07.水色の振り子
「お願いしまーす」
三年三組の生徒たちがぞろぞろと入っていく。
実験台に器具が並び、重りが静かに下がっている。
理科室だ。
「おぉ。来たな。」
我が高校の名物おじいちゃん先生が出迎える。
「番号順で座るんじゃ。横から詰めるのだぞ。」
続けて指示がとぶ。
横から座るということは……
最前列じゃねぇか。
「よう。腐れ縁だな」
爽太が言う。
俺は五番。
爽太は六番。
そのまま同じ台だ。
「おう」
俺は短く返す。
そのとき。
「げ」
最近よく聞く声が後ろからした。
振り返ると、氷室がいた。
「何でここでも同じなのよっ!」
「運命じゃないか?」
適当に返しておいた。
すごく睨まれた。
氷室は確か十四番。
それなら、同じ台になるのは当たり前だ。
にらむなら、おじいちゃんにしてくれ。
「それじゃ、始めるかの」
おじいちゃん先生が喋り出す。
……はぁ。
やる気が出ない。
「今日は振り子の実験じゃ」
ペンキが剥げた古い振り子。
下地の淡い水色が、ところどころ覗いている。
実験台の重りを指で弾く。
ゆらりと揺れる。
「去年、途中で止まったやつ」
氷室の声が返る。
「学年閉鎖でそのままになってたわね」
おじいちゃん先生が軽く顔を上げる。
「じゃが、その前に」
黒板にチョークの音が走る。
『予測が大事』
「ノートに書くんじゃぞ」
ペンの走る音が続く。
俺は少しだけ顔を横に向けた。
「爽太」
「ん?」
「予測で一番大事なの、何だと思う?」
爽太は、ペン先を止めて、軽く上を見る。
「条件を揃えて考えるとか?」
「それもある」
後ろから声がする。
「……他にもあるの?」
「日常につなげて考えることだ」
「……珍しく、良いこと言うわね」
俺は続ける。
「人の動きと、環境だ」
視線がわずかに下がる。
「……」
「そこが揃えば――」
「見える」
「良い話じゃなかった!!」
ため息。
「変態」
「糸の長さを変えてみい」
重りが、ゆらりと揺れる。
カチ、カチ、と机に触れる音。
ノートをめくる音。
キーンコーンカーンコーン。
「おお、終わりじゃの」
「ありがとうございましたー」
椅子を引く音が重なる。
廊下に出る。
そのまま外へ抜けると、
桜の花びらが、まばらに舞っていた。
渡り廊下の向こうに、教室の校舎が見える。
「遠いんだよな」
「流石に慣れたわ」
声の混ざる中を歩き出す。
前に、氷室の背中が見える。
クラスメイトと並んで、笑っている。
そのとき。
――ピコーン。
『パンツイベント発生予測』
きた!!
授業を乗り越えた俺へ神からのご褒美!
「違う」
低い声が聞こえた気がするが気にしない。
周りを見渡す。
ふと目線が止まった。
渡り廊下の上。
垂れ幕が大きく揺れている。
――あれだ。
その瞬間、紐がピン、と弾けた。
片側が落ちる。
ぶら下がったまま、揺れが大きくなる。
さっきよりも、明らかに振れが増している。
次は――外れる。
落ちる位置が、見えた。
その先に、氷室がいる。
「――危ない!」
踏み出す。
手を伸ばし、氷室の腕を掴んで引き寄せる。
体勢が崩れる。
踏ん張りきれず、そのまま後ろに倒れ込んだ。
ドン。
背中に衝撃が走る。
一瞬、息が詰まる。
気づくと、仰向けの俺の上に、
氷室が覆いかぶさっていた。
互いに支えきれず、
氷室の腰が浮いている。
スカートが引っかかり、戻らない。
――水色。
一瞬、そのままの距離で止まる。
氷室の視線がふと下に落ちる。
「……っ!!」
顔が一気に赤くなる。
バッ、とスカートを押さえる。
睨む。
「なんで毎回そうなるのよ!」
立ち上がる。
一瞬だけ、振り返る。
「……今に見てなさい」
すぐに前を向き、走っていった。
「もう見てる」
「そういう意味じゃない!!」
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