シーズン2 第1話 :残響の王都
皆様の熱いご要望にお応えし、『魔王を殺した王子、私を救った恋人』シーズン2の連載がスタートいたします!
前シーズンの結末から半年。女王となったミリーの前に、新たな影が忍び寄る第1話「残響の王都」をお届けします。
それでは、シーズン2第1話のスタートです。
アストレア王国の王都に、やわらかな初夏の風が吹き抜けていた。
半年前、大聖堂跡地で起きた血塗られた夜の悲劇――エンペラー将軍の消滅と、第一王子ロイの死から半年。王都の石畳は綺麗に洗い流され、人々は再び穏やかな笑顔を取り戻していた。
王城の最も高いバルコニーから、広場を行き交う民衆の姿を見下ろす少女がいた。
純白のドレスに身を包み、その気高い美しさと強い意志をたたえた瞳を持つアストレア王国の新女王、ミリーである。
彼女の胸元では、あの時と変わらず、青く澄んだ『真実の眼』のペンダントが優しく揺れていた。
風が吹くたび、宝石はまるで生きているかのように微かな温もりを放ち、遠くへ旅立った恋人の存在をミリーにそっと教えてくれる。
(ロイ……私は今、この国をしっかりと守っているよ)
心の中で呟きながら、ミリーは小さく息をついた。
王位を継承した当初は、若き女王に対する貴族たちの不穏な動きや、戦争の傷痕に苦しむ領地からの悲鳴など、山積みの難題に押し潰されそうになる日々だった。しかし、彼女はあの夜にロイが見せてくれた「不屈の覚悟」を胸に、すべての困難を毅然とした態度で乗り越えてきたのだ。
今や、アストレア王国はかつてないほどの安定と平和のなかにあった。
――少なくとも、この日の昼下がりが訪れるまでは。
「――失礼します、陛下!」
執務室の重い扉が激しく開かれ、近衛騎士団の若い団長が青ざめた顔で飛び込んできた。
その手には、一枚の黒い羊皮紙が握られている。
「どうしたのですか、そんなに慌てて」
ミリーが静かなトーンで尋ねると、騎士は息を荒げながら膝をついた。
「た、大変です! 王都の南門の検問所にて、奇妙な身なりの旅人が拘束されたのですが……その者が所持していた荷物から、信じられないものが発見されました」
「信じられないもの、とは?」
「これをご覧ください……」
騎士が差し出した黒い羊皮紙を、ミリーは受け取った。
その表面には、王国では何十年も前に禁忌とされたはずの、禍々しい魔王軍の紋章が刻印されていた。そして、その中央には血でこう書かれていたのだ。
——『英雄の死は偽りなり。真の闇は、北方の凍土より再び目を覚ます』
ギクリと、ミリーの心臓が激しく跳ね上がった。
胸元のペンダントが、まるで警告を発するように急にひんやりと冷たく光り始める。
「その旅人はどこに!?」
「それが……拘束した直後、本人の口から奇妙な黒い煙が吹き出し、彼はその場で灰となって消え去ってしまったのです。遺されたのは、この羊皮紙と……奇妙な古文書の切れ端のみでした」
背筋に冷たいものが走る。
半年前、エンペラー将軍は消滅したはずだ。ロイが自らの命を賭して、あの呪いの根源を完全に断ち切ったはずなのに。
「……北方の凍土……」
ミリーは呟き、遠くに見える白銀の山々へと視線を向けた。
平和な王都の裏側で、すでに新たな、そしてかつてないほど巨大な悪意の歯車が動き始めている。それは、ロイが命を懸けて守り抜いたこの世界を、再び漆黒の闇に引きずり込もうとする不気味な足音だった。
「騎士団に通達します。これより王国全土に警戒令を発令。同時に、北方に関するすべての古文書と記録を直ちに私のもとへ集めなさい」
「はっ!」
騎士が慌ただしく部屋を飛び出していく。
静まり返った執務室の中で、ミリーはしっかりとペンダントを握りしめた。
「ロイ……私は負けないわ。あなたが命と引き換えに守ってくれたこの世界を、私が絶対に守り抜いてみせるから」
青空の下、王都の平穏な日常のすぐ隣で、運命の歯車が再び不気味な音を立てて回り始めたのだった。
シーズン2第1話「残響の王都」をお読みいただき、ありがとうございました!
女王として成長したミリーの姿と、突如として舞い込んだ不穏なメッセージ。物語は新たなステージへと突入します。
次回、シーズン2第2話「消えた聖遺物」では、王宮の宝物庫からペンダントが盗み出される事件が発生。犯人を追うミリーの前に現れる新たな敵の影に迫ります。
ぜひお楽しみに!




