18.未来を守るため(本当か?)
氷室が、神をまっすぐに睨んだ。
「……まだ終わってないわ」
一歩、踏み出す。
「そもそも、なんで見てたのよ」
あかりが横から身を乗り出す。
「しおりはついに、神さままで虜に……?」
「違うわい!!」
神が即座に否定する。
少しだけ間が落ちる。
「実はのう……次の集会、狙われとるぞ」
あかりが目を見開く。
「しおりが!?」
「いや、学校がじゃ」
空気が止まる。
「……は?」
誰かが小さく漏らす。
神は頭をかきながら続けた。
「このままだと、爆破じゃな」
氷室が腕を組む。
「……あんた神様でしょ」
「なんとかしなさいよ」
「それがのー」
神は視線を逸らしたまま言う。
「直接関わるのは、よろしくないんじゃ」
小森が、小さく頷いた。
「……そうなんですか」
沈黙。
その中で、江口が一歩だけ前に出る。
「――なら」
視線を上げる。
「俺らでやるしかないだろ」
あかりの顔がぱっと明るくなる。
「さすが先輩!!」
神が肩をすくめる。
「じゃが、今回はピコンは鳴らんぞ」
江口は息を吐いた。
「いらねーよ」
全員の視線が集まる。
「未来を守るためだ」
空気が、ほんの少しだけ変わる。
小森が、ぽつりと呟いた。
「……かっこいい」
爽太が俺を見る。
「パンツを守るためじゃなくて?」
「それもある!!」
氷室が顔を押さえる。
「……はぁ」
「俺らでできることって、実際何があるよ」
爽太が言う。
「やっぱり警察に――
言った方がいいんじゃ……」
小森が小さく口を開く。
「無理よ」
氷室が即座に切る。
「“神様が爆破されるって言ってました”なんて」
「信じてもらえるわけないでしょ」
新見が、少しだけ俯く。
「……ですよね」
沈黙。
俺は、視線を上げた。
「――なら」
少しだけ間を置く。
「俺らでやるしかない、か」
あかりが顔を上げる。
「でも、どうやって……?」
――ふむ。
爆破とか正直知らん。
興味もない。
だが――
「そういうのに詳しそうなやつはいる」
氷室が眉をひそめる。
「……誰よ」
「ついてこい」
⸻
理科室の扉を開ける。
「おぉ。みんな揃ってどうした?」
おじいちゃん先生が顔を上げた。
「まだ授業じゃないぞ」
後ろから、爽太の声が落ちる。
「……詳しいやつって、まさか」
「長年この学校にいる。
物理も化学も、何でもござれだ」
俺は前を向いたまま言った。
「ピッタリだろ」
氷室も腕を組んだまま頷く。
「聞きたいことがある」
先生はひげを撫でる。
「なんじゃ、急に」
俺は一歩前に出る。
「今度、百周年の集会あるだろ?」
「そうじゃな」
あかりが横から身を乗り出す。
「そこでゲストで誰が出るか知ってます?」
先生は少しだけ笑う。
「知っとるが、言えんなぁ」
「さぷらいずってやつじゃ」
「あの、その子――」
あかりが隣を指す。
「私の友だちなんです」
そのまま、軽く背中を押す。
「ってか、この子です」
「こんにちは」
小さく頭を下げる。
「新見しおりです」
先生の手が止まる。
少しだけ近づいて、顔を覗き込む。
「こりゃたまげた」
「ほんものじゃ」
「あ、ありがとうございます」
新見が少し困ったように笑う。
氷室がそこで口を挟む。
「しおりちゃんが出るなら、安全管理は大事でしょ」
爽太も軽く頷く。
「人も多くなるだろうし。
それで確認しに来たんだ」
先生は小さく頷く。
「なるほどな」
「何が聞きたいんじゃ?」
俺はそのまま言う。
「当日、危険になりそうなとこある?」
先生は少しだけ視線を上げる。
「そうじゃな」
机の上を軽く指で叩く。
「配線関係はよく見た方がええな」
「配線関係?」
小森が首を傾げる。
「機材が増えると、電気の取り回しが雑になりやすいんじゃ。
……延長したり、繋ぎすぎたりな」
「へぇ……」
あかりがメモを取り始める。
先生はそのまま、軽い調子で言った。
「変にいじると、ショートしたりな。
最悪――」
少しだけ笑う。
「爆発するかもしれんしの」
空気が一瞬止まる。
「爆発……?」
しおりが小さく呟く。
先生はすぐに手を振った。
「いやいや、そうそう起こるもんじゃない」
氷室が一歩前に出る。
腕を組む。
「もし起きたらどうするのよ」
先生は、少しだけ肩をすくめた。
「どうするも何もな」
「爆発いうても、勝手には起きん」
視線が集まる。
「きっかけがいるんじゃ」
「きっかけ……?」
小森が小さく呟く。
先生はゆっくり頷く。
「火でもええし、衝撃でもええ」
少しだけ間を置く。
「最近は、電気で火をつける仕組みもある」
あかりの手が止まる。
「電気で……?」
「スイッチ一つで火がつくようなもんじゃな」
「つまりじゃ」
「火薬そのものより、“火をつける側”を見る方が早い」
氷室が眉を寄せる。
「……それが、配線?」
「そういうことじゃ」
先生はあっさり言う。
「電気が流れなければ、火はつかん」
静かになる。
「逆に言えば――」
ひげを軽く撫でる。
「変なところに電気が流れとると、何が起きるか分からん」
爽太が腕を組む。
「でも、それって見て分かるもんなのか?」
先生は少しだけ笑う。
「使うもんが決まっとるなら、流れる先も決まっとる」
「余る線があるなら、それは“火をつけるための電気”かもしれん」
少しだけ肩をすくめる。
「まぁ、意図的にせん限り、そんなことないがな」
「先生、ありがとう」
「おぉ、ご苦労さん」
理科準備室を出る。
廊下に出た瞬間、氷室が言った。
「……なんとかなりそうね」
「まだだ」
俺は言った。
氷室が振り返る。
「は?」
「もう一人、会っておきたいやつがいる」
爽太が眉をひそめる。
「……誰だよ」
俺は少しだけ口元を上げた。
「仲間にして、ライバル」
爽太がため息をつく。
「……嫌な予感しかしないんだけど」
「気のせいだ」
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