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09.あの時の先輩

教室は、昼の空気に包まれていた。


弁当の匂いと、雑談の声。

机をくっつける音があちこちで鳴っている。


窓の外では、桜がまだ残っていた。

風が吹くたびに、花びらがふわりと舞う。


「なあ勉」


爽太が席を立ち、こっちへ来る。


机に軽く腰を当てた。


「最近さ」


「何だ」


「お前、地味にすごいことになってるぞ」


「何が」


爽太が肩をすくめる。


「周りの評価」


「“反応早すぎ”とか、“助けてくれた”とか」


「ヒーローだってよ」


少し考える。


「……緋色?」


「は?」


「パンツの話だな」


「違う」


即答だった。


「お前もパンツに目覚めたか」


「目覚めてねぇよ!!」


爽太がすぐに否定する。


「お前は何を言ってるんだ」


「それはこっちのセリフだ」


爽太が頭を押さえる。


「どうしてそうなる」


「俺らも飯行こうぜ」


「うむ」


立ち上がる。


そのとき。


「おーい江口」


担任が教室の後ろから声をかけてきた。


「ついでにこれ、職員室届けてくれるか?」


プリントの束を軽く持ち上げる。


……。


氷室が横から覗き込んできた。


「何その顔」


「やる気に満ちた顔だが?」


「嘘つけっ!」


氷室がため息をつく。


「……仕方ないわね」


「一緒に行ってあげる」


爽太が呆れた顔で言う。


「興味の差がえぐい」


廊下に出る。


昼休みのざわめきが、そのまま流れ込んできた。


氷室が先に一歩、踏み出す。


「ほら、行くわよ」


爽太がその横に並ぶ。


「職員室と購買、同じ方だろ」


そのまま前を向いたまま言う。


「さっさと行こうぜ」


「うむ」


人の流れに混ざって歩き出す。


廊下の奥へ進む。


そのとき。


「あ……」


小さな声が聞こえた。


足が止まる。


廊下の端に、女子が一人立っていた。

こちらに気づくと、ぱっと表情が明るくなる。


「先輩!」


そのまま、こちらへ駆け寄ってきた。


「……誰?」


女子が一瞬固まる。


「えっ」


「昇降口で……助けてくれた……」


少し考える。


春。

風。

段差。


そして――


「……ああ」


女子の顔がぱっと明るくなる。


「覚えててくれたんですね!」


俺は言った。


「桜色のやつか」


「はい!」


即答だった。


女子が嬉しそうに頷く。


カバンを持ち上げる。


「これです!」


ぶら下がっている、小さなキーホルダー。


桜色。


揺れている。


「……予想通りだな」


隣で、氷室が小さく呟いた。


「絶対違う」


爽太も続く。


「100%違う」


「ちゃんと見てくれてたんですね……」


「見てた」


嘘ではない。


氷室がため息をつく。


「最低」


そのとき。


ピコン。


頭の中で音が鳴った。


『パンツイベント発生予測』


「……ふむ」


視線だけを動かす。


人の流れの先で、女子が足をもつれさせていた。


「きゃっ」


その一歩前に出る。


手を伸ばして支える。


一瞬、視界の端で色が揺れた。


――黒。


すぐに体勢が戻る。


「大丈夫か」


女子が驚いた顔で頷く。


「あ、ありがとうございます……!」


周りがざわつく。


「今の、完全に転んでたぞ……」


「助かったな……」


「あいつ、ほんと何なんだよ」


手を離す。


「気にするな」


一歩下がる。


その様子を、後輩がじっと見ていた。


「……すごい」


小さく、呟く。


「やっぱり先輩、すごいです……!」


そのまま歩き出し、廊下を抜ける。


春の光が差している。


購買の前には、人だかりができている。


ピコン。


また鳴った。


今度は少し横。


トレーを持った女子が、立ち止まったままバランスを崩しかけている。


トレーが傾く。


飲み物がこぼれそうになる。


慌てて、体勢が前に崩れる。


足が出る。


間に合う。


手を伸ばす。


引き寄せる。


軽くぶつかる。


――白。


「っ……!」


すぐに体勢を戻す。


トレーも、こぼれていない。


女子が目を丸くする。


「あ、ありがとうございます……!」


俺は手を離す。


「気をつけろ」


それだけ言って、一歩下がる。


後輩が、完全に固まっていた。


「……え」


さっきよりも、はっきりとした声。


「二回……」


視線が、こちらに向く。


「やっぱり……かっこいい……!」


一歩、前に出る。


まっすぐこちらを見る。


「一年の、不知火あかりです!」


「江口先輩のこと、尊敬してます!」


氷室が間髪入れずに言う。


「やめときなさい」


爽太も続く。


「本気にすんな」


あかりはきょとんとする。


「え?」


そして、もう一度こちらを見る。


「さすがです!」


「通じてない!!」


氷室がこちらを睨む。


「ただの変態なのに……っ!」


爽太が苦笑する。


「もう意味わかんねぇわ」


ピコン。


『パンツイベント発生予測』


「来た」


「「もういいわ!」」


読んでいただきありがとうございます。


明日も同じ時間に投稿します。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

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