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魔王を殺した王子、私を救った恋人  作者: 凪塩 未来


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第4話 :魔王の影が忍び寄る宮廷

第4話「魔王の影が忍び寄る宮廷」をお届けします!

古文書保管庫での死闘を乗り越え、ロイの強い意志を確認したミリー。しかし、城内ではエンペラー将軍の魔の手が着実に広がり、人々が次々と異変をきたし始めていました。孤立無援の中、ミリーに迫る新たな脅威とは――?


それでは、第4話のスタートです。

古文書保管庫での一件以来、アストライア城の空気は目に見えて重く、澱んだものに変わっていった。


それは単なる気のせいではない。城内を歩く従者や近衛騎士たちの様子がおかしいのだ。

かつては温和で笑顔を絶やさなかった騎士団の面々が、今や誰一人として笑わない。彼らの目はうつろで、どこか焦点を欠いており、ロイ――正確にはエンペラー将軍から発せられる冷徹な号令に、まるで操り人形のように機械的な忠誠を誓っていた。


(城の人々が、少しずつ……あの将軍の魔力に洗脳されているわ)


自室の窓から中庭を見下ろしながら、ミリーは冷や汗を拭った。

数日前までは隠されていた異変が、もはや隠しようもないほど露骨に形となって現れ始めている。夜更けになると、地下の方角から不気味な低音が地響きのように伝わってきて、窓ガラスを細かく震わせるのだ。魔王復活の儀式に向けた準備着々と、そして確実に進行している。


そんな中、ミリーをさらに追い詰める出来事が起きた。


「――王女殿下、国王陛下がお呼びです」


冷え切ったトーンの声でそう告げたのは、近衛騎士団長だった。

彼の瞳の奥にも、ほんの一瞬、あの禍々しい紫色の光の残滓がチラリと明滅したように見えた。背筋に冷たいものが走るのを覚えながらも、ミリーは気丈にうなずき、王の間へと向かった。


玉座の間。

そこには、王国を統べるはずの父親――国王が座っていた。

だが、その表情はどこか虚ろで、まるで魂が抜けたかのように生気が感じられない。そして、その玉座のすぐ傍らに、黄金の上着を纏ったロイが立っていた。


「父上、お呼びでしょうか」


ミリーが恭しく頭を下げると、国王はかすれた声で言った。

「ミリーよ……。ロイ殿から聞いたぞ。最近、お前は城内を勝手に歩き回り、不審な詮索をしているそうだな」


ギクリと心臓が跳ね上がる。

視線の先で、ロイが冷ややかな笑みを浮かべていた。その後ろ盾を得たように、国王はさらに言葉を続けた。

「王国は今、非常事態なのだ。治安維持のため、そしてお前の身の安全のために、しばらくの間、自室からの一切の外出を禁じる。――それと、その胸元の装飾品も、一時的にここに預けなさい」


ペンダントを直接回収するための、王命を装った巧妙な罠。


国王自身が将軍の魔力に精神を乗っ取り、あるいは操られ、娘に命令を下しているのだ。

逃げ場はない。「王命」である以上、拒絶すれば公的な反逆者としてその場で拘束される。そうなれば、ペンダントの力があろうとも、城中の兵士を相手にしては生き残れない。


しかし、ここでペンダントを渡してしまえば、すべてが終わりだ。将軍の障壁が消え、世界は闇に呑まれる。


(どうする……どうすればこの場を切り抜けられる……?)


頭がフル回転し、冷や汗が頬を伝う。

沈黙するミリーに対し、ロイが冷徹な足音を立てて近づいてきた。その紫色の瞳が、彼女の心理を試すように鋭く細められる。


「どうした、ミリー。父上の言葉が聞こえなかったのかい? それとも、我が王家の命令に背くというのか」


追い詰められた絶望的な状況。

その時、ミリーの脳裏に、古文書保管庫で血を流しながら微笑んだロイの姿が鮮烈に蘇った。


(彼は、私のためにあんなにも苦しみながら戦ってくれた……! ならば、私もここで諦めるわけにはいかないわ!)


ミリーはゆっくりと顔を上げた。

恐怖の色を完全に消し去り、王家の誇り高い血筋を示す毅然とした表情で、彼女は父とロイを見据えた。


「父上。王家の血を引く者として、国の安全を憂うお気持ちは理解いたします。しかし――」


ミリーは自らの胸元にある青い宝石のペンダントにそっと手を添えた。

「このペンダントだけは、我が母が遺し、我が身の血肉に等しいもの。私の外出制限は謹んでお受けいたしますが、これだけは私から引き離すことはできません。もしそれを無理強いされるのであれば、私は我が身の潔白と、この誇りをかけて神に誓いましょう。この要求の裏に、何者かの不当な意志が働いていることを」


その凛とした強い声が、広間の天井に響き渡った。

王家の血に伝わる神秘の威厳が、ほんの一瞬、国王の虚ろな瞳の奥の洗脳を揺らがせた。父の眉間がわずかにピクリと動き、迷いの色が浮かぶ。


「……ぐっ……むぅ……」


「陛下、お聞き及びなきよう!」

すかさず、ロイが冷徹な声で割って入った。その紫の瞳が怒気ではっきりと燃え盛る。

「王女の勝手な言い分に惑わされてはなりません。ですが……分かりました」


ロイは一歩前に出ると、冷たく冷酷な微笑みをミリーに向けた。

「そこまで言うのなら、外出禁止の処置のみで十分だ。その代わり、一歩でも自室の敷居を跨ぐことがあれば、その時は容赦はしません。……下がりなさい、ミリー」


これ以上の追及は、彼のボロを出すリスクがあると判断したのだろう。

将軍は苦い顔を隠しながら、そう言い放った。


「失礼いたします」


深く一礼し、ミリーは背筋を伸ばしたまま玉座の間を後にした。

扉が閉まった瞬間、彼女の足の力が抜け、冷たい廊下の壁にもたれかかる。心臓が早鐘のように鳴り響いていた。


(なんとか……やり過ごしたわ……!)


しかし、これは時間稼ぎに過ぎない。

部屋に軟禁された今、彼女は身動きが取れなくなった。満月の夜が近づくにつれ、魔王復活の時は刻一刻と迫っている。


(どうにかして、あの部屋から抜け出し、地下の祭壇へ行かなくては……)


窓の外を見上げると、夜の帳が下り始め、空には不気味に白みを帯びた月が昇りつつあった。

第4話「魔王の影が忍び寄る宮廷」、いかがでしたでしょうか!

国王までもが洗脳され、ペンダントを奪おうとする絶体絶命のピンチを、ミリーの気丈な言葉と王家の誇りでどうにか切り抜けました。しかし、軟禁されてしまった彼女に残された時間はもうわずか――。


次回、第5話「明かされる過去、真の目的」では、ロイがなぜエンペラー将軍に乗っ取られるに至ったのか、かつての最終決戦の悲劇的な真相が明らかになります。


ぜひ次話もお楽しみに!ブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!

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