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魔王を殺した王子、私を救った恋人  作者: 凪塩 未来


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第3話 :肉体の牢獄、微かな反逆

第3話「肉体の牢獄、微かな反逆」をお届けします!

前話のラスト、古文書保管庫でエンペラー将軍に先回りされてしまったミリー。逃げ場のない狭い空間で、彼女は絶体絶命のピンチを迎えます。そんな絶望的な状況のなか、ロイの魂が魅せる命がけの抵抗とは――?


それでは、第3話のスタートです。

古文書保管庫の冷たい空気のなか、足音が近づいてくる。

コン、コン、と革靴が石畳を鳴らす音が、まるで死刑宣告の秒読みのようにミリーの心臓を叩いた。


背後には分厚い書架がそびえ立ち、退路はない。

目の前には、黄金の上着を纏い、紫に染まった瞳で冷酷な笑みを浮かべるロイ――いや、エンペラー将軍が立っていた。


「賢い王女殿下。まさか、城の歴史の裏側に隠された秘密まで暴き出すとはね」


ロイの口元が歪み、低く這うような将軍の声が響く。

彼は一歩、また一歩とミリーとの距離を詰めてきた。その圧倒的な威圧感の前に、ミリーの足が恐怖ですくむ。しかし、彼女は震える両手で胸元のペンダントをしっかりと握りしめ、気丈にその紫の瞳を睨み返した。


「……あなたをこのままにしておくわけにはいかないわ。あなたが何を企んでいようと、王国は渡さない!」


「ほう、そのペンダントがある限り、私が生娘に直接手を下すことはできない、と言いたいのかい?」


将軍は不敵に鼻を鳴らし、さらに歩を進める。

「だがね、ミリー。人間というものは、恐怖によって思考が麻痺すれば、自らその厄介な聖遺物を外すこともある。――例えば、目の前で愛する者が苦しむ姿を見せられたら、ね」


ぞっとするような冷徹な言葉のあと、ロイの身体が急にぐらりと大きく揺らいだ。


「……っ……があっ……!」


苦悶の呻き声が、将軍の声とロイ本来の清らかな声の狭間で激しく引き裂かれる。

将軍の企てを阻止しようと、ロイの魂が肉体の主導権を奪い返そうと猛烈な反逆を起こしたのだ。


(ロイ……っ!)


ミリーの胸が締め付けられる。

ロイは自らの頭を両手で激しく抱え込み、床に膝をつきかけた。紫色の光が激しく明滅し、みるみるうちにその輝きが弱まっていく。代わりに、かつての深い森のような碧色が、必死に表面へと浮き上がってきた。


「ぐっ……クソめ……! この程度の残滓が、我が意志に逆らうか……!」


将軍が激昂し、ロイの右手で自分の喉元を掴み上げた。

肉体を自虐的に傷つけることで、ロイの意識を抑え込もうとしているのだ。ロイの首筋に痛々しい赤い痕が浮かび上がり、息が詰まったような苦しげな喘ぎ声が漏れる。


「やめて……! ロイ、もう止めて……!」


我慢できず、ミリーは一歩踏み出そうとした。

しかし、その瞬間、ロイは血走った、しかし確かに「彼自身」の意志を宿した碧眼で、ミリーを強く見据えた。その瞳には、恐怖ではなく、圧倒的な愛情と切迫した決意が込められていた。


「……来るな……ミリー……!」


絞り出すような、か細い声だった。

それはロイの声だった。あの優しかった、温かな彼女の恋人の声。


「私は……大丈夫だ……。この程度の怪物に、私の魂は渡さない……!」


「喋るな、貴様……!」


将軍が激しく怒鳴り声を上げ、ロイの身体を壁へと激しく叩きつけた。

ドン、と重い衝撃音が書庫の静寂を切り裂く。ロイの口元から、赤い血が一筋、ツーと伝い落ちた。


それでも、ロイは微笑んだ。

完全に将軍に支配される直前の、ほんの一瞬の隙間。彼はボロボロになった身体で、震える手をゆっくりと持ち上げ、ミリーに向けて「逃げろ」と手で合図を送った。


「……逃げろ……地下の祭壇には……近づくな……」


「ロイ……!」


「……愛してる……ミリー……」


次の瞬間、ロイの瞳の奥で再び紫の光が爆発するように広がった。

完全に将軍の意識が肉体を再統御し、ロイの表情から一切の温もりが消え去る。


「……ふん、見苦しい虫酸が走る愛情劇だな。だが、それもここまでだ」


将軍は冷酷に言い放ち、倒れそうになる身体を無理やり引き締めた。

ペンダントの聖なる光が放つ結界があるため、彼はこれ以上ミリーに物理的な致命傷を与えることができない。ここで無理に手を出せば、自分の魂が激しく損なわれることを本能的に理解しているのだ。


「今日はこれくらいにしておいてやろう、ミリー。だが、次に会うときは、そのペンダントごと君の命をもらう」


冷徹な一瞥を残し、ロイの身体は翻弄されるように素早く書庫から去っていった。

重い足音が遠ざかり、静寂が戻ったその場所で、ミリーは崩れ落ちるようにその場に膝をついた。


「――っ、くすっ……ううっ……」


溢れ出る涙を抑えきれず、彼女は冷たい石畳に両手をついて咽び泣いた。

彼がどれほどの苦しみの中で、自分のために戦っているのか。その痛みが、魂の叫びが、痛いほどに伝わってきたからだ。


(ロイ……あなたは一人で、あんな化け物と戦っていたのね……)


胸元で冷たく光る『真実の眼』を強く握りしめる。

彼はまだ生きている。彼の魂は、まだ負けていない。

ならば、自分も諦めるわけにはいかない。地下の祭壇の秘密を暴き、彼をその苦しみから解放するための方法を、何としても見つけ出さなければならない。


涙を拭い、ミリーは硬い決意を胸に立ち上がった。

第3話「肉体の牢獄、微かな反逆」、いかがでしたでしょうか!

絶体絶命のピンチの中、ロイの魂が必死に見せた抵抗と、ミリーに向けられた切なすぎる言葉。愛する人を救うための彼女の覚悟が、より一層強まった瞬間でしたね。


次回、第4話「魔王の影が忍び寄る宮廷」では、城内での不穏な空気の広がりと、将軍の魔の手が着実にミリーの周囲へと迫る恐怖を描いていきます。

果たしてミリーは孤立無援の中、どう立ち回るのか――?


ぜひ次話もお楽しみに!ブックマークや評価、感想をよろしくお願いいたします!

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