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三十年目のティアラ 〜公爵令嬢と半分ずつ育った私は、親友の涙の理由を知らなかった〜  作者: 伏町 よい


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私の望む罰②


「ははは! ティアラ、君は本当にメリダとレオネル君が大好きなんだね」

「……どういう事だ、オズモンド殿」


 厳しい顔のまま、父様に問いかけるアレイスター様に、父様は落ち着いた穏やかな声で言葉を返した。


「アレイスター様、これはティアラが罰に見せかけて二人を何とか結ばせてやろうとしているのですよ。そして二人にもその覚悟があるようだ。

 レオネル君が慰謝料返済の目的で数年しっかり働けば、その頃には家庭を持っても遣り繰りできるほどの収入はあるでしょう。

 そしてメリダが修道院でしっかりと勤めを果たせば、三年で還俗できる。デビュタントも学園にも通っていない貴族令嬢に、政略結婚の価値は無いでしょう。修道院での慎ましやかな生活に慣れ、うちでティアラと共に帳簿付けや値付け目利きを学んだメリダは…… おや、レオネル君に取っても我が家にとっても即戦力で魅力的なお嫁さんになりますね? そういうことなんだろう? ティアラ」

「……やっぱり、父様には全てお見通しね」


 唖然とするアレイスター様と、悪戯が成功した子どものような笑みを浮かべる父様に、参ったと言う風に私は肩を竦めた。


「その通りです。もう一つ、付け加えるならメリダをエヴリン様から離す目的もあります。私はこれ以上メリダに傷ついてほしくないんです。エイリーク様に向ける心からの愛情と上辺だけの愛情の差に傷付くことも、母親の手の入らない衣装でデビュタントを迎える寂しさも、メリダに感じてほしく無いんです。

 私もアレイスター様も気が付かなかったメリダの苦しみに、レオは気付いてずっと寄り添っていました。レオはメリダをメリダのまま大切にしてくれます。他家の、それも貴族家の内情に踏み込み過ぎだとは解っています、でも、本当にメリダの幸せを思うなら、どうかメリダを修道院に行かせてやってください。お願いします」


 深々と頭を下げる私の隣で、メリダのスカートが揺れた。


「お父様、私、お父様の愛情を疑ったことはございません。慈しみ、心から愛してくださった。赤子の私の為に、周囲に何を言われてもオズモンド家と共に育ててくださったこと、並の方にできることではございません。

 ……ただ、お母様はもう、無理です。お母様は私の事に興味が無いのです。きっと家に戻っても、誰かと婚姻をしても、私はずっとティアラと、お母様の頭の中の理想のティアラと無意識に比べられ、その度に苦しく惨めな思いをする事になるでしょう。私は心からお母様に愛されたかった。エイリークのように名前なんて関係無く、愛されたかった…… でもそれは叶わない事だと理解してしまったのです。だからお互いのためにも、離れたく思います。どうか、修道院へ行くことをお許しください」


 目の端にメリダの亜麻色の髪がさらりと垂れたのが映る。

深く頭を垂れる娘達に、アレイスター様は狼狽えたようだった。


「二人とも、頭を上げなさい。……お前達の言いたいことは解った。だが、メリダ、無理だと判断するのは早計ではないか?」

「……いいえ、お父様。お母様は私の好きな色も、似合うドレスの形も、好きな食べ物も知りません。新しいドレスを見せに行っても『よく似合うわね、素敵ね』とそれだけです。私に似合う色やドレスは、ティアラの母様と我が家の侍女達が選んでくれました。彼女達が、本来実母がすべきことを私にしてくれたのです。これでも早計だと仰りますか?」


 頭を上げ、しっかりとアレイスター様を見つめて反論するメリダの空色がじわりと滲んだ。その震える華奢な背に、意図せず両側から私とレオネルの手が重なり、思わず目を見合わせた。

 レオネルは真面目くさった顔をしていたけど、この顔は大丈夫だと判断して、私はそっと手を離した。

 そんな私たちの様子を、アレイスター様は物言いだけに見つめると、ゆるゆると頭を振り深く一つ溜息を吐かれた。


「……このことは今すぐ決断するわけにはいかない。メリダの心の内や願いはよくわかった。そしてお前達がメリダのことを思い、ティアラに至っては自身が迷惑を被ったにも関わらずメリダの事を一心に考えてくれていることもな。

 だが、エヴリンの話も聞いてみないことには何とも言えないのだ。実際の様子を見て、お前達の言うことが正しいのかも見定めねばなるまい。言いがかりで公爵夫人を貶めたとなっては困るだろう。どこまでティアラの望む罰に沿えるかを含め、慎重に、対応させてほしい」


 ……アレイスター様は本当に出来た方だと思う。赤子のメリダの事にしても、今の話を子どもの戯言と一蹴する事もなく、ちゃんと考えてくださるのだから。


「……わかりました。ですが、長くは待ちません」

「わかっている。では二日後、使いをやるので我が家にて最終的な話をしよう。メリダもそれでよいな?」

「……はい、かまいません」

「では、今日のところは解散にしよう。ティアラ、色々と本当に申し訳なかった。オズモンド夫人にもよく言っておいてくれ」

「はい、わかりました。伝えておきますね」


 そうして、私達は応接室を出て、他のガーデンパーティー参加者の方と共にグリフィス邸を辞去した。

 私達は平民なので辻馬車を拾おうかと思っていたら、朝と同じくグリフィス様が馬車を用意してくださっていた。

 ありがたく使わせていただいて乗り込み、ふかふかの座席にふぅ、と背を預けた途端、疲労感が一気に押し寄せてきて思わず額を押さえた。


「なんだかとても濃い一日だったね。お疲れ様、ティアラ」

「本当よ。びっくりしたわ。父様も顔には出さないだけで驚いたでしょ、父様もお疲れ様」


 二人顔を見合わせて、疲れの滲む苦笑を浮かべた。

 そのまま、意匠を抑えた伯爵家の馬車が貴族街を抜け、大通りから平民街へと入るまで、私達はただ静かに馬車に揺られていた。

 家が見えてきた頃、私はぽつりと呟いた。


「メリダ、大丈夫かな」

「アレイスター様がついていらっしゃる、きっと大丈夫さ」

「うん……」


 ぼんやりと車窓から眺める先、庭先の洗濯物を取り込む母様がこちらに気づき手を振る姿に、チクリと胸が痛んだ。

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