえ、姫様。管理下はおおげさです。ユーザーインターフェイスを統合したに留まります。ギルドコアのシステムの過半はワールドシステムの管理下ですから」
「まあ、そうよね。普通」
「ですが、インターフェイスを統合したので、皆様の利便性は向上できたと思います。私がお供していればどちらにいらしていてもホーム機能の一部をご利用いただけます」
例えばメンバーの登録や脱退、プレイヤーの個人バックヤードとは別枠のギルド共有バックヤードの使用はギルドコアを用いて行うので、通常はホームに一旦戻らなければならない。コアは全く移動できないものでもないようだが、ひょいひょい持ち歩けるような重量でもないし破壊不能とはだれも言っていないので気軽に持ち出すのもはばかられる。
「あの、クオさん?バックヤードの利用はクオさんに触れている必要があったりしますか?」
プルナが運用条件の質問をした。
「私から半径50mが有効圏内になるようです。プルナ様」
普通はギルドコアは固定して使うのでそれを中心にホーム全域が収まる範囲を想定しての仕様なのだろう。
「ちょっと試してみたくなりますね」
メイフェアも興味深そうだ。
「あ、メイちゃん、ステーションの時の調味料の使わなかった分はまだバックヤード?」
「ええ、あります」
「大地君に調味料譲ることになってるから、あれで試そう」
「なるほど、それはよい考えですね。クオさん、操作を教えていただけます?」
「では、メイフェア様、バックヤードのメニューを開いてください。開かれましたら、トレードカートに対象アイテムをドラッグ&ドロップで移動、カートの送り先にギルドバックヤードが追加されているはずですからそれを指定して実行すれば終了です」
「こう、ですね。確認は新設のギルドバックヤードメニューで…大丈夫なようです」
「では、大地さん、ギルドバックヤードからアイテムを選択して、取り出すか個人バックヤードに移動するか、ですが案内は必要ですか?」
「今の逆ですね?わかります」
大地は直接取り出す方を選んだようで大地の手に醤油の1升びんが現れる。
「おっと、ガラス瓶か、重たくて驚いた…」
大地は一瞬バランスを崩しそうになって取り直した瓶をしげしげと眺め、ラベルに目を留めた。なんとなく顔が紅潮している。ラベルは紙のステッカーで、赤地に黒の正六角形、六角の内側は白抜きで、青い毛筆体で猫の一文字。
「おお、出てきたね、大地。ん?ラベルがどうかしたの?」
「あ、いやその、このロゴいいのかなって」
大地がラベルを気にしているようだと思った飛鳥が突っ込みを入れてきたので大地は努めて端的に答えた。
「ああ、なんかね、うちの兄がそれらしいラベルがあったほうがいいってフォント送ってきたのよ。商標的には協賛メーカーの許可をもらってるってさ。味も某大手醸造メーカーのデータ提供なんだって」
アイリスがラベルの解説を入れる。ちょっぴりメタったのはご愛嬌だろう。
「てことは、読みはきっこう…ふぅん?だ・い・ち?」
飛鳥がにたり、と笑って大地ににじり寄る。
「な、なんだよ姉貴」
『アイリス先輩ね、あれで着やせするんだよ?』
『な、なんでフレンドコールで』
『なんと上から88/60/90のグラビアモデル体型だよ。この数字は服飾関連スキルの目視採寸で得た数字だけど、去年一緒に水着買いに行った時の数値と合うから先輩アバター作った時に盛ったりしなかったみたいだね』
『だっ、だからなんでそんな』
『ダメダメ、お姉ちゃんはお見通しだぜ健康な大地君。さっきから先輩をチラ見してるじゃないか』
『ソ、ソンナコトハナイヨ』
「亀甲青猫、想像しちゃったんだ?」
最後だけ、わざと肉声でささやく飛鳥。
ばふっ、と顔面からエフェクトを散らし、うずくまる大地。
「ん?大地君今のエフェクトなに?なんか見覚えある気がするけど」
アイリスの呼びかけに、左手で顔を押さえたまま右手を無言でパタパタと振る大地。
「や、先輩何でもないよ。この子待ちかねた醤油に興奮して鼻血だしたみたい」
飛鳥の答えにアイリスは、さっきのエフェクトを見たのが熊の鼻面を殴りつけた時だと思いだした。
「あっはっは、おおげさだなあ、大地君は」
けらけらと笑うアイリス。
「いやその、すみません」
『ホントは醤油じゃなくて醤油のラベルに興奮しちゃったんだけどね』
『畜生、今に見てろよくそ姉貴』
『つまり真相を語られたいと?』
『ゴメンナサイホントカンベンシテクダサイ』
うちひしがれながら、若さゆえの過ちに想いをはせる大地だった。




