外伝第1話 :青い石の記憶
本編完結をお読みいただき、本当にありがとうございました!
皆様からの熱い反響にお応えして、全5話の外伝連載をお届けいたします。外伝第1話「青い石の記憶」では、ミリーとロイの幼き日の出会いと、祖母からペンダントが継承された日の秘密が描かれます。
それでは、外伝第1話のスタートです。
アストレア王国の王城の奥深く、陽光が差し込む古い書斎。
当時、まだあどけなさが残る十歳のミリーは、窓辺の特等席で祖母から手渡されたベルベットの小箱をじっと見つめていた。
「おばあ様、これは……?」
「開けてごらん、ミリー」
優しい笑みを浮かべる祖母に促され、ミリーがそっと小箱の留め金を外すと、中からひんやりとした青い光がふわりと溢れ出した。
それは、夜空の最も深い場所を切り取ったような、不思議な透明感をたたえた青い宝石のペンダントだった。
「これは『真実の眼』。我がアストレア王家の血筋に代々受け継がれてきた、特別な聖遺物だよ」
祖母はミリーの小さな手にそれを載せ、教え諭すように続けた。
「この世にはね、目に見えるものばかりが真実とは限らないの。人の皮を被った悪意が、甘い言葉で世界を覆い隠そうとする夜がいつか来る。そんなとき、この青い石だけが、お前を本当の真実へと導き、大切なものを守る盾となってくれるだろう」
当年のミリーには、祖母の言葉の重みはまだ半分も理解できていなかった。ただ、ペンダントから伝わる心地よい冷たさと、心臓の鼓動に寄り添うような微かな温もりに、不思議な安心感を覚えていたのを覚えている。
「大切にするわ、おばあ様」
そう言ってミリーが首元にペンダントを掛けたその日の午後。
城の庭園で、彼女は人生を変える出会いを果たすことになった。
春風がバラの香りを運ぶ庭園の隅。
ミリーが一人で絵本を開いていると、茂みの向こうからガサリと音がした。驚いて顔を上げると、そこには泥まみれの服を着た一人の少年が立っていた。
亜麻色の柔らかい髪を風になびかせ、深い森の湖のような碧眼をぱちくりとさせている、少し年上の少年――ロイだった。彼は隣国の遠縁の血を引く貴族の孤児として、最近この城に引き取られてきたばかりだった。
「あ、あの……ごめん、驚かせた?」
ロイは恥ずかしそうに頬を掻き、足元に視線を落とした。彼の両手には、巣から落ちて羽を痛めたらしい小さな小鳥が包まれていた。
「怪我をしているの……。手当てをしてあげたいんだけど、どうすればいいか分からなくて」
その少年があまりにも優しげな眼差しで小鳥を見つめているのを見て、ミリーの胸の奥がキュンと鳴った。
「……私に任せて!」
ミリーは胸元で揺れる青いペンダントをそっと抑えながら、立ち上がった。祖母から教わったばかりの簡単な回復魔法と、手元のハンカチーフを使い、二人は夢中になって小鳥の世話をした。
やがて、小鳥は元気を取り戻し、パタパタと羽ばたいて青空へと飛び立っていった。
「すごいな、ミリー! 君はまるで、本当の魔法使いみたいだ」
ロイが向けた無邪気で眩しい笑顔。
その瞬間から、ミリーの心の中で、ロイという存在は特別でけがれのない光となっていた。
「大きくなったらさ、僕がずっと君を守る騎士になるよ。だから、泣き虫な顔はしないでくれよ、ミリー王女様」
「ふん、泣き虫なんかじゃないわ! でも……約束よ、絶対に私を守ってね」
庭園の木漏れ日の下で交わした、幼い日の誓い。
まさかその少年の身体が、将来、世界の運命を賭けた暗黒の怪物に乗っ取られることになるとは、当時の二人は知る由もなかった。
(あのとき、あなたが私を笑顔にしてくれたように――今度は私が、あなたの魂を守り抜く番だったのよ、ロイ)
小箱を閉じるように、ミリーは静かに過去の記憶を心の中にしまい込み、前を向いて微笑んだ。
外伝第1話「青い石の記憶」をお読みいただき、ありがとうございました!
二人の幼少期の心温まる出会いと、ペンダントに込められた祖母の言葉の真意が明らかになりました。
次回、外伝第2話「黒曜の谷の死闘」では、本編の直前、ロイが魔王を討伐した最終決戦の裏側と、エンペラー将軍の呪いに囚われた瞬間をロイ視点で描きます。
ぜひお楽しみに!




