私の望む罰①
「では、私の望む罰をお伝えします。ご質問やご指摘は後ほどお願いいたします。
まず、レオネルに対しては、私やオズモンド家に対する慰謝料をその身で支払っていただきたいです。具体的には二日後より研修として仕事を覚えてもらいます。そして年明けから平民として我が商会の下働きとして働いてもらい、その給料から慰謝料を天引きする方法を取らせていただきます。同業他社よりも手取りの給金は多い方ですし、真面目に働けば数年で支払い終えるはずです」
「そして、メリダですが、知己の仲とはいえ平民の婚約を公爵令嬢が人目のある中で破談にし、かつあの時点では正式にレオネルは私の婚約者であったため、彼とは不貞を働いていたことになります。よって年が明けて直ぐより、三年間修道院にてしっかりとお勤めをしていただきたいです。
メリダからお金はいただきません。デビュタント、王立学園へ通う時間を慰謝料としていただきます。
以上が私の彼らに求める罰です」
アレイスター様達をしっかりと見据え、私が要望を言い切り口を閉じると、傍らの二人が深く頭を下げた。
「おれはティアラの望む罰を受け入れます」
「私も、公爵令嬢としてみっともない姿を晒してしまいました。ティアラの望む罰を受け入れます」
時間にしてはゆっくり三拍程、私たちにとってはそれよりも長く感じたけれど、まず口を開いたのはアレイスター様だった。
「……ティアラの望む罰は理解した。しかしデビュタントも王立学園も無しというのは重すぎないか? それはメリダに貴族令嬢としての身分を捨てろと言っているようなものだ。なるべく希望に沿うとは言ったが、ここまでの事は承知しかねる」
眉間に深く皺を刻み、鋭い視線を向けるアレイスター様からは軽く圧を感じる。次いでグリフィス伯爵も、困惑したように私に問いかけた。
「その、ティアラ嬢。レオネルへの罰よりメリダ嬢への罰が重すぎるのではないかね?」
「いえ、レオネルへの罰もそれなりに重いものとなっております。我が家に婿入りの形でしたら、伯爵家の暮らし程裕福ではございませんが不自由なく暮らせたと思います。
ですが、いち従業員として雇うとなれば、住まいは平民の社員寮で相部屋ですし、衣食住全ての質が今よりも数段劣りますので、慣れるまでは相当な精神的肉体的ストレスがかかるかと」
「っ、そう、なのか…… レオネル、お前はそれでいいんだな?」
思っていたよりも過酷な罰だと理解したのだろう。グリフィス伯爵は心配そうな目をレオネルに向けたけれど、レオネルは何でもないことのように頷きを返した。
「はい。不義理をした身なのにオズモンド商会で雇ってもらえる上、住まいまで用意していただけるなんてこんなに有難い事はありません。しっかり働いて報います」
「そうか…… ならば、そのように」
レオネルの決意の籠もった言葉に、グリフィス伯爵は当主の顔を作ると、私と父様を順に見つめ頭を下げた。
「……愚息をよろしく頼む」
「はい、しっかりこき使ってやります」
「こらティアラ。息子として迎えられないのは残念ですが、レオネル君であれば直ぐに仕事も覚え即戦力となるでしょう。悪いようには致しません、お預かりさせていただきます」
これでレオネルの方は何とかなった。問題はメリダだけど……
私はアレイスター様に向き直ると、生意気過ぎると怒られる事を覚悟して、口を開いた。
「アレイスター様、我が家は平民ではございますが、商会の名としては大きなものであると自負しております。商人とは信用が一番大事なものなのです。たった一つの醜聞が命取りと成りかねないのです。
婿入りとはいえ格上の伯爵家から婚約破棄された娘の居る商会だと軽んじられたり、公爵家がそれに関わっていたとなれば、我が家にも何か落ち度があったのではと勘ぐり不信を招く事にも繋がりかねません。そうなると私一人の婚約どうのの問題ではなく、商会で働く者達にも影響が出ますし、仕事にも影響が出ます。正直な所、慰謝料程度ではこの問題で起こりうる損害の賠償は賄えないのですよ。
我が家と従業員達の人生全てと、メリダの貴族令嬢としての人生を天秤にかければ、メリダの令嬢としての価値が無くなることの方がだいぶ軽いのではないですか?」
案の定、カチンと来たのだろうアレイスター様は厳しい顔で私を睨めつけた。本音を言えば、とても怖い。
普段は余り気にしていなかったけれど、上位貴族の、それも最高位の貴族当主の圧に身体が震えそうになる。
きゅっと、肩が竦みそうになった時、父様の穏やかな笑い声が張り詰めた緊張感を打ち壊した。




