17.純白の正体
廊下に出ると、あかりが待っていた。
その隣にいるやつ、明らかに挙動がおかしい。
――ふむ。
パンツイベントの気配か?
「あ、先輩!」
あかりが手を振る。
隣の女子が、小さく頭を下げる。
「あの……新見しおりです」
「……は?」
「新見しおり?」
「「えー!!?」」
声が揃って跳ねた。
「誰だ。知らん」
俺がそう言うと、間髪入れず返ってくる。
「マジかよ!!」
爽太が珍しく慌てて言う。
「国民的アイドルだぞ!?」
「……シルク的な?」
「素材で例えるな!!」
氷室の声が飛ぶ。
新見が、少しだけ肩を震わせた。
「いや、笑ってる場合じゃないからな」
爽太が小声に戻す。
あかりが慌てて言う。
「しおりが来たいって言ったんです!」
新見は少しだけ苦笑した。
「江口さんの噂は、聞いていましたから」
「ほんとに友だちなんですね」
小森がぽつりと呟く。
あかりが胸を張る。
「小学校からの幼なじみなんです!」
そのまま続ける。
「しおりのこともあって、新聞に興味を持ったんですよ!」
「よく言うわよ」
新見が小さく返す。
「あんた、ことあるごとに『勉先輩!!』って、そればっかりじゃない」
「しおりのことは、
もはやどうでも良くなってしまった」
「だんだん勉に似てきたな」
爽太がぼそっと言う。
「光栄です!」
「やめときなさい」
氷室が止めると、小森が小さく呟いた。
「……いいな」
「え!?」
爽太が反応する。
俺はそのやりとりを見ると、
小さく息を吐く。
「話が進まん」
「お前が言うな!!」
「パンツに悪いだろう」
「最低」
氷室が何か言ってるが、気にせず新見を見る。
「それでどうした?」
あかりが口を開く。
「……今度、創立百周年を祝う全校集会がありますよね?」
少し間が空く。
「それで、サプライズゲストでしおりを呼べないかって思って、声をかけたんです」
横を見る。
新見がゆっくり顔を上げる。
「それで、この学校に打ち合わせで来てから――」
一度、言葉が切れる。
「ずっと見られてる気がするんです」
氷室がすぐに言う。
「警察に言いなさい」
新見は首を振った。
「言いました」
「でも、誰もいないって」
爽太が新見の顔を見る。
「……気のせい、って感じじゃなさそうだな」
言葉が途切れる。
ピコン。
(やはりな)
なら、
――やることは決まっている。
「ずっとって言ってたな」
新見がこちらを見る。
「……はい」
「今はどうだ?」
「今は、感じません」
「でも」
声が少し強くなる。
「学校の中でも感じるときがあって……」
あかりが口を挟む。
「何回か一緒に見たんですけど、やっぱり誰もいなくて」
……なるほど。
視線を窓に向ける。
「行くぞ」
あかりがほっとしたように息を吐いた。
「ありがとうございます、先輩」
新見が、もう一度小さく頭を下げる。
「視線を感じたら言え」
そう言って歩き出す。
売店の前を通ったときだった。
「……今、感じます」
新見の声が、後ろから届く。
そのまま進み、体育館の横に出る。
「今はどうだ?」
振り返らずに聞く。
「……今は、感じません」
「……確定だな」
爽太が横に並んだまま、少しだけ首を傾ける。
「分かったのか?」
歩みを止めて振り返る。
「……簡単な話だ。
視線はあるが、常にじゃない。場所で変わる」
氷室が腕を組む。
「……それで?」
「見てる側が動いてない」
「こっちが位置を変えてるだけだ」
爽太が眉をひそめる。
「つまり?」
「見える場所が決まってる」
一度、上を見上げる。
「――管理棟の屋上だな」
「なるほど」
氷室が短く言う。
「鍵、借りてくるわ」
⸻
屋上に出ると、扉の隙間から抜けた風が一気に吹き抜けた。
視界には何もない。
「……いねぇな」
爽太が辺りを見回す。
「でも」
新見の声が、すぐ後ろで落ちる。
「感じます。さっきより……強く」
新見は俺の袖を掴みながら、少し震えた声で言う。
「……出てこい。いるのは分かってる」
風だけが流れる。
返事はない。
――そのときだった。
金属がきしむ音。
屋上のさらに上、点検用のはしごの先。
一段高いその場所に、影があった。
「……よく気づいたのう」
声と同時に、姿がはっきりする。
白いヒゲ。
白い布をかぶっただけみたいな服。
やる気のない顔。
「お前……」
爽太が呟く。
「あの時のおっさんじゃねぇか」
「通報案件ね」
氷室が即座に言う。
おっさんは気にした様子もなく一歩踏み出し――そのまま宙に浮いた。
ふわりと降りてくる。
「……浮いてる」
小森が小さく漏らす。
「だから言っただろう」
俺は項垂れたまま言う。
「……パンツ神だ」
「違う!!」
即座に否定する。
「……おっほん。神じゃ」
「にわかに信じがたいわね」
氷室が視線を離さずに言う。
「でも浮いてるしな……」
爽太が返すと、小森が続ける。
「じゃあやっぱり……神様」
あかりが言葉を継ぐ。
「でも神様なら、よかったんじゃない?
……って先輩?」
顔をのぞき込む。
「何か落ち込んでます?」
「……チャンスって」
「?」
「おっさんのことだったのか」
「そこかよ!!」
「しかも純白」
氷室が小さく息を吐く。
「……はあ」
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