シーズン2 外伝第1話 : 王冠の重みと最初の夜
シーズン2の裏側を描く外伝シリーズが開幕!
第1話「王冠の重みと最初の夜」では、女王として即位したばかりのミリーが、静寂の夜に味わった孤独と、ペンダントに託された温もりとの対話を描きます。
それでは、外伝第1話のスタートです。
アストレア城の執務室の窓ガラスを叩くのは、初夏の夜を湿らせた静かな雨の音だった。
昼間の喧騒が嘘のように静まり返った城内は、深い闇と、どこか冷たい石造りの匂いに包まれている。
机の上に山積みにされた復興のための報告書、諸侯からの書簡、そして領地ごとの損害見積もり。
そのすべてが、新女王となったミリーの一挙手一投足に委ねられていた。彼女はペンを走らせる手を止め、深いため息をついた。吐き出された白い息はすぐに消え、代わりに胸を締め付けるような孤独感が広がっていく。
(……疲れたな、少しだけ……)
誰もいない部屋。頼れる父親はすでに病に倒れ、この王国の頂点に立つ者は、今や自分ひとりしかいない。
王冠という名の見えない重圧が、細い両肩にずしりと重くのしかかる。もしここで自分が間違えれば、守るべき民衆が苦しみ、かつてロイが命を懸けて守り抜いたこの国が崩壊してしまう。その恐怖が、夜の静寂に乗じて幾重にも押し寄せてきた。
ふと、ミリーは自分の胸元へと視線を落とした。
絹のドレスの胸元に揺れる『真実の眼』のペンダント。青く澄んだその宝石は、周囲の闇を拒絶するかのように、いまも微かな、しかし確かな温もりを放ち続けている。
指先でそっと宝石に触れた瞬間、頭の奥底で懐かしい声が響いた気がした。
――『大丈夫だよ、ミリー。君は一人じゃない』
幻聴だと分かっている。けれど、その温かな響きは、半年前のあの日、そしてシーズン2の戦いの最中に彼が自分に注いでくれた眼差しそのものだった。
涙が不意に視界を滲ませた。
「……ずるいよ、ロイ。こんな時にあなたの姿を見せないなんて……私、本当に怖くなることがあるんだよ……」
誰にも見せない弱音が、静まり返った執務室にぽつりと零れ落ちる。
しかし、彼女が泣くことは許されなかった。いや、泣く必要などなかった。胸元のペンダントから伝わる温もりは、まるで彼がそっと背中に手を添えてくれているかのように、冷え切った彼女の心を芯から温め直していく。
ミリーはぐっと涙をこらえ、震えていた両手をしっかりと握りしめた。
彼女は顔を上げ、窓の外の暗闇を見据えた。雨はまだ降り続いていたが、その雲の向こう側には、いつだって変わらない永遠の青空が広がっていることを、彼女は知っている。
「……見ていてね、ロイ。私、この国を絶対に守り抜いてみせるから。あなたの愛した、この世界を」
孤独な夜の静寂は、彼女のその強い誓いによって、少しずつ確かな決意の光へと塗り替えられていった。
王冠の重みは消えない。だが、それを支えるための強さが、今のミリーの心には確かに宿っていたのだった。
外伝第1話「王冠の重みと最初の夜」をお読みいただき、ありがとうございました!
女王として生きるミリーの孤独と、ペンダントを通じて支えられる心の成長を描きました。
次回、外伝第2話「アルフレッドの贖罪」では、洗脳から解放されたアルフレッドの苦悩と、近衛騎士としての再起に向けた葛藤を描きます。
ぜひお楽しみに!




