02.変態と呼ばれる
ブオォォン。
目の前をトラックが通り過ぎた。
風が遅れて頬を叩く。
制服の裾がばさっと揺れた。
「……」
俺はトラックの後ろ姿を見送る。
ついさっき。
あれに轢かれて死んだ。
神様に会って、能力をもらって、時間を戻されて。
――いや待て。
パンツは見た。
ならまあいいか。
隣では爽太がまだ呆然としている。
「……お前、さっき何してたんだ」
「走った」
「それは見ればわかる」
「パンツのために」
「聞くんじゃなかった」
爽太は深いため息をついた。
新学期の朝。
通学路の先に、学校が見える。
ーー万二高校だ。
同じ制服の生徒たちが次々と校門をくぐっていく。
校舎には、垂れ幕がいくつも下がっていた。
『全国大会出場』
『関東大会優勝』
『科学コンテスト最優秀賞』
……うん。
どうでもいいな。
隣で爽太が、校門を見ながら言う。
「今日から三年か」
そのまま続ける。
「受験だな」
「パンツも見納めか」
「終わってるなお前」
校舎に入ると、廊下がざわついていた。
掲示板の前に人だかりができている。
「クラス発表か」
爽太が人混みを覗き込む。
俺もその横から紙を見上げた。
新しいクラスの名前が、ずらりと並んでいる。
指で追っていく。
「あった」
三年三組。
爽太も同じクラスだった。
俺は肩をすくめた。
「腐れ縁だな」
爽太が即座に言う。
「腐ってるのは縁じゃなくてお前だ」
俺たちは教室に向かう。
ドアを開けると、すでに何人かが席についていた。
教室の中には、新学期特有の落ち着かない空気が広がっている。
席表とにらめっこしているやつ。
知り合いを見つけて騒いでいるやつ。
机に突っ伏して寝ているやつ。
まだ話したことのない顔が多い。
俺は黒板の横に貼られた席表を見上げた。
「あー……俺ここだ」
窓際の後ろから二番目。
悪くない。
「俺は……あ、ここだ」
爽太が席表を指差す。
俺は横から覗き込んだ。
「最前列じゃん」
そのとき、近くにいた女子が声を上げた。
「あ、爽太くん同じクラス!」
「ほんとだ!」
「やったー!」
爽太が少し困った顔で笑う。
「よろしく」
女子たちは嬉しそうに笑いながら、自分たちの席の方へ向かっていった。
俺はそれを横目で見た。
「人気者だな」
「普通だろ」
「いや、俺の周りにあんなイベント発生したことない」
「イベントって言うな」
俺は肩をすくめながら続けた。
「じゃ、俺も席行くわ」
窓際の後ろから二番目の席に向かう。
椅子を引き、座ろうとしたそのとき。
「げっ」
後ろから声がした。
振り返ると、そこには長い髪を後ろでまとめた女子が立っていた。
通った鼻筋。
はっきりとした瞳。
整った顔立ちで、たぶん誰が見ても美人の部類に入る。
――その瞳が、今は完全に俺を睨んでいるが。
「……またあんたと同じクラス」
俺は少し考えた。
そして言った。
「誰?」
女子の眉がぴくっと動いた。
「覚えてないの?」
「知らない」
女子は小さく息を吐いた。
完全に呆れた顔だった。
そして、冷たい声で言った。
「氷室澪。去年、同じクラスだった」
「そうだっけ」
「そう」
氷室澪は腕を組んだ。
そして一言。
「変態」
その瞬間。
頭の中で音が鳴った。
ピコン。
『パンツイベント発生予測』
「来る」
そう言って、氷室に一歩近づく。
「近寄るな」
さらにもう一歩。
「ちょっと」
氷室澪が睨む。
「何して――」
その瞬間。
バサッ。
強い風が窓から吹き込んだ。
カーテンが大きく膨らみ、
机の上のプリントが舞い上がる。
そして同時に――
氷室のスカートがふわりと揺れた。
だが、
カーテンが邪魔だ。
見えない。
白が、ほんの少しだけ見えかけているのに。
俺は手を伸ばした。
カーテンを払う。
隙間から、白が一瞬見えた。
――その瞬間。
上から何かが落ちてきた。
パシッ。
カーテンを振り払った手が、そのまま何かを掴む。
スマホだった。
「ナイスキャッチ!」
「すげえ!」
「反射神経どうなってんだよ!」
教室が一気にざわついた。
「……やはり白か」
氷室が即座に言う。
「変態」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
この先もパンツとともに、いろいろ起きます。
よければ続きも読んでいただけると嬉しいです。
※本日、まだ続きも投稿予定です。




