シーズン2 外伝第3話 :北方の雪どけと消えない温もり
シーズン2の外伝シリーズ第3話「北方の雪どけと消えない温もり」をお届けします!
激しい戦いからしばらくの月日が流れ、春の訪れとともに北方の凍土へと派遣された調査団の視点から、かつてロイが戦い、ミリーが奇跡を起こした雪原の現在を描く回想編です。
それでは、外伝第3話のスタートです。
アストレア王国の最北端、かつて「黒曜の谷」と呼ばれた魔王軍の残骸が眠る荒野。
その過酷な地にも、ようやく重い冬の終わりを告げる季節が訪れていた。どこまでも厚く覆われていた鉛色の雲が少しずつ切れ間を見せ、凍りついた雪原のあちこちで、冷たい雪解け水が小さなせせらぎを作って流れている。
近衛騎士団の一員である若い騎士・レイモンドは、馬の手綱を引く手を止め、深く息をついた。
彼の任務は、かつて魔導士たちが不気味な魔法陣を敷き、王国を揺るがす儀式を行った遺跡周辺の最終的な安全確認と、残存する魔力の浄化だった。
「ふう……それにしても、信じられないな」
レイモンドは周囲の景色を見回しながら呟いた。
半年前、ここ一帯はすべてを凍てつかせる死の気配と、触れるだけで精神を蝕まれるようなドス黒い瘴気に満ちていたという。しかし、いま彼の肌を撫でる風は驚くほどに穏やかで、冷たさの中にも微かな春の温もりが含まれていた。
「何が信じられないのかね、レイモンド」
背後から、年配の老騎士が馬を進めながら苦笑交じりに声をかけた。
「いえ……。ここであの恐ろしいエンペラー将軍の呪いや、大規模な魔導の暴走が起きていたなんて、今のこの穏やかな景色を見ていると、まるで嘘の夢のようだなと思いまして」
老騎士は遠くに見える険しい黒色の山脈に目を細め、静かに首を振った。
「嘘の夢などではないさ。半年前、この場所で我らが女王ミリー陛下がどれほどの覚悟を背負い、たった一人でこの凍土に乗り込んできたか。そして、第一王子であるロイ様が、その命を賭してこの世界の光を守り抜いたからこそ――今のこの穏やかな雪どけがあるのだ」
レイモンドはハッとして、自らの胸元に手をやった。
王国に生きる者であれば誰もが知る、あの「真実の眼」の伝説。物質としてのペンダントは女王の胸元にあるが、その奇跡の波長は、この北方の地に至るまで深く刻み込まれているという。
「……そうだ。私たちは、守られたんだ」
レイモンドが納得したように頷いたその時、ふわりと一陣の暖かい風が、谷の底から吹き抜けてきた。
それはまるで、長い冬眠から目覚めた大地を優しく労わるかのような、心地よいそよ風だった。
風に乗って、ふと、かすかな「青い光の残滓」が目の前の空間を揺らめかせた。
それはほんのひと瞬の出来事だった。雪解けの水面に反射した光なのか、あるいは気のせいなのか、まるで白銀の騎士のシルエットが遠くで優しく微笑んだような気がした。
「……今の、見ましたか?」
レイモンドが慌てて隣の老騎士に尋ねると、老騎士は穏やかに目を細め、空を見上げた。
「ああ。きっと、この風はあの時の方からの贈り物さ。私たちがしっかりとこの国を守り続けていれば、きっといつまでも、あの人たちはこの空から私たちを見守っていてくれる」
二人は深くうなずき、再び馬の歩みを進めた。
かつて絶望の象徴であった北方の雪原は、今や過去の悲しみを優しく溶かし、新しい未来へと続く確かな一歩を育む聖地へと変わりつつあった。
外伝第3話「北方の雪どけと消えない温もり」をお読みいただき、ありがとうございました!
戦いが終わり、春を迎えた北方凍土に残る温かな気配と、騎士たちの視点から描かれるロイとミリーの伝説への敬意を描きました。
次回、外伝第4話「アストレア城の庭園にて」では、季節が巡り再び初夏を迎えた王城の庭園で、幼い頃の思い出に浸りながら日常を生きるミリーの穏やかなひとコマをお届けします。
ぜひお楽しみに!




