外伝第5話 :未来へ続く風
外伝第5話「未来へ続く風」をお届けします!
本編の結末から数ヶ月後。すべての悪夢が去り、平和を取り戻したアストレア王国の復興を一身に背負って歩み始めるミリーの姿と、今も彼女の心に寄り添うロイの温もりを描くエピローグです。
それでは、外伝最終話のスタートです。
アストレア城の執務室の窓から、どこまでも高く広がる青空が覗いていた。
机の上には、王国全土から集まった復興のための書類の山が綺麗に整理されて積まれている。その最前線に立ち、一本の万年筆を握りしめて書類に目を通しているのは、アストレア王国の新女王となったミリーだった。
あれから数ヶ月の月日が流れた。
かつて城内を覆っていた冷酷な澱みや、悪夢のような夜の気配は、今や遠い過去の出来事のようだった。民衆の笑顔は戻り、市場には活気が溢れ、人々は再び穏やかな日常を取り戻している。
すべての混乱の元凶であったエンペラー将軍は消滅し、世界を救った英雄ロイの眠る墓所には、毎日絶やすことなく美しい花々が手向けられていた。
ミリーは手を止め、ふっと小さく息をついて窓の外へと視線を向けた。
初夏の暖かい陽射しが、庭園の新緑を鮮やかに照らし出している。幼い日、彼と初めて出会い、一緒に小鳥の世話をしたあの場所だ。
(ロイ……私、ちゃんとやっているよ)
心の中でそっと語りかける。
王位を継ぎ、王国を立て直す毎日は決して平坦ではない。時には重責に押しつぶされそうになり、夜中に一人で寂しさに胸が締め付けられることもあった。けれど、そんなとき彼女が胸元に手をやると、いつも『真実の眼』のペンダントが優しく、心地よい温もりを伝えてくれるのだった。
あの夜、彼が自分の手で自らの命を絶ち、世界と彼女を守ってくれたこと。
その選択がどれほど痛みを伴うものであったとしても、彼が「自分の魂のまま」還ってきたという事実が、今のミリーを支える揺るぎない誇りとなっていた。
コン、コン。
静かなノックの音とともに、執務室の扉がそっと開いた。
「――陛下、そろそろ次の会議の時間です」
忠実な騎士が恭しく頭を下げる。
ミリーはきりっと背筋を伸ばし、王女として、そして一国の女王としての凛とした美しい笑みを浮かべた。
「ええ、分かったわ。今すぐ向かうわね」
執務室を出る直前、彼女はもう一度だけ振り返り、窓辺に目をやった。
その瞬間、ふわりと心地よい初夏の風が部屋の中に吹き抜けた。
カーテンが大きく揺れ、まるで誰かが優しく肩を叩いてくれたかのように、部屋の空気がフッと温かな気配に包まれる。
――よく頑張ったね、ミリー。
耳元で、懐かしく愛おしい彼の声が響いた気がした。
幻かもしれない。けれど、ミリーは驚くことなく、ただ柔らかく目を細めて空に向かって微笑んだ。
「うん。……行ってくるわ、ロイ」
ペンダントが太陽の光を浴びて、どこまでも眩しい青い光を放つ。
彼女は前を向いて力強く歩き出した。彼の愛したこの国と、彼が守り抜いた未来を抱きしめながら、新しい明日へと続く道を一歩ずつ進んでいく。
外伝第5話「未来へ続く風」、そして全5話の外伝連載をお読みいただき、本当にありがとうございました!
本編から外伝に至るまで、『魔王を殺した王子、私を救った恋人』の世界観と、ロイとミリーの切なくも美しい愛の軌跡を楽しんでいただけましたでしょうか。
お互いを想い合い、運命に抗った二人の物語が、皆様の心に少しでも長く残るものとなれば幸いです。
ここまで温かい応援をいただき、心より感謝申し上げます。また次の作品でお会いしましょう!




