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三十年目のティアラ 〜公爵令嬢と半分ずつ育った私は、親友の涙の理由を知らなかった〜  作者: 伏町 よい


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いざ、対面


 メイドが訪いを告げると、扉の向こうから入室を許可する低い声が聞こえた。

 レオネル、メリダと順に視線を合わせ、決意を滲ませ軽く頷く。

 スゥっと息を吸い、私達は『失礼します』と声を上げ、メイドの開いた扉を潜った。


「話は終わったかな?」


 入室早々、応接間の質の良いソファに腰掛けたアレイスター様から問いかけられた。

 着席の許可は出ていないため、その場で軽く淑女の礼を取り、背筋を伸ばして真っ直ぐアレイスター様、グリフィス伯爵、父様の順に見つめ口を開いた。


「はい。お時間をいただきありがとうございました。二人からは謝罪と、今日に至るまでの経緯を説明していただきました」

「そうか。では我々にも話してもらえるかね?」

「はい。……そもそもの発端は、私がティアラの名を賜り、メリダがティアラになれなかった事でした」


 私の言葉に片眉を跳ね上げたアレイスター様を目に留めると、私は先程温室で話し合った内容を、私の余計な感情を混ぜ込まぬよう事実のみを淡々とお伝えした。


………


 全てを話し終えると、アレイスター様はエヴリン様はすっかり回復されたと思っていたそうで、まさかメリダに対しそんな風な態度をとっているとは思いもしなかったようで、酷く動揺していらした。

 グリフィス伯爵はレオネルが内々であれど元はメリダの婚約者だったことが父様に露見してしまい、居心地が悪いのか頻りに額の汗をハンカチで拭われていた。


「……その、俄には信じられないのだが、エヴリンは本当にメリダのデビュタント衣装に関わっていないのか?」

「えぇ、メリダによりますと、好きなデザインを選べばいいと、メリダ本人の意を汲むような発言をされていますが、関わる事は無いそうです」

「そんな…… たった一人の娘のデビュタントだぞ? 普通、もっと母親はあれこれ気を揉んだり似合う意匠を選んだりとするもんじゃないのか?」


 どうなのだ、とアレイスター様が父様に問う。父様は顎を撫で、家の仕入れ帳を思い出しているのだろう、視線を天井へと向けながら記憶を辿るよう言葉を並べた。


「……そう、ですね。デビュタントの半年程前から宝飾店や仕立て屋から『どこどこの貴族のお嬢様用の生地や宝石でこのようなものは取り扱いがあるか』といった問い合わせが相次ぐのですが、私のもとにヴァルディア公爵家用の資材の問い合わせは来ていませんね。物が物ですので、デビュタント用の仕入れは全て私が受け持っているのですが……」


 正確に、確実に、求められる物や予算の中で最高品質のものを提供するために、我が家に依頼する貴族の晴れ着用の資材は父様が直々に仕入れチェックしているのだ。

 父様の言葉に、アレイスター様は一言『何ということだ……』と呟かれると頭を抱えてしまわれた。


「……いや、都度確認しなかった私も悪いな。娘の支度のことは母親と、安易に任せっきりにしてしまったのがいけなかった。メリダ、すまない。今までずっと言い出せず苦しい思いをしたのだろう、気づいてやれず本当にすまなかった」


 のろのろと頭を上げ、悲痛な表情でそう仰ったアレイスター様は、ソファから立ち上がると私の横に一歩下がって控えていたメリダに足早に駆け寄り、きつくメリダを抱き締めた。


「……いいえ、いいえお父様。私ももっと早く、お父様に相談すれば良かったのです。こんな大事にしてしまってごめんなさい……!」


 隣で抱き合う親子に、アレイスター様が話のわかる方で良かったと内心安堵の溜息をついていると、同じく安堵の表情でメリダ達を見つめていたレオネルに声が掛かった。


「……あー、レオネル。その、お前はメリダ嬢をそこまで大事にしていたのだな」

「えぇ。だから言ったじゃないですか、父上。俺はメリダがどこかに嫁ぎ一緒になれないなら、平民として独り身で構わないと。ティアラの元に婿入りは無理だと」

「男兄弟のようなものだし?」

「……っ蒸し返すなよ」


 気不味そうなグリフィス伯爵に苦笑するレオネルの揚げ足を取ってチクリと刺す。父親と同じく気不味そうな表情は、流石親子、よく似ていた。


「そういう事でしたら婚約でなくともレオネル君はうちで喜んで雇いましたのに。何なら今からでも……」

「ダメよ、父様。それはさっき私達で婚約解消の慰謝料や償いについても話し合って決めたから。それをどうするかは各家のご当主や父様が決める事にはなるけど、私に、私達に任せるって言ったよね?」


 父様の言葉に被せるように、食い気味で口を挟む。はしたない事だけど、今父様にレオネルを雇う算段をつけられたら困るのだ。


「……そうだね。君達に一旦任せてみようと言ったね。ならティアラ、そして君達はこの件に関してどう落とし前をつけるのかな?」

「あぁ。色々な要因があれ、婚約解消をあの様な場で一方的に告げオズモンド家とティアラの顔に泥を塗ったのだ。それ相応の処罰は受けねばならぬ。ティアラ、どうするのか聞かせてくれ。可能な限りは沿うと約束しよう」

「我が家もそれに倣おう」


 父様、そしてメリダからそっと離れ私を見つめるアレイスター様、グリフィス伯爵の順にしっかりと視線を合わせ、それから隣に控えるメリダ、レオネルと顔を合わせ小さく頷き合うと、私はここが正念場よ、と気合を入れなおし、胸元で指先を握り締めた。


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