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魔王を殺した王子、私を救った恋人  作者: 凪塩 未来


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シーズン2 外伝第2話 :アルフレッドの贖罪

シーズン2の外伝シリーズ第2話「アルフレッドの贖罪」をお届けします!

エンペラー将軍の呪いによる洗脳から解放された近衛騎士団の副官・アルフレッド。自らが意図せず加担してしまった罪の重さに苦悩しながらも、再び誇り高い騎士として立ち上がるまでの葛藤を描く心理描写編です。


それでは、外伝第2話のスタートです。

アストレア城の地下訓練場。

夜の帳が下りた静寂の中、硬質な石の床を叩く単調な剣の音が、規則正しく響き渡っていた。


スッ、パァッ!


風を切り裂く鋭い音が部屋を揺らす。汗にまみれた金髪の青年――近衛騎士団副官のアルフレッドは、息を荒げながら、何度も何度も木製の訓練用人形に剣を叩き込んでいた。

その剣筋はかつてのように美しく、迷いがないように見えた。しかし、彼の碧色の瞳の奥には、消えない澱のような焦燥と、深い自責の念が揺らめいている。


(私の身体が……あの時、あの忌々しい将軍の呪いに屈しなければ……あんなにも多くの仲間を、そして城を危険に晒すことはなかった……!)


脳裏に蘇るのは、自分が洗脳されていた間に犯した過ちの記憶だ。

自分の意志とは裏腹に、かつての仲間たちに冷酷な言葉を投げかけ、王都を闇の霧に沈める先導役となってしまったあの絶望感。たとえそれが「呪いによる強制」であったとしても、自らの肉体が悪の手先として使われたという事実を、彼の誇り高い騎士としての精神は許すことができなかった。


ガキン、と鈍い音がして、アルフレッドの振るった剣が訓練用人形の首元を激しく打ち据えた。

衝撃で柄を握る手が痺れ、彼はその場に膝をついた。


「……くそっ……!」


荒い息を吐き出しながら、アルフレッドは両手で自分の頭を強く抱え込んだ。

どれだけ剣を振ろうとも、どれだけ汗を流そうとも、胸の奥底に巣食う罪悪感は消えてくらない。自分はもう、王家の盾として、そして近衛騎士団の副官として、誰かの前に立つ資格などないのではないか――そんな暗い諦めが、彼の心を冷たく蝕んでいた。


「――夜遅くに、精が出るな、アルフレッド」


背後から掛けられた落ち着いた声に、アルフレッドはハッと息を呑んで振り返った。

そこに立っていたのは、深夜の巡察の途中だったのか、軽く外套を羽織った女王ミリーだった。その瞳は、いつだって真っ直ぐに人の本質を見据えていた。


「……陛下……夜分遅くに失礼いたします。このような場所で、お見苦しいところをお見せしました」


アルフレッドは慌てて膝をつき、恭しく頭を垂れた。

ミリーは静かに歩み寄り、彼の目の前で足を止めると、ゆっくりと首を横に振った。


「見苦しいなどと思ったことは一度もないわ。……眠れないのですか?」


「……」


アルフレッドは答えに窮し、ぎゅっと唇を引き結んだ。答えずとも、彼女にはすべてお見通しなのだろう。

しばらくの沈黙の後、アルフレッドは絞り出すような声で呟いた。


「私は……怖いのデス、陛下。あの時、あの将軍の黒い影が私の意識を乗っ取った瞬間、自分の内側からすべてが奪われていくような恐怖を覚えた。そして、気付けば私は……あなたや、王国を裏切る側に立っていた。……こんな脆弱な精神の男が、再びこの城の騎士として、大切なものを守るための剣を握っていていいのだろうかと……」


その言葉には、かつて無敗の騎士と謳われた彼の、痛々しいほどの自尊心の崩壊と、誠実すぎるがゆえの苦悩が滲んでいた。


ミリーは静かに彼の言葉を受け止めると、少しだけ表情を和らげ、優しく微笑んだ。

「アルフレッド。あなたがどれほど苦しんでいるか、私にも少しだけ分かるわ。あの夜、城の門前であなたが自分の内なる闇と戦い、必死に声を絞り出していた姿を、私は覚えているから」


「陛下……」


「それにね、ロイならきっとこう言うはずよ。『過去の過ちを恐れるな。大事なのは、その傷を背負って、これからどちらへ進むかだ』って」


ロイの名前が出た瞬間、アルフレッドの胸が熱く締め付けられた。

あの優しく、誰よりも強かった親友の姿が、鮮やかに脳裏によみがえる。


「あの夜、私の魂を呼び戻してくれたのは、あなたやロイ様が繋いでくれた絆の光だった。あなたが私を救ってくれたように、今度はあなたが、あなた自身を救う番よ、アルフレッド」


ミリーのその言葉は、アルフレッドの心の奥底で凍りついていた痛みを、まるで春の陽光のように優しく溶かしていった。

彼は震える手で地面を支え、ゆっくりと立ち上がった。その瞳には、先ほどまでの迷いや絶望の色は消え、代わりに強い決意の光が戻っていた。


「……身に余るお言葉でございます、陛下」


アルフレッドは胸元に右手を当て、騎士としての最も厳粛な敬礼を捧げた。

「この命と剣は、ふたたび陛下のために、そしてロイ様が命を懸けて守り抜いたこのアストレア王国の平穏のために捧げます。二度と、あの闇に魂を売るような愚行は犯しません」


その声には、もう迷いはなかった。

訓練場の窓から差し込む深夜の月明かりが、彼の銀色の鎧と引き締まった横顔を誇らしく照らし出している。


過去の贖罪を胸に抱きながらも、騎士は再び立ち上がった。

アストレア王国の守りは、こうして確かな意志を持つ者たちの手によって、しっかりと支えられていくのだった。

外伝第2話「アルフレッドの贖罪」をお読みいただき、ありがとうございました!

洗脳のトラウマや罪の意識に苦悩しながらも、ミリーの言葉によって再び立ち上がるアルフレッドの再生を描きました。


次回、外伝第3話「北方の雪どけと消えない温もり」では、戦いが終わった後の北方凍土を訪れた騎士団の視点から、かつてロイとミリーが残した奇跡の痕跡を描きます。

ぜひお楽しみに!

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