第10話 :還る場所
第10話「還る場所」をお届けします!
物語はいよいよ最終回のエピローグを迎えます。ロイの死によって世界に平和が戻った後、ミリーがどのように悲しみを乗り越え、前を向いて生きるのか。そして、風に乗って彼女のもとに届いた温かな気配とは――。
それでは、最終話のスタートです。
王国を揺るがした悪夢の夜から、季節が二つほど巡った。
アストレア城の庭園には、かつてと変わらず柔らかな春の陽射しが降り注ぎ、色とりどりの花々が穏やかに咲き誇っている。
風がそよと吹き抜け、枝葉を揺らす。その合間から、愛らしい小鳥たちのさえずりが軽やかに聞こえてきた。
庭園のベンチに腰掛け、ミリーは静かに空を見上げていた。
その胸元には、変わることなく、あの青く澄んだ宝石のペンダント『真実の眼』が優しく揺れている。陽の光を浴びた宝石が美しく煌めくたび、彼女の脳裏には鮮やかな記憶が蘇る。
――彼が最後に見せてくれた、あの優しい笑顔を。
あの悲劇の夜から、王国には完全な平和が戻った。
エンペラー将軍の消滅と同時に城内を覆っていた悪しき洗脳は解け、人々はかつてロイが命を賭して守り抜いた世界を取り戻した。歴史書には、魔王を討ち、さらに復活を目論んだ邪悪な思惑を自らの命と引き換えに打ち砕いた「偉大な英雄の最期」として、彼の名が永遠に刻まれている。
けれど、世間の人たちがどれほど彼を「英雄」と称えようとも、ミリーにとってロイはそんな遠い存在ではない。
彼はいつだって、自分の大切な、愛するたった一人の恋人だった。
「……ねえ、ロイ」
誰もいない隣の空間に向かって、ミリーはぽつりと呟いた。
涙はもう枯れ果てていない。喪失感の痛みが消えたわけではないけれど、その胸にあるのは深い温もりと、明日へ向かうための確かな強さだった。
彼は自分の魂を守り抜き、化け物の言いなりになることなく、ちゃんと自分の意志で「還ってきた」のだから。
その時、一陣の心地よい風が、ミリーの栗色の髪を優しくそっと揺らした。
春の香りを運んできたその風に乗って、どこか懐かしく、温かい声が耳元でかすかに響いたような気がした。
――おかえり、ミリー。
幻だったのかもしれない。あるいは、風の気まぐれだったのかもしれない。
けれど、ミリーは驚くことなく、ただ穏やかに目を細め、満面の笑みを浮かべて空に向かって小さく首肯した。
「うん。……ただいま、ロイ」
青空はどこまでも高く、澄み切った青色に広がっていた。
ペンダントが太陽の光を反射し、まるで祝福するようにきらりと眩い輝きを放つ。彼女は胸のペンダントをそっと指先で包み込み、前を向いてゆっくりと歩き出した。
愛する人は、ちゃんと自分の魂のまま、永遠に還るべき場所へと帰ってきたのだから。
最終話「還る場所」をお読みいただき、本当にありがとうございました!
『魔王を殺した王子、私を救った恋人』、いかがでしたでしょうか。
身体を乗っ取られながらも愛のために戦い続けたロイと、彼の魂を信じて凛と立ち向かったミリーの切なくも温かい純愛を描いてまいりました。最後は悲劇でありながらも、お互いの愛がしっかりと結実し、救いのあるエピローグとなりました。
ここまでお付き合いいただいた読者の皆様、本当に感謝いたします。
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それでは、また次の作品でお会いしましょう!




