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三十年目のティアラ 〜公爵令嬢と半分ずつ育った私は、親友の涙の理由を知らなかった〜  作者: 伏町 よい


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特別な名前と私達の関係

 

 私達の暮らすフルア王国では、生まれた子供の名前は生後七日目の洗礼の日に神官が引く神籤で決まる。

 昔、英雄や聖女と同じ名前をつけたがる人が多すぎたからだ。

 同じ名前の人間が溢れた結果、爵位の高い家が低い家に改名を迫ったり、人違いで相続でも揉めたりして役所や色んなところが大混乱になったらしい。

 だから今は、名は神からの賜り物であり、同じ名前は三十年間空かなければ使えない決まりになったそうだ。


 そして私の生まれる三十年前。数多の奇跡を起こし人々に愛された大聖女ティアラが亡くなった。

 私の生まれた年、その名前が空いた。

 その結果、王国は空前のベビーラッシュで女の子が倍ほど生まれたそうだ。縁起担ぎって怖い。

 そして誰もがあやかりたかった大聖女の名を賜る籤を引いたのが、うちだった。


 平民のオズモンド家。


 ヴァルディア公爵家じゃなかった。

 同時期に娘を産んだエヴリン公爵夫人は、その時一度心を壊してしまったらしい。


「ティアラでないなら、私の子ではないわ」


 ティアラの名を強く、強く望んでいた夫人は、そう言って生まれたばかりの娘を抱こうとしなかった。その娘が、メリダだった。

 そんな妻の様子に困り果てたアレイスター公爵様は、父様のところへやって来た。何日も眠れていない顔で、そして父様に頭を下げたそうだ。


『どうか助けてほしい』

『このままでは妻も娘も危うい』

『馬鹿げた提案だというのは理解している。だがどうか、一日置きに、互いの家に娘達を預け共に育ててくれないか。私達もティアラ嬢に関わらせてほしいのだ』


 公爵が平民に頭を下げるなんて、本来ならありえない。

 でも父様と母様は、憔悴したアレイスター公爵や母親から目を向けられないメリダが不憫で引き受けることにしたのだ。二人に同じ教育を受けさせることを条件として。


 だから私たちは令嬢と商人として半分ずつだったけど、得たものは二倍だった。

 私は公爵家で礼儀や歴史を学んで、メリダは商会で物の流れや帳簿付けを学んで。

 一緒に食べて、一緒に遊んで、一緒に怒られた。


 その内ヴァルディア公爵家の寄り子で、領地が隣のグリフィス伯爵家のレオネルも同じ年だということで一緒に遊ぶようになり、王都の公爵家の広い庭には私達三人の笑い声がしょっちゅう響くようになっていた。


 私がこの奇妙な関係に疑問を持ち、両親から経緯を聞いたのは十二歳の頃だったか。

 けれど、商売関係以外で深く考えるのが苦手な私は、ふぅんそんなこともあるのね、でもメリダと一緒に居られて良かった!と楽観的だった。

 そしてその頃になると、双子の姉妹のように一緒に育ってきた私達もそれぞれに得手不得手が顕著に現れるようになっていた。


 私は帳簿や決算報告書が好きだった。だって数字は嘘をつかないから。

 父様譲りの商才もあったようで、特に新規販路の開拓や金と物の流れに対する嗅覚が鋭く、面白がった父様によって子どもながら意見を求められたりしていた。


 メリダは人と話すのが上手で、人を笑顔にするのが得意だった。侍女も使用人も、メリダに関わる人達は気付けばみんな笑っていた。

 よく気が付き、場を整え、和やかな雰囲気に持っていきつつもしっかり噂話を拾ってくるメリダは、流石生粋の公爵家のお嬢様だった。


 そしてレオネルは真面目だった。真面目だけれど、考えや思いを上手く言葉にできない、頓珍漢な発言が多い所はお馬鹿だった。

 私達は何となく言いたいことがわかるからいいけれど、使用人達に『ほら、あれだ、その、あれなんだよわかるだろ?』と言ったところで首を傾げられるのは仕方が無いと思うのよ。


 でも、あの頃は何も疑わなかった。ずっとこうだと思っていた。

 私とメリダは姉妹みたいなもので、レオネルもいて、この関係がずっと続くのだと思っていた。


 ただ、今思えば。本当に小さな違和感は、昔からあった。

 ある日の午後。私は公爵邸の廊下を歩いていた。

 少し先で、メリダがエヴリン様に新しいドレスを見せていた。

 エヴリン様は私達が成長すると共にお心も落ち着いたらしく、両親に話を聞いた頃には昔そんな事があったなんて思えないくらい、メリダのことをとても大切になさっていた。


 こちらまで声は聞こえなかったけれど、スカートをふわりと翻すメリダに柔らかく頷いたエヴリン様は微笑みを浮かべてメリダの髪を撫でていた。

 それを嬉しそうに受けていたメリダだったけれど、でも、私は見てしまった。

 ぼんやりと遠くを眺めたエヴリン様の口元が何かを告げるように動いた後、メリダの空色の瞳が、悲しげに伏せられたところを。


 ……私はその時の違和感をそのままにしてはいけなかったのだろう。

 その後私と合流してマナーのレッスンを受けていたメリダはいつもと変わりがなかったから。

 きっと公爵令嬢には平民には解らない何かがあるんだろうと、その時は気付かないふりをしてしまったのだ。

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