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魔王を殺した王子、私を救った恋人  作者: 凪塩 未来


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第2話 : 真実の眼と狙われた聖遺物

第2話「真実の眼と狙われた聖遺物」をお届けします!

前話のラスト、公衆の面前でペンダントを要求されたミリー。絶体絶命のピンチをどう切り抜けるのか、そして「真実の眼」に隠された真の力が少しずつ明かされていきます。冷徹な将軍のプレッシャーと、それに怯めないミリーの心理戦をぜひお楽しみください!


それでは、第2話のスタートです。

ピクリ、と。

ロイの指先がわずかに硬直した。


広間を包んでいた空気が、一瞬にして凍りつく。貴族たちは息を潜め、国王の娘であるミリー王女がアストレア王国の英雄たる第一王子に真っ向から盾突く姿を、ただ青ざめて見守っていた。


「……私の好意を、拒絶するというのかい、ミリー」


ロイの唇が歪む。その甘やかな声の底から、底知れぬ冷気が這い出してきた。

彼の瞳の奥で、紫色の光が激しく明滅する。人間を威圧するだけの魔力が、周囲の空気を重く歪ませていた。耐えきれず、何人かの側近たちが冷や汗を流しながら一歩、また一歩と後じさる。


しかし、ミリーは一歩も引かなかった。

彼女の胸元で、青い宝石のペンダントが微かに、しかし力強く冷たい蒼光を放つ。その聖なる光の波動が、ロイの纏う邪悪な気配をわずかに押し返していた。


「これは母の形見です。そして、我が王家の血統を示す誇りでもあります。例えどなたの命令であれ、他人に預けることはできません」


きっぱりとしたミリーの物言いに、ロイの眉間がわずかにピクりと動いた。

彼――エンペラー将軍にとって、このペンダントは魔王復活の儀式を完遂するための最大の障壁である。もしここで強硬手段に出て力づくで奪い取ろうとすれば、ペンダントが放つ聖なる結界が彼の魂を激しく焼き焦がすことだろう。なにより、周囲の貴族や騎士たちの前で王女を力ずくで抑えつければ、「英雄王子」としてのメッキが剥がれ、不審が広がるリスクがあった。


将軍は計算高い。今ここで無駄な亀裂を生む得策はないと判断したのだろう。


ロイはふっと不気味な笑みを浮かべ、伸ばしていた手をスッと引っ込めた。


「……ははっ、冗談さ、ミリー。君がそれほど大切にしているなら、無理強いはしないよ。ただ、城の安全を憂うがあまり、少し言葉が過ぎたようだ。許してくれ」


その変態的なまでの切り替えの早さに、ミリーは内心で歯噛みした。

まるで悪夢のような芝居がかった謝罪だった。しかし、周囲の貴族たちは「さすがは寛大なロイ様だ」とばかりに安堵の息をもらし、その場はなんとか収まったのだった。


その日の夜。

ミリーは自室の分厚い木製扉に二重の鍵をかけ、さらに内側から重い家具でバリケードを築いていた。

窓の外には、アストライア王国の美しい夜景が広がっている。しかし、今の彼女にとって、城の石壁の一枚一枚が敵の城壁のように冷たく感じられた。


(危なかったわ……。あのまま押し切られていたら、私は……)


ベッドの縁に腰掛け、胸元からペンダントを取り出す。

指先で包み込むと、宝石はひんやりとした心地よい感触と共に、脈打つような温もりを微かに伝えてきた。

『真実の眼』――祖母が遺した言葉が、今になってミリーの脳裏に蘇る。


『ミリーよ、この世には目に見えるものばかりではない。人の皮を被った魔物が這い回り、甘い言葉で真実を塗りつぶす夜がいつか来る。その時、この青い石だけが、お前を本当の真実へと導いてくれるだろう』


当時はおとぎ話の類だと思っていた。しかし、今やそれは紛れもない現実だった。

あの優しかったロイの身体の奥底には、今も「エンペラー将軍」という恐るべき怪物が生きて巣食っている。そして、それと同時に――。


(……あの時、彼の瞳から紫が消えた瞬間があった)


思い出すのは、廊下で首を絞められたとき、そして昨夜の狂気の最中でのこと。

ロイは自らの意思でその手を緩め、消え入りそうな声で「逃げろ」と告げた。将軍に完全に肉体を支配されながらも、彼の魂はまだ死んでいない。自分の愛する人を傷つけまいと、命を削って内側から戦い続けている。


(ロイ……あなたは今、どんな闇の中で戦っているの?)


胸が締め付けられるような痛みが走る。涙が溢れそうになるのを、ミリーは必死に唇を噛んでこらえた。

泣いている暇はない。彼が命を削って戦っているのなら、彼女もまた、ただ怯えて隠れているわけにはいかないのだ。


(エンペラー将軍がなぜここまで急に魔王を復活させようとしているのか。そして、城の地下にあるという『復活の祭壇』はどこにあるのか……それを突き止めなければならない)


城内で噂される不審な噂の数々を思い出す。

近頃、夜な夜な城の地下倉庫のあたりから、奇妙なうめき声や、冷たい風が吹き抜けてくるという使用人の証言があった。

もしや、そこが将軍の隠れ家であり、魔王復活の儀式の準備が進められている場所ではないか。


ミリーは決意を固めた。

明日、城の古文書保管庫に忍び込み、王家の地下構造図を確認する。たとえそれがどれほど危険な賭けであったとしても。


翌日の昼下がり。

城の広大な図書館の奥深く。古文書保管庫の扉は、厳重な魔術の鍵によって閉ざされていた。

しかし、王族の血を引くミリーには、その血脈の魔力によって一時的に鍵を解除する権限が残されていた。


誰もいない静まり返った書庫で、古い羊皮紙の束をめくる。

埃と古書の匂いが鼻腔をくすぐる中、ミリーの指先が1枚の古い地図でぴたりと止まった。


「――これだわ」


それは、アストライア城の建設当初に作られた、非公開の地下水路と秘密の祭壇を示す設計図だった。

そこには、王城の最も深い地下、かつて古代の封印が施されたという「大聖堂跡地」へと続く隠し通路が記されていた。


(ここに、エンペラー将軍がいる……!)


設計図を胸に抱きしめ、ミリーが書庫の出口へと振り返ったその瞬間。


「――感心だな、ミリー」


背筋が凍るような、甘ったるい声が静寂を切り裂いた。

書庫の重い扉の影から、ゆっくりと姿を現した影がある。

黄金の装飾が施された上着を羽織り、冷徹な微笑みを浮かべたロイだった。いや、その瞳の奥には、隠す気すらない禍々しい紫の光が爛々と輝いていた。


「まさか、我が君の秘密の隠れ家まで探し当てるとはね。君のその賢さは、時として実に厄介だ」


逃げ場のない書庫の狭い通路。

ロイの足音が、静寂の中で冷たく響き渡っていた。

第2話「真実の眼と狙われた聖遺物」、いかがでしたでしょうか!

ペンダントの秘密を巡る心理戦から、ついに地下の秘密へと迫り始めたミリー。しかし、早くもエンペラー将軍に先回りされて絶体絶命のピンチに陥ってしまいました。書庫での対峙、果たしてミリーはこの修羅場をどう切り抜けるのか!?


次回、第3話「肉体の牢獄、微かな反逆」では、完全に追い詰められた絶望的な状況の中で、ロイの魂が再び見せる決死の抵抗と、二人の間に交わされる切なすぎるアイコンタクトを描いていきます。


ぜひ次話もお楽しみに!ブックマークや評価、感想などもよろしくお願いいたします!

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