私に任せてください
あの頃からの違和感が、今、メリダの涙の理由になっているんじゃなかろうか。
もしかして、私は今までもメリダの違和感をずっと見逃していたんじゃないだろうか。
そう、思い至ると居ても立っても居られなくなって。
私はレオネルを押し退けると、泣きじゃくり震えるメリダをぎゅっと抱き締めていた。
「ねぇ、メリダ。私は何も怒ってないよ。レオとメリダが一緒になるなら、それはそれで私は嬉しいもの。
でもね、レオまで取らないでってどういう事? 私メリダに何かした?」
優しく背中をさすりながら、メリダからの言葉を待つ。
それでもメリダはごめんなさいと首を横に振るばかりで、とても話せるような状態ではなかった。
ふと視界の端に、よく磨かれた革靴のつま先が見えて追うように見上げれば、アレイスター様が険しい顔で私達を見下ろしていた。
その後ろにはグリフィス伯爵や父様がそれぞれ複雑そうな顔で控えている。
私は公爵様が言葉を発する前に慌てて立ち上がると、メリダとレオネルを庇うように腕を広げた。
「アレイスター様、グリフィス伯爵、父様、折角の場を騒がせてしまってごめんなさい。でも、レオとメリダの事は必要以上に叱らないでほしいの」
「……しかしだね、ティアラ。何があろうと一つの婚約を、契約を打ち壊してしまったのは事実なのだ。公爵家として看過できるものではない」
アレイスター様の後ろでグリフィス伯爵も深く頷いていらっしゃる。口を挟まないのはこの場をアレイスター様に任せる意図だろうか。
父様に視線を遣ると、父様は仕方無いというように肩を竦め、私をじっと見つめて小さく微笑み頷いた。対応を任せてくれるようだ。
私は深く息を吸い込むと、アレイスター様とグリフィス伯爵を順に見つめた。
「私はどうしたって平民なので、メリダと共に学びはしましたが、貴族の方々の面子やそれぞれの家の思惑などはわかりません。でも、これだけは解ります。メリダもレオネルも本来ならこんな事をしでかすような子じゃないです。
多分、今まで私に言い出せなかったんだと思います。言い出せない内に今日を迎えてしまって、こんな事になったんだと思うんです。レオはそういう所不器用だから……」
そう言って、泣きじゃくるメリダに寄り添うレオネルに視線を向けると、バツが悪そうにレオネルは顔を背けた。
「メリダだって、私から見ても淑女の鑑の様な素敵な令嬢です。それがここまで取り乱して泣きじゃくるなんて、何かあったに違いないです。知らない内に私が何かしてしまったのかもしれないし…… 私、父様に人の機微には鈍感だとよく指摘されますから。
アレイスター様、グリフィス伯爵、一度私と彼らで話をさせていただけませんか? ちゃんと理由を知りたいんです。メリダの発言も気になりますし……」
どうか、お願いします。と二人に向けて頭を下げる。
本日の主役とも言っていい、しかも婚約解消を突きつけられた張本人に頭を下げられてしまうと、アレイスター様もグリフィス伯爵も困ってしまったようだった。
そこに割って入ったのは、穏やかな父様の声だった。
「ここはティアラに任せてみませんか? 事情がはっきり解らない上で貴族的な判断を下してしまうと良くないと思うんです。私もティアラと同じく、二人がこんな突拍子もない事をする様には思えない。ここは、一旦子ども達に任せ見守ってやりませんか」
父様の言葉に、グリフィス伯爵はアレイスター様を気にしつつも『オズモンド殿がそういうなら』と頷いてくださった。アレイスター様は低く唸ると、大きく一つため息をついた。
「ティアラ、頭を上げなさい。わかった、一旦君に任せよう」
「ありがとうございます! アレイスター様! グリフィス伯爵!」
「では落ち着いて話せるよう応接室を用意しよう。いや、温室の方がいいかな。私達は別室で待機していよう。
皆さん、愚息の突飛な行動でお騒がせしご迷惑をおかけして申し訳無い。引き続きガーデンパーティーを楽しんでくれるとありがたい」
そう一礼して、グリフィス伯爵は使用人達に温室や待機する部屋の用意を言付けると、アレイスター様と父様を連れて本邸の方へ向かっていかれた。
私達はメイドに促されるまま、ふらふらと覚束無い足取りのメリダを両側から私とレオで支え、温室へと足を運んだ。
その間、私達の間に言葉は一言もなかった。




