12.江口の一発?
「あっはははー!」
自然と口元がゆるむ。
込み上げてくるものが、止まらない。
視線の先。
背筋の伸び方。
無駄のない動き。
――だが、
俺には分かる。
「……何を笑っている」
一ノ瀬が眉をひそめる。
俺は言い放った。
「お前、パンツ見てるな」
一瞬、間が空く。
「何を言っている!?」
「隠さなくていい」
「そんなはずがない」
一ノ瀬は即座に否定する。
「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」
一歩、距離を詰める。
「俺は、結果として人を助けた」
「ーーそのとき」
「お前は何をしていた?」
一瞬の沈黙。
「……何が言いたい」
「お前はただのパンツ好きだ」
一ノ瀬が固まる。
「……は?」
肩に手を置く。
「安心しろ」
「俺はそんなことで差別しない」
「どの口が言ってんだ」
風間と氷室の声が重なる。
「さすが先輩!」
あかりが目を輝かせる。
「かっこいい!」
一ノ瀬の拳が震えている。
「俺は……違う!」
ピコーン。
頭の中で音が鳴った。
『パンツイベント発生予測』
来た!!
視線を走らせる。
教室内。
机の位置。
椅子の脚。
――あれだ。
一つだけ、ズレている。
「……おい」
一ノ瀬の声。
「それどころじゃない!!」
視線の先。
少し離れた席。
――遠い。
だが。
その瞬間、踏み出す。
女子が席に腰を下ろす。
ガタン、と椅子が傾いた。
「え?」
体が横に流れ、バランスを崩す。
長い髪がふわりと広がる。
「きゃっ!」
横から腕を差し入れ、そのまま体を支える。
視線は下。
――よし。
いい色だ。
「……大丈夫か」
「……う、うん」
女子が頷く。
少し遅れて、ざわめきが広がる。
風間が息を吐く。
「反応おかしいだろ」
氷室が腕を組む。
「助けてはいるのよね」
あかりが目を輝かせる。
「さすが先輩!」
座り込んだ女子。
その正面に、一ノ瀬。
視線が合う。
女子の顔がこわばる。
慌ててスカートを押さえる。
「見た?」
空気が変わる。
「見ていない!」
一ノ瀬が叫ぶ。
「絶対見た!」
何人かが、顔を見合わせる。
「……え?」
「今の……」
氷室が言う。
「最低ね」
「違う!!」
顔を赤くして、俯く。
「人生、色いろあるもんじゃ」
一ノ瀬は顔を上げる。
「今日は白色じゃったな」
「何の話だ!!」
一ノ瀬は荒く息を吐く。
「……っ」
歯を食いしばる。
「……仕方がない」
背を向ける。
「今日はここまでにしておいてやる」
振り返る。
「次こそは暴いてやる!」
指を突きつける。
「震えて待ってろ!」
高らかに笑う。
「はっはっはー!」
教室を出ていく。
静けさが戻る。
風間がぼそりと呟く。
「面倒なの増えたな」
「……仲間ができた」
「絶対違う」
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