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13. 班決めという戦場

「さて」


担任が教卓を軽く叩く。


ざわついていた教室が、ゆるやかに静まった。


「来週の遠足だが」


プリントを一枚、黒板に貼る。


『野鳥観察(自然公園)』


「今日は班を決める」


その瞬間、教室にざわめきが戻った。


「誰と組む?」

「お前ら一緒に行こうぜ」


小さな声が、あちこちで上がる。


視線が行き交う。


その中で、

俺は、目を閉じた。


(……来たな)


ゆっくりと、目を開く。


視線を前に向ける。


クラス全体。

人数。

男女比。


――盤面は、揃った。


思わず口元がゆるむ。


前の席で、爽太がわずかに振り返る。


ほんの少しだけ体をひねって、こっちを見る。


目が合う。


呆れた顔をしていた。


口が、わずかに動く。


声はない。


――その顔やめろ。


俺も、口だけで返す。


――戦場だ。


爽太の眉が寄る。


――班決めだろ。


(……何言ってんだか)


これは、


未来のパンツイベントを決定する配置戦だ。


重要なのは、

――先手必勝。


場を制す必要があるな。


「はい」


手を高く挙げる。


「お、江口。どうした?」


「人数は、四人が良いと思います」


死角が少ない。

密度も良い。


(……完璧だ)


「その理由は?」


「人数が多いと死角が増えます。

見える範囲が狭くなります。」


教室が一瞬、静まる。


「確かに安全かも」

「良い案じゃない?」


ぽつり、ぽつりと声が上がる。


担任が腕を組む。


「……ふむ。

あまり人数が多いとはぐれる危険があるな」


頷く。


空気が、少しだけ傾いた。


(……取った)


口元が、わずかに上がる。


「じゃあ、メンバーは――」


氷室の声が、そこで割り込む。


「はい」


手を挙げる。


担任がそちらを見る。


「お、氷室もか」


「うちのクラス委員はやる気があるなあ」


軽く笑う。


「いいことだ」


教室の空気が少しやわらぐ。


「この場は、二人に任せる」


「みんなもそれでいいか?」


あちこちで頷きが返る。


ざわめきが落ち着く。


「委員長と副委員、前出てまとめてくれ」


視線が、こちらに集まる。


「……行くわよ」


「うむ」


立ち上がる。


教卓の前へ出る。


視線がぶつかる。


――ふっ。

面白い。俺に挑む気か。


――この前の勝負を、もう忘れたの?


氷室が、わずかに顎を引く。

俺は、目を細める。


(……この勝負)


(……絶対に)


「「……成功させる」」


「頼もしいな」

「委員長と副委員、いい感じじゃん」


その瞬間。


ピコン。


『パンツイベント発生予測』


(……)


思考が一瞬止まる。


だがすぐに理解する。


これは“今”じゃない。


――“この配置で起きる”。


「……そういうことか」


「何が」


氷室が横で睨む。


「未来が見えた」


「気持ち悪いこと言わないで」


ーーふっ


強がっていられるのも今のうちだ。


勝ち筋は見えた。


あとは組むだけだ。


男女混合の班を作る。

これは前提だ。


このクラスは、

三十六人。


女子二十人。

男子十六人。


――なら、

九班できるな。


そのうち、

女子の多い班が、二つ。


――そこに入る。


そして、九班。


最後尾を取る。


後ろからなら、全部見える。


最後の条件……

ドジなやつ。


周りを見渡す。


――あいつ、小森だ。


小森萌。


歩くと、つまずく。

何もないところで、転ぶ。


この前も机の脚に引っかかって、

助けてやった。


……爽やかな色だった。


発生源としては申し分ない。


そういうやつは近くに置くか――前に置く。


一度、息を吐く。


条件は、決まった。



(……と、考える)


江口の好きそうな手法だわ


氷室は、わずかに目を細めた。


(なら、私は――)



「まずは」


教卓の前で、軽く手を叩く。


ざわついていた空気が、少しだけ落ち着く。


「男女混合で組む」


(……スカートの)


「中のためだ」


数人が頷く。


「仲を深めるって大事よね」

「楽しい一年にしたいよな」


担任も腕を組んだまま頷いた。


「いいな。それでいこう」


空気が、すっとまとまる。


――取った。


そのまま続ける。


「基本は二対二」


「ただし、人数の都合で例外が出る」


視線が動く。


女子の多い側。


「女子が多い班が、二つできる」


「そこは無理に崩さない」


(……ここからだ)


教室がざわつく。


「まぁ、確かに」

「そっちのがやりやすいか」


空気が、自然に流れる。


――今だ。


「じゃあ、その班――」


「待ちなさい」


氷室の声が、空気を切る。


さっきまでのざわつきが、すっと止まる。


全員の視線が、前に集まる。


氷室は一歩だけ前に出た。


黒板の前。


俺の隣。


「男女混合はいいわ」


一度、教室全体を見る。


ゆっくりと。


「でも」


「誰が入るのかは、また別よ」


氷室は淡々と続ける。


「男女では、体力差もあるでしょ」


「適当に決めたら、仲が深まるどころか――」


視線を落とす。


「揉める原因にもなる」


後ろの席の男子が、小さく言う。


「まぁ、それはそうだな」


「だから」


「そこまで含めて決めるわ」


(……来たか)


視線が、こちらに向く。


氷室の視線が、わずかに鋭くなる。


(取らせないわ)


口元が、わずかに動く。


――面白い。


「それなら、案がある」


――乗ってやるよ。


「最後尾は固定する」


教室が一瞬止まる。


「え?」

「最後尾?」


「全体を見る必要がある」


「後ろが空くと、見えなくなる」


数人が頷く。


「確かに」

「後ろって見にくいもんな」


――通る。


担任も頷いた。


「それはそうだな」


担任は続ける。


「班のメンバーも、まとめて決めてくれるか?」


「女子が多いうちのクラスだ」


視線が、俺と氷室の間を行き来する。


氷室はわずかに、前に出た。


「氷室の方が適任だろう」


氷室は、一度こちらを見る。


「分かりました」


担任が口を挟みやがったな。

ここは生徒の自主性を尊重する場面だろうが。


――いや。

誘導したな。


(……やられたか)



「じゃあ、決めるわ。まずは九班から」


氷室が名簿に手を置く。


指先が、すっと動く。


「小森」


「は、はいっ」


びくっと肩が跳ねる。


立ち上がる。


――よろける。


「……っ」


近くの手が、さっと伸びる。


「大丈夫か?」


「う、うん……ごめん」


氷室の視線が、一瞬だけこちらをかすめる。


(最後尾)


最善は、八班、一つ前だったが……

次善とも言える。


――引き分け、か。


氷室は止まらない。


「風間」


「ん?」


爽太が顔を上げる。


「なんで俺」


「対応役」


即答。


「適任でしょ」


(……押し込まれたな)


爽太が立ち上がる。


目が合った。


――恨むぞ。


口だけで言っておく。


――知らん。


口だけで返ってきた。


氷室は続ける。


「私も入るわ」

「全体を見るためよ」


(……そこも取るか)


まだ九班は空いている。


女子の多い班が最善だった。


だが、後方のメリットも大きい。

小森の存在もある。


(……いくしかないな)


「俺も入ろう」


一瞬、視線が集まる。


数人が頷く。


「それなら安心だな」

「委員長だし」


担任も笑う。


「いい判断だ」


――通った。


氷室が、わずかに目を細める。


(……そこは譲らないのね)


口元が、わずかに動く。


俺は、息を吐く。


「……勝った」


爽太が言う。


「何の勝負だったんだよこれ……」


班決めが終わった。


だが、

戦いはこれからだ。


読んでいただきありがとうございます。


明日も同じ投稿します。

次回も読んでいただけると嬉しいです。

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