二人への提案
私の話に耳を傾けた二人は、目を丸くして驚いた後、見つめ合い頷き合って私に揃って頭を下げた。
「もし、レオと共にあることが叶うなら、私は貴族じゃなくても構わない。お父様やお母様と縁を切ることになっても構わないわ」
「俺は三男だし元々成人すれば平民になる身だ。メリダと共に生きられるなら何だってやるさ」
「二人とも言質取ったからね? なら、早速父様達に交渉しなくっちゃ! 今この場にいる間に話を通さないと、きっとメリダはさっさと嫁ぎ先を用意されてしまうわ」
「っ、それはダメだ! よし、ちょっと待ってろ」
サッと顔色を変え、温室の扉で待つメイドにグリフィス伯爵への先触れを言付けに行ったレオネルは、メイドが去った後緊張気味に私達の元まで戻ると、私には目もくれずメリダの手を取った。
「メリダ、大丈夫だ。俺もティアラもついている」
「レオ……」
見つめ合い手を取り合う、物語のような絵になる二人の雰囲気に、軽く咳払いをして割り込む。
「あのさぁ、二人の世界作ってる所悪いけど、そういうのは全部終わってからにしてちょうだい。
それと私メリダには怒ってないけどアンタには怒ってるんだからね? なんでちゃんと報連相しないのよ」
「っ、そうだな、突然の事で本当に悪かった」
「もういいわよ。私の部下になったら思いっきりこき使ってやるんだから。それでチャラね」
フンッと鼻を鳴らし、私達は迎えに来たメイドに連れ立って温室を後にした。
メリダ達に提案したのは、二つ。
一つは婚約披露の場で解消を告げ方々に迷惑をかけた慰謝料を、レオネルには我が商会での下働きとして身体で払ってもらうこと。勿論、平民の給金と同じ額での雇用でだ。
うちの商会はそれなりに大きな商会だから、給金も同業他社よりは手取りは多い。とはいえ伯爵家の金銭感覚からすると微々たるものだ。そこから慰謝料分を天引きしていくとなると、すべて払い終わるまで数年はかかるだろう。
もう一つは、高位貴族が知己の中とはいえ平民の婚姻に口出しをし破談させた事による権威の乱用を問題にして、メリダを問題のある令嬢として修道院送りにすること。
修道院は入ってしまえば三年は出られない。けれど、三年しっかり勤めれば還俗する事が可能なのだ。そしてその時にはもうメリダに公爵令嬢としての価値は無くなっているはずだ。
王立学園に通うことも無く、デビュタントすらしていない貴族令嬢を妻に迎える者は居ないだろう。
それとなく、メリダにデビュタントのドレスはどうなっているのか訊ねると、エヴリン様からはメリダの好きなデザインにすれば良いわと微笑まれたと苦笑していた。
すべてを理解した私にだってわかった。それはメリダの意思を尊重するようでいて、自分は関わらないという軽い拒絶なのだと。
そしてエヴリン様の頭の中では、存在しない理想のティアラへのデビュタントのドレス妄想がなされているんだろう。
腹の底がふつふつと煮え立つような感覚に、私はぎゅっと拳を握りしめると、固く誓った。
メリダのデビュタントは出来なくても、婚礼衣装は我がオズモンド商会の威信にかけて誰よりも素晴らしいものを用意してやるのだ、と。
温室からアレイスター様達が控える応接室まで、私達は口を開くことは無かった。
大丈夫、きっと上手くいく、上手くやる。
少なくとも私の父様は協力してくれるはずと、本当に上手くいくかと不安になりそうな心を奮わせて、メイドが入室を伺う中、私は重厚な扉の前で大きく深呼吸をした。




